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第二編『間違い探し』/プロローグ「エピローグ:白戸 咲子様」

拝啓

桜花の候、いかがお過ごしでしょうか。

もうあれから一年と少しが経ち、また暖かい春が来て四月になりましたが、僕は相変わらずです。お元気でしょうか。お元気なことを願うばかりです。

神田川の桜も満開に咲き放っており、少々頭を抱えてしまうほどに綺麗であります。あの桜並木を共に見上げ歩いた日のことを懐かしく思います。今でも時折、いや本当のことを言うと毎日、貴女とのあの長いような短いような約一年間の日々を思い出します。

そういえば大学ご卒業おめでとうございます。どんな企業に就職するかは存じ上げませんし、就職したことも今後する予定もない僕の言葉で恐縮ですが、新社会人、ご無理しすぎず、頑張ってください。


そろそろ本題に入りますが、まあ大したことでもないと思いますが、貴女にとっては頭にはてなが浮かぶようなことやもしれませんが、今日はお別れを言おうとこの手紙を書いております。

わかります、もう一年以上も前に別れただろうと思うでしょう。まあ事実そうなのですが、なんと言いますか、まあなんとも上手く言えないのですが、とにかくお別れを言わせてください。そしてこれが最後の手紙になります。


昨年の三月、貴女と別れてから今日まで色々なことがありました。芝と金沢と男三人で酒を飲んで無意味なことに盛り上がったり、金沢と男二人で花火大会へ行ったり、青春ロードムービーみたいなことがしたいと男三人で無計画に車を走らせたり、男三人でクリスマスを過ごしたり、一人で色々思い出したり。

あ、そういえばこの前、芝がドラマにちょい役で出ていたのですが見ましたか?もう何度か見てる光景なのに、やはり知り合いをテレビの中で見るというのは不思議な気持ちになりますね。しかしあの野郎、ドラマに出た後えらく自慢してきて「あの女優がクソ可愛かった」だの「あの俳優と喋ったんだよ」だの、鬱陶しさに拍車がかかっており腹が立つばかりです。

金沢はようやく大学を卒業し、ようやく少しのバイトだけは始めたようですが、未だ親御さんから大量の仕送りを貰っており、これまた腹が立つばかりです。何故あのような人間が金に恵まれているのか、この世の理不尽さに対してもまた腹を立てています。


すみません、話が脱線しましたが、まあ先程も言った通りやはり僕は相変わらずです。

あと久しぶりに小説を書き始められそうです。いつかデビューして貴女の手に僕の書いた本が渡ることを願ってやみません。たまに自信をなくすこともありますがなんとかやっています。

そういえばこの前、金沢が大寝坊こいて待ち合わせに二時間も遅刻してきやがりました。その後飯を奢ってくれたものですから許しましたが。財力というのは偉大ですね、腹が立つばかりです。しかも己の財力でなく親の財力ですし。


すみません、またえらく話が脱線してしまいました。

そろそろ本題に戻ります。と言ってもまだどんな言葉を書こうか思いついていないのですが。すみません。どうにか書いていきます。



じゃあまずは謝らさせてください。

コンビニでお酒やお菓子を買って夜の誰もいない公園のベンチでお酒を飲んだことがありましたよね。珍しく綺麗に星が見えたあの日のことです。あの時、貴女の買った六個入りのアイスの一つを黙って勝手に食べたこと、本当に申し訳ありませんでした。

貴女は僕がちょうだいと言えば素直にくれただろうに、ごめんなさい。

二十過ぎた大人であるはずの僕が貴女の部屋でちょびっとだけ寝小便をしてしまったこと、ごめんなさい。

対戦ゲームで僕が貴女に勝った時「うぇーい!」なんて言っておちょくったこと、ごめんなさい。

貴女が学校やバイトで疲れているのに、無理にデートに誘ったこと、ごめんなさい。

貴女のバイト先の男の人の悪口を言ってしまったこと、ごめんなさい。

僕がお金がない時、お金を出させてしまったこと、ごめんなさい。

喧嘩になった時、酷いことを言ってしまったこと、ごめんなさい。

幸せにすると言ったのに、結局それが嘘になってしまったこと、ごめんなさい。


そして次は感謝をさせてください。

コンビニでお酒やお菓子を買って夜の誰もいない公園のベンチでお酒を飲んだことがありましたよね。珍しく綺麗に星が見えたあの日のことです。あの時、貴女の買った六個入りのアイスの一つを黙って勝手に食べたこと、本当は気づいていたのに気づかないふりをしてくれてありがとうございました。

二十過ぎた大人であるはずの僕が貴女の部屋でちょびっとだけ寝小便をしてしまった時、笑ってくれてありがとうございました。

対戦ゲームで僕が貴女に勝った時「うぇーい!」なんて言っておちょくったのに、その後もゲームに付き合ってくれてありがとうございました。

学校やバイトで疲れている時でもデートの誘いに乗ってくれてありがとうございました。

貴女のバイト先の男の人の悪口を言ってしまったのに、一緒になって悪口を言ってくれてありがとうございました。

僕がお金がない時、なにも言わずにお金を出してくれてありがとうございました。

喧嘩になった時、酷いことを言ってしまったのに、すぐに許してくれてありがとうございました。

幸せにすると言ったのに、結局それが嘘になってしまったのに、最後、別れる時、なにも言わずに笑ってくれてありがとうございました。

僕を好きになってくれてありがとうございました。



色々思い出して書き過ぎてしまいました。少ない言葉で思いを伝える方が多分カッコいいと思うので、もういっそここまでの言葉を全部消して書き直してやろうかと思いましたが、僕ははなからカッコよくなんてないのでこのままにしておきます。


あの日、笑ってサヨナラしてから間違い探しをしていました。えらく長い間、探していました。

結局いつも全然わからなくて、現実逃避に走るばかりで、もしや全てが間違いだったのではと思ったりもしました。それでもなんとか、間違いを探し当てました。どうです、すごいでしょう。


結局なにが書きたいのかわからなくなってしまいました。相変わらずでごめんなさい。

まだまだ書きたいことはいっぱいあるのですが、このままだと永遠に書き続けてしまいそうなのでそろそろ終わりにします。



僕はいつか来る小説家になりし日を夢見て、見据えて、とりあえず自分の道を走ってみようと思います。貴女と別れて一年以上が経ってから言うセリフなのかはわかりませんが、僕はもう大丈夫です。


そしてこれも貴女と別れて一年以上が経ってから言うセリフなのかはわかりませんが、僕は貴女が好きでした。

ではそろそろ。


さようなら、どうかお元気で。

                         敬具


                        竹野 敦

白戸 咲子様

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