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本当の事


 「サー君大丈夫?結構しっかり嚙まれてるけど・・・。」


「後で治癒魔法かける。・・・おら、寝てろ。」


トリスタンが、イゼットの首の後ろに強めのチョップを一発。

カチッと音がして、イゼットは動かなくなった。

よく見ると、彼の首のあたりに、前後に倒すタイプのスイッチが付いている。


「・・・・!精神異常抑制スイッチ・・・!

 まさか、イズター様は・・・。」


「ああ、仮釈放中の少年犯罪者だよ。

 初対面の時は、GPS付きの金属製チョーカーもしてた。」


「分解しちゃったから、今は脱獄囚だね。

 楽しかったなぁ、外したチョーカー粉々にするの♡」


 説明しよう。精神異常抑制スイッチとは、この物語の舞台である

大陸の北東部にある王国、デビズの高等技術を結集して作られた

その名の通り、精神異常を抑制する為のスイッチである。


大陸では主に、凶悪犯罪を犯したが反省する気のない者、

もしくは精神がぶっ飛んでてヤバい者の首近くに

機械を埋め込み、常にスイッチをオン、つまり、機械を起動されている

状態にさせる事で、社会復帰などを進める目的で使用される。


フレムが壊したチョーカーは、スイッチの誤作動を防ぐ為に

付けられているもの。つまり今のイズター(イゼット)は、

この二人に人格操作の権限を握られている状態なのである。


イズターの人格に戻ったであろう彼を、近くにあったベンチに置き

トリスタンとフレムはリフェルに近づく。


「ねえ先生、何で僕たちがこんな事したか分かる?」


「・・・全く心当たりがありませんね。報酬額が不満でしたか?」


「しらばっくれるつもりか?証拠はあるんだぜ?()()()?」


トリスタンが乱雑に地面に叩きつけたのは、微塵も動かない

数人の男性。全員ばらばらの服装をしているが、一つ共通点がある。

手首に、青いミサンガの様なアクセサリーを付けているのだ。


リフェルの顔から、笑みが消えた。


彼がここに来た本来の目的、それは《アシンメトリス》の行動把握、

監視、現在の組織の状況などを彼に報告していた、部下達の安否確認。

この様子の部下達では、報告どころか帰国も難しいだろう。


「お前と手先共が居場所チクるせいで、こっちは

 迷惑してんの。いい加減止めろ。」


「それはできません。私は、あの方の

 命令には背かないと決めておりますので。」


「命令聞いてばっかで辛いくせに。もっと肩の力

 抜きなよ。全部捨てて、楽になればいいじゃん。」


肩に優しく置かれたフレムの手を払いのけ、

リフェルは毅然とした態度で答えた。


「ほう、なら簡単ですね。お二方が私の言う事を

 聞いて下さるだけです。」


 手に構えた剣を、まっすぐ元教え子二人に

振り下ろす。二人はさっと避けて空振ったが、すかさず

横に回すが、それも二人には当たらない。空を飛んでいるフレムが

小型のナイフを容赦なく投げまくるわ、トリスタンは見失うわで

走り回るだけのリフェルは、かなりピンチに見える。


「アハハッ!ほらほら斬って?逃げてばっかじゃん先生。

 トドメさしちゃうよ?」


「・・・貴方こそ、油断は禁物ですよ。」


フレムが大型ナイフを取り出そうと攻撃を止めたその隙に、

リフェルは左手をフレムに向け、青い魔方陣の様な模様を出現させる。

50㎝程のそれに手を突っ込み引っ張ると、フレムの体が

ものすごい勢いで彼の数メートル前の地面に落ちてきた。


何が起きたか分からないフレムがよろよろと

立ち上がった時には、もう既にリフェルに正面から

斬られていた。


荒い呼吸でリフェルを見つめるその目は、怒りと驚愕が

入り混じっていた。


「どうです?煽ってた相手に地面に落とされて

 正面から斬られた気分は。」


「ふざ・・・けんな・・・!重力魔法使うとか・・・!」


「そんなもの使っていませんよ。トリスタン様なら

 何か分かるかもしれませんね。」




「ワープ魔法と空間操作魔法の組み合わせ、だろ?

 何やってくれてんだ俺のパートナーに。」




リフェルの意識は、そこで途絶えた。


~~~


それから約数時間後、リフェルはウルガノールの診療所の一室で

目を覚ました。ベッドの上で横たわる自分、そしてその自分に巻かれた

包帯と、不規則に襲ってくる激痛で、何をされてどうなったかは大体察した。


「気が付いたね。」


リフェルの病室に、医者と思われる人物が入ってくる。

見た目はどう見ても大型スライムに乗った幼稚園児だが、

この診療所で所長を務め、大陸でも三本の指に入るであろう名医

ゲルト・シャーティ、御年680歳(人間だと68歳)である。


「森で見つけた時はダメかと思ったよ。体中穴だらけで真っ黒こげ。

 内臓にダメージが無いのが不思議なくらいだ。」


「・・・そうですか。・・・っ!あの子は・・・!」


「ルーゼ君は大丈夫だよ、スミレちゃんが見に行って

 くれてるから。」


「ああ・・。」


スミレとは、リフェルの同期に当たる女性の戦闘員。

女性のみで構成されているウルガノール特殊部隊、

(くれない)班の総指揮官補佐である。

なぜかルーゼは、彼女には逆らわないのだ。


包帯を交換しつつ、ゲルトが何の気なしに

リフェルに話しかけた。


「そう言えば、鯉が一匹食べられてたらしいけど。」


「何色ですか?!今すぐに帰らせてください!!!

 金色だったらマズいんです!!!」


「わっ!!待って待って!黒!!黒だって!!

 傷口開くし包帯巻けないから落ち着いて!」


「黒・・・・!!!白混じってませんでした?!」


「そこまで知らないよ!もうすぐヒューラと一緒に来るから

 その時に聞こう?!ね?!」


「陛下が?!」


「あ、落ち着いた・・・。」


~~~



ヒューラ・グロネラムド。約300年前、無法地帯状態だった

大陸北部をたった一人で制圧、横暴の限りを尽くしていた

当時のウルガノール王を追放、ボロボロになっていた国を

妻であるラフィナ、友人だった医者のゲルト、同じく友人であり後の

紅班総指揮官カーベリーを招いて復興させた現ウルガノール国王。

リフェルが電話で情報を報告していた人物がヒューラである。


 その強大な魔力故、普段は黒い布で目と手足を覆っているため

見た目はかなり不気味。布が風にはためく様はまるで死神だが、

人望は厚い。


現在彼は、酷いけがをしたリフェルの見舞いのため

先程紹介したスミレとともに診療所まで来ていた。

もちろんルーゼも、スミレに抱っこされている。


「リフェル。だいぶ回復したようだな。」


「心配をおかけし、申し訳ございません。

 スミレさんも、ありがとうございます。」


「もう、心配したんだから!ルーゼ君も、さみしかったよねぇ?」


「サカナオイシカッタ!」


「!!!スミレさん!!鯉の模様は?!」


「うーん、だいぶ食べられてたから曖昧だけど、

 黒地に白が混じってたのは確かね・・・。」


「う・・・・・・ルーゼ・・・!」


アウトの個体だったようだ。


リフェルがルーゼを尋問しようと身を乗り出したその体を

ヒューラは右腕一本で止めた。


「なぜっ・・・!」


その先の言葉が出なかった。ヒューラの腕には深々と

ナイフが刺さっているのだから。

その痛みにも、流れる血にも一切ひるむことなく

その視線を入り口に向けている。

────入口に立つ人物は不服そうだが。


「ちょっとぉ、邪魔しないでよ。」


「ケガ人に躊躇(ためら)いなく凶器を投げる者に言われたくはない。」


「見ないうちに大きくなったね、フレム君。」


ゲルトの一言に、フレムは不敵に笑う。ほんわかした雰囲気が一瞬で

凍り付いた。ちなみにルーゼはどさくさに紛れて脱走しようとしたのがバレ、

ゲルトの乗るスライムに拘束されており、何とか出ようと腕をぶんぶんしている。

事の重大さは分かっていなさそうだ。


「そんな怖い顔しないでよ。ナイフ投げたのは頭に当たったら

 面白いかなって思っただけだし。はいこれ、サー君からの手紙。」


フレムはヒューラに手紙を渡し、いなくなった。


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