チェイス
一方、リフェルとトリスタンは
異世界のアジトに戻っていた。先程まで騒ぎまくっていた
ルーゼが、電池が切れたかのように眠ってしまった
のだ。
「自由だなコイツ。」
「それが子供ですから。」
すうすうと寝息を立てるルーゼの顔に笑みが浮かぶ。
良い夢でも見ているのだろうか。
「助けに行かないんですか?仲間なんでしょう?」
「いけるんじゃねぇの?フレムいるし。」
~~~
一方、当の彼らは、ブチギレ状態グリフォンに追いかけられていた。
ひなを巣に戻しさっさと退散しようとした所、フレムが
ひなの足を踏み、その鳴き声に可愛いわが子を探していた
親グリフォンが反応。エレーナとエリーナは、かなりマズい
状況になる事を素早く察し、ひなを返して逃亡という名の帰宅。
現在に至る。
「おいおいおい!!やべえよ!すぐ後ろまで来てるって!」
「わぁ超近ーい♪」
「お前責任とか感じねえのかよ?!」
「全く。なった事はしゃーないじゃん。」
なんだか楽しそうなフレムを心底恨みながら、イズターは
ひたすら逃げ続ける。一方のグリフォンは疲れるどころか、
スピードをぐんぐんと上げている。
「何とかしろよ!追いつかれる!!」
「んー、確かにそろそろヤバいかな。」
グリフォンは、足を止めれば確実に攻撃が飛んでくる
距離まで近づいている。しかし、それは
こちらの攻撃が当たるチャンスでもあるのだ。
「イズター、先行ってて?すぐ行くから。」
「・・・!派手にやりすぎるなよ!?
お前の、やりすぎたら二次被害の方が
ヤバくなっからな!」
「はいは~い。」
イズターを先に行かせ、フレムは足を止めて
グリフォンの方に体を向けた。
「これ以上は~・・・ダ~メ☆」
パチンッ
指を鳴らす音と共に、グリフォンの目の前の空気が
小爆発を起こした。その熱と光の強さにグリフォンは怯み
ひなたちの元へ戻って行く。
フレムが使ったのは、彼が持つ固有魔法。
固有魔法とは、その名の通り、それを持つ人物しか使えない
強力な魔法の事である。フレムの場合は、彼を中心とした
半径100メートルの範囲内の気体、物体の温度を
自由に操る魔法だ。
先程の小爆発は、フレムがグリフォンの顔面近くの
気体の温度を上げたからである。
「・・・グリフォンって、意外とビビり?
軽く爆発させただけなんだけどなー。
まいっか。帰ろ。」
~~~
数十分後。
「ただいまー♡」
「お帰りなさいませ・・・二人程足りませんが。」
「いやーそれがさ・・・。」
イズターが先程起きた事を二人に説明する。
「・・・・・イズターお前戦えよ。」
「俺持ってねーもん!固有魔法!
あーもうマジで疲れた・・・。」
「ウァア・・・?」
「おぉっと起きるな~?」
起きかけたルーゼの目を素早く隠し
その上からブランケットをかけ、背中を優しく
とんとんするイズターは、もう一人の親の様。
そのおかげか、ルーゼがアジトで目を覚まして
騒ぎ出す、なんて事は起きなかった。
~~~
穏やかに眠るルーゼを抱き上げ、リフェルはアジトを後にする。
そして、その右手には白い手鏡の様なもの。
これは魔鏡と呼ばれる、魔法で電話やメッセージを
送る機械である。異世界版のスマホ、といったところだろうか。
帰宅用ポータルを作っておいた公園に着くと、
リフェルは魔境を耳の近くまで浮かし、誰かと会話を始めた。
「もしもし・・・はい、一人仲間が増えていただけで
他に変わりはありません。・・・人間です。
ごく普通の。今の所、特に問題行動等の報告は
・・・すいません、後ほどご報告いたします。」
リフェルは通話を終わらせ、後ろに立っている人物に
向き直る。
「何かありましたか?イズター様。」
「・・・かぁ・・・のはぁ・・・?」
イズターは少しうつむいたまま、小さく何かつぶやいている
様子が明らかに違っている。ひとまずルーゼを
自分の屋敷に転送し、もう一度。
「イズター様、ご用件は」
「らあぁああぁあああ!!!!!」
雄たけびを上げ、イズターが何かをリフェルに振り下ろす。
とっさに剣で受けたそれは、本物のライフル銃。
困惑するリフェルの目に映るその様子は、
異常としか言いようがなかった。
<何が起きている・・・?!先程までの温厚さは演技か?!>
「驚いた?先生。」
無邪気な声が、頭上から聞こえた。
見ると、フレムとトリスタンが仲良く手をつなぎながら
自分とイズターの戦闘を見ているではないか。
「・・・!?どういう事ですかっ・・・これはっ?!」
「二重人格なんだよ、イズター。
今出てる人格はイゼットって名前でね、
すっごい好戦的なの♪」
「足止め頼んだだけだからな、俺たち。」
この二人、かつての家庭教師が大ピンチだというのに
なんだか楽しそうである。
「かははっ!アンタやるなぁ!もっともっと楽しませて
くれよぉ!!!」
「イゼット、それくらいにしとけ。」
「あぁ?!知らねえよ!もっと戦わせろ!!」
「はい、おしまいっ。」
フレムが無理やりイゼットをリフェルから引き離し、
トリスタンが素早く縄の様なもので拘束する。
負けじとその腕に歯を食い込ませるイゼットの目は
完全にイかれていた。