プロローグ
車寄せから学び舎まで数十メートル。
春の風に煽られて、浮き立つような心持ちの生徒たちが歩道に散らばる。
入学式に出る私は、朝っぱらからこの浮かれた人混みに紛れていた。他の令嬢たちと同じように振り返り、後方から歩いてくる煌びやかな貴人に視線を向ける。
生徒たちが注目しているのは『緑柱石の君』と密かに呼ばれている人物。
「ベリル様だわ!」
近くを通った令嬢の、興奮を抑えた声が躍っている。
一方の貴人は、注目を一身に浴びているにも関わらず無表情。笑っても怒ってもいない、感情の見えないお人形のよう。
目前をゆっくりと通り過ぎるその横顔を、私は確かめるように焼き付けた。
風に流れるプラチナブロンド。名は体を表しまくっているペパーミントベリルのような瞳。全体的にきらきらした圧を纏っていて、これがオーラってやつか、と実感する。
とりあえず私は、憧れの視線を送る……ふりをした。
冷静過ぎず、はしゃぎ過ぎず、人並みに興味を持ってます。
そう見えるように。
周りの令嬢と同じように。
没個性な『その他大勢』になれるように。
そしてなにより『おもしれー女』フラグを折るために。