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柊様の秘密  作者: 咲紫きなこ
柊様の秘密
9/12

9話

 ある日の土曜日、柊に「僕の家で、ゆっくりしませんか?」と言われた渚咲は、初めて柊の家へと招待された。

 近くの駅で柊と待ち合わせをして、そのまま柊の家へと向かう。

 私服の柊に、渚咲はドキドキが止まらない。

 黒のブイネックシャツに、黒の長ズボンを穿いている。いつもと比べたら特別な服装ではないものの、渚咲は満足していた。

(いつもとは違う色合いでも似合うなんて、さすが柊様だ)

 しばらくして、柊の家に到着した。

 古びた二階建てアパートの二階だ。


「柊様は高級マンションに住んでいるのかと思っていました」

「そうですか。――期待を裏切ってしまい、もうしわけありません」

「いえいえ、大丈夫です! こちらこそ勝手に想像してすみません!」


 会話が終わると、柊はズボンのポケットから鍵を取り出し開けた。ドアを開けると渚咲に向かって「どうぞ」と微笑んだ。


「お邪魔します」


 玄関を通るとそこには台所が広がっていた。

 お世辞にも広いとは言い難いが、その空間は外観からは想像できない程綺麗にされていた。

 長方形の机があり、椅子が二脚ある。

 そこから真っ直ぐ進むと居間が広がっていた。

 大きなブラウン管テレビに、こたつが置いてあった。

 そこを抜けると布団が敷いてある部屋があり、そこを抜け、襖を開けると、ものすごく小さな部屋があった。

 いや、部屋と呼んで良いのかわからないが、一応ソファーと机が置いてあり、普段学校で柊が着ている赤いブレザーや黒いカバンが置いてあった。

 傘付きの電気から垂れた紐を柊が引っ張ると、オレンジ色の鈍い光が辺りを照らした。


「狭いかもしれませんが、ここが僕の部屋なので、優葵さん、荷物など置いて、そこのソファーで良ければ、くつろいでくださいね」

「ありがとうございます」


 長方形のソファーにはブランケットと毛布が畳んで置いてあった。まさか、柊はいつもここで寝ているのだろうか。


「柊様、ベッドは?」

「えっ? あぁ。僕の寝床は、いつもソファーですよ」

「そこに敷いてあるお布団は?」

「それは……祖父母の物です」

「そ……そうですか」


 踏み込んで良いのかわからない柊の家の事情。渚咲は何と言葉をかけて良いのかわからなくなり、口を(つぐ)んだ。


「今日は祖父母が知り合いの家に泊まりに行くとのことで、僕一人なんです」

「柊様は一人っ子ですか?」

「いえ、妹が居ます。訳あって離れて暮らしていますが、たまに会ったりしますよ」

「そうですか」

「もし優葵さんがよろしければ、呼びましょうか?」

「えっ、いいんですか? ぜひお会いしたいです」


 柊はそう言うと柔らかい笑みを浮かべた後、携帯を取り出しどこかへ電話をかけた。


「もしもし? ゆうこですか?」

「お姉ちゃん、どうしたの?」

「今日は家に僕と僕の恋人が居るのですが、ゆうこに会いたいそうでして。来れませんか?」

「恋人と二人なら二人で楽しめば良いのにー。分かったよ、今から行くね」

「ありがとう。では、待っていますね」

「はーい。じゃあねー」


 電話を終えると、柊は渚咲の方を向きOKマークを手でやってみせた。

 渚咲はそんな柊の様子に笑って答えた。


 しばらくして、柊の妹である裕子がやって来た。

 自己紹介を済ませた後、渚咲は裕子の事を少し聞いた。

「どうして離れてくらしているの?」と問えば、裕子は「訳あって、今は友達の家に住まわせてもらっているの」との事だった。


「せっかくならお鍋食べようよ! 具材買ってきたんだー」


 裕子はビニール袋から野菜やお肉を取り出すと、台所にある冷蔵庫にどんどんしまっていった。


「ゆうこ、ありがとう」

「良いって」


 二人は仲が良さそうだった。

 渚咲はどうして二人は一緒に住めないのだろうかと、内心では気になって仕方なかった。 だが、聞く勇気がない。


 夜になり、お鍋を囲みながら三人で談笑している時だった。

 《ガチャリ》と何かが開く様な音がした後、柊の動きが止まった。そして裕子の動きも止まった。

 何事かと二人を交互に見る渚咲だったが、玄関の方から音が聞こえてきたので、そちらに視線を向けた。


「おい、かえったぞ」

「おかえりなさいもなしに何して……」


 白髪混じりの頭をした男女二人組と、渚咲の視線が合う。

 きっと叔父と叔母だろうと思い、渚咲は挨拶をした。


「お、おじゃましております」

「あなた……誰?」

「おい、裕香、どう言うことだ?」


 渚咲の挨拶を気にもせず、叔父は玄関から中へと入り、柊の近くまでやって来た。


「おかえりなさい。――今日は知り合いの家に泊まるはずでは?」

「そんな事お前に関係ないだろう! 何をしているんだって聞いてんだ」


 荒い口調で柊を責める叔父。そんな様子に裕子が口出しをした。


「帰ってこないと思ったから、お姉ちゃんの友達も呼んで夕飯食べてるのよ。何か悪い?」


 その口の利き方が気に入らなかったのか、叔父は裕子の方へ行き、その右頬を思いっきり叩いた。

 渚咲の心臓は大きく脈打った。

読んで下さりありがとうございます。

よろしければブックマークや評価、感想の方、よろしくお願いします。

次回更新は明日、7月9日の0時からです。お楽しみに。

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