変わった客③
テーブルの上は、思った以上に早く、皿だけになった。
「すごーい!結構作ったはずの料理全部なくなったぁ!」
「大部分食べたのはこの子ですけどね・・・。」
四人の視線は、リフェルに抱かれてうとうとするルーゼに注がれる。
テーブルに所狭しと並んだあの料理の大半が、この小さな体に
入っているのだから驚きだ。
ルーゼがすうすうと寝息を立て始めると、リフェル優し気な
眼差しは、スッと真剣になった。
「さて、そろそろ本題に入りますかトリスタン様。」
「そうだな。」
「ん?夕食会で終わりじゃねえの?」
「夕食会は、ルーゼを大人しくさせるためなのでこれといった
意味はありませんよ。それにしても・・・イズター様は
トリスタン様を少しも疑わないのですね。」
「どこを疑うんだよ?確かに、仮面付けてるし
たまに物騒な事言うけど。」
「この世界の普通の人は、嬉々として人を殺す
狂人の恋人を持ち、時に自分も犯罪に手を貸したり、
能力の強さが桁違いだったりはしない思いますが。」
笑みを浮かべるリフェルのその言葉に、イズターの心臓は
跳ね上がった。確かにそうだ。
トリスタン自身がそれが当たり前のように
過ごすので、いつの間にかそれが当たり前の様な
気がしていたのだ。
「おや、怖がらせてしまいましたか。そんなつもりは
なかったんですが。」
「べ、別に?!ビビってねーし?!」
~~~
「おっと、随分と本題からずれてしまいました。単刀直入に聞きます。
・・・・・人間界にワープホールを繋げたのは、なぜです?」
リフェルの顔が、また真剣になる。もちろん、トリスタンはそんなの
気にせず、さらりと。
「面白そうだったから。」
「・・・相変わらずですね。こちらからすれば好都合ですが。」
「何が?」
「実は、この世界の魔物の一部が、人間界に流れてる
らしいんですよ。それを狩って頂きたくて。」
「またかよ。今度は誰だ?アイツか?」
「あの馬鹿は監視が付きました。」
「じゃあ、コイツ?」
「ルーゼは魔物を見つけたら即座に口に入れる子です。
この前なんか近くの森にいたオオカタツムリを・・・っ!」
その先を言おうとしたリフェルの顔のすぐ横を、何かがかすめた。
トリスタンがキッチンにあった包丁をぶん投げたのだ。
「・・・外したか。」
「・・・すいません。」
トリスタンは十歳の頃、ナメクジだらけで有名な沼に落ちて以来
ナメクジやカタツムリの様な生き物が死ぬほど嫌い。ブチギレるのも
当然である。
リフェルは壁に刺さった包丁を回収し、フレムに渡そうと
彼に近づく。
「先生やっちゃったねぇ♪サー君怒らせちゃったねぇ♪
ふふふっ♡」
「煽ってるんですか?効きませんけど。」
「言い方がキレてんじゃ~んアハハッ☆
ふぇっひ!ほえんっへ!やめへ!ほっへひっはん
はいへっ!はひゅはひぃはや!」
「・・・トリスタン様?なぜカメラを構えているのですか?」
「っ!・・・で?今はどういう状況?」
「結果から言えば、かなりマズい状況です。壊れた結界の
場所が分かってないので。」
リフェルはフレムから手を離し、はぁ・・・・とため息をつく。
事は思った以上に深刻そうだ。
「なるほど、それで魔物の数が段々多くなってって、
処理が追い付かなくなってさぁ大変ってことか。」
「ええ。少しでも魔物を取り逃がせば、
人間界側の人間がこちらの存在に気付きかねない。
そうなる前に、何としてで止めなくてはならないのです。
それに・・・。」
「それに?」
「庭の手入れと見張りができません!!!」
リフェルは目を見開き、おそらく今日一番の大声を出した。
フレムの腕の中で眠っていたルーゼがびっくりして起きてしまった程だ。
その事には気づいていたが問題なしと判断したのか、
リフェルは続ける。
「もう三日も帰れてないんです!!こうしているうちにも
あの美しい庭園が魔物や馬鹿共の宴会場になってたりしたら!
あああもう・・・。」
「お前あの庭どんだけ好きなんだよ。」
トリスタンの声には呆れが滲んでいる。
リフェルの家の庭は日本庭園風で、
かなり熱を入れているおかげか非常に美しい。
彼が夕食会の時にも言っていた通り、その庭を彼自身も
とても気に入っているのだ。
「代金はしっかり払いますので!どうか、私の庭の平和と
我々の存在の隠蔽の為にご協力を!」
「しれっと私情入ってんぞ。・・・俺は別に構わないけど。」
そう言ったトリスタンの顔が、フレムとイズターに向く。
何かを聞くかの様に。
「僕は賛成。楽しそうだし♪」
フレムは笑っている。
「マジかよ・・・・でも、やってみないとどんなのか
分かんねぇし、オレも行く!」
イズターは覚悟は決めているが、少しビビっている。
「ンム・・・・。」
ルーゼは二度寝。
その様子を確認し、トリスタンはリフェルの方へ向き直る。
「双子の方にも声はかけとく。場所は?」
「ご案内しまs」
「イテッ。」
フレムの発した小さな声にトリスタンは素早く反応。
ルーゼがフレムの指を噛んだだけなのだが、
トリスタンにとっては大事件である。
「おいクソガキ・・・自分のやった事の意味
分かってんのか・・・?」
「あ、ヤバい奴だコレ。」
「サー君!首はダメ!!」
結局この日は、トリスタンをなだめて
終わるのだった。