7話
耀侑紫と耀侑璃の事を認め、クラスへと返した後、柊は担任の先生に話があると言った。
「柊さん、話って何かな?」
「小夏美花さんと武神暁くんを、三組から一組に移動させて下さい」
「は?」
その場に武神もまだ居た為、その提案に声を出し目を丸くした。
「わかりました。移動しとくね」
「ありがとうございます」
「良いのかよ」
武神のツッコミを笑顔で無視する柊。
「俺の意見は聞かねぇのか? ひいらぎよぉ」
「たけがみくん、僕は君と一緒が良いんです。ダメですか?」
その場に居る周りの人達から、武神へ視線が注がれる。
「――ダメじゃねぇよ。だけど、小夏のは勝手に決めんな。あいつはあいつで、友達が沢山居るんだからよ」
武神はそんな視線を気にすること無く、自分の意見を言ってのけた。
そんな武神に対して、周りの先生達は何やらボソボソと独り言を呟き始める。
「柊さんの言う事きけないのかよ」
「柊さんの機嫌損ねるなよ」
そんな声に渚咲は居心地が悪くなるが、柊は武神に対して笑顔を向ける。
「たけがみくん……優しいですね。――わかりました。先生、たけがみくんだけを、一組に移動しておいて下さい」
「わかりました」
「ありがとうございます」
それを言い終わると柊は渚咲の右手を握り「教室に帰りましょう。一緒に来てくれて、ありがとうございます、優葵さん」と言って歩みを進めた。
渚咲と柊と武神はそのまま職委員室を後にした。
*
次の日、渚咲は教室に入り教室内を見渡せば、柊と武神の姿が目に入った。
武神は平然と柊の隣の席に座っていた。
自分の席に渚咲が座ると、武神が「おう」と挨拶をしてくれた。渚咲はそれに対して視線を武神の方へと向けると「おはようございます」と返した。
「別に敬語じゃなくて良いぜ」と返ってきた。
柊に対して未だに敬語の渚咲にとって、柊に関わる人達には何故か敬語になってしまうのだ。
柊の方へ視線を向ければ、いつもの優しい笑顔で渚咲を見つめた。そして、手を振ってくれた。
「おはようございます、優葵さん」
「柊様、おはようございます」
「お前らずっと敬語なのかよ……気持ちわりぃ」
柊に対して気持ち悪い等と言えるのは武神くらいだろうと、渚咲は思っていた。
そんな中で、一人の生徒が柊に対して声をかけてきた。
「柊様、今よろしいでしょうか?」
「はい、大丈夫ですよ。どうしましたか?」
「一年の耀侑紫と言う生徒が、柊様を呼んでいます」
「耀くんが? わかりました。今行きます」
柊は席を立ち、教室の外へと出て行った。
廊下には侑紫が立っており、柊の姿を認識すると近寄ってきた。
「おはよう。耀だ」
「おはようございます耀くん。どうしました?」
「お願いに来た。――耀、親友居る」
「ふむふむ」
「白猫のヴァイス」
「なるほど」
「ヴァイスも、学校に登校させてやりたい。――ダメか?」
「わかりました。OKです」
ツッコミを入れる者は居ない。
侑紫は目を輝かせ、柊の手を両手で握った。
「ありがとう! えっと……ゆうくん」
「僕の名前……覚えていてくれたのですね。ふふっ、ありがとうございます」
侑紫はにこやかな笑顔で自分の教室へと帰って行った。
侑紫は次の日から、二年一組に来るようになった。
ついでに兄の侑璃も来るようになった。
侑璃は直ぐに柊ファンになり「柊様今日もかっこいい」と、男子生徒の中でも中々居ない程の熱烈ファンになった。
侑紫は動物が好きだという武神とヴァイスを通してすぐ仲良くなった。
「あかつきくん」と呼ぶ侑紫に対して、武神は気はずかしそうな声で「おう」と返していた。
渚咲は柊の事はもちろん大好きなのだが、みんなで楽しい毎日を過ごしている内に、武神の事も、小夏の事も、侑紫の事も、侑璃の事も友達として好きになった。
そして侑紫のペットである白猫のヴァイスも一緒に登校して来るようになった。
ヴァイスは侑紫にはよく懐いているが、他の皆にはあまり自分から近寄ろうとしなかった。
が、柊がヴァイスの事を優しく見つめ「こんにちはヴァイスさん。僕は柊裕と言います。よろしくお願いしますね」と話しかけると、ヴァイスは自分から柊の元へと寄って来た。
ヴァイスは女の子だと侑紫が言うと「女の子だから柊様のかっこよさがわかるんだよこの子!」と、渚咲はテンションを上げてそう言った。
しばらく経ってから、柊は思った事があった。
ヴァイスとよく目が合う。
ある日、職委員室で先生と話している時、たまたま職委員室にヴァイスが居て、こちらを見ていたので目を合わせた。
いつもは近寄ってくるヴァイスだったが、その時はすぐに何処かに姿を消してしまった。
また違う日、教室で先生と話している時、ベランダにヴァイスの姿があり、目が合った。
その時もまたヴァイスは急いでどこかへ消えてしまった。
柊は何か違和感を感じていた。
いつもは近寄ってくるのに、どうして侑紫が居ない時に会うと近くに寄ってこないのだろうかと。
*
ある日、柊が校長室で校長先生と話している時、柊は外にいたヴァイスと窓越しで目が合った。
ヴァイスは柊と目が合うと、直ぐに居なくなってしまった。
柊はある仮説を思いつき、それを侑紫に聞いてみようと思った。
校長先生との話が終わった後、二年一組の教室に帰ってきた。教室内には武神と侑紫が居た。
ヴァイスは居ない。
「耀くん」
「どうしたゆうくん」
「ヴァイスさんと最近よくお会いします。――ですが、僕と目が合うと、すぐにどこかにいってしまうのです。――もしかしてなのですが、僕の事、何か見はっていたりします?」
侑紫は何も答えない。
「見はってるって、ひいらぎが何か怪しいって事か?」
最初に声を出したのは武神だった。
「なぁおい、何とか言えや」
「――すまない」
侑紫は視線を下に向けながら、そう言った。
「――みんなに嘘をついてるのは、ダメだと思った。そろそろ言おうと思っていたが、今言う。――俺は学生探偵だ。依頼を受けて、この学園にやってきた。それで、ヴァイスの首輪に音声録音機器を取り付け、ゆうくんと先生の話を、聞いていた」
「へぇ……で、探偵さんは何を暴こうってんだ?」
「柊裕という生徒の【秘密】を暴いてくれと言われたので、それを暴こうと……」
その言葉に、武神は怒りをあらわにし、侑紫の胸ぐらを掴んだ。
「てめぇ! それが理由でひいらぎに近づきやがったのかぁ!?」
「そうだ……すまない。――だが、ゆうくんは優しくて……耀、本当に友達だと思ってる」
「んな事、信じられるわけねぇだろうが!!」
怒鳴り散らす武神の肩に手を置いたのは、柊だった。
「やめてください、たけがみくん」
「ひいらぎ……てめぇ、良いのかよ? 裏切られたんだぞ」
「裏切られてなんてませんよ。僕、耀くんから友達になろうなんて、言われてませんし」
「ひいらぎ……」
武神は侑紫の胸ぐらから手を離す。
柊は侑紫の顔を覗き込むと、にっこりと笑った。
「――耀くん、僕は今まで色々な事を周りに言われてきました。その中でも『お金でトップの座を守っているのではないか』それが一番よく聞かれる事です。僕の家はお金持ちではありません。高級マンションにも住んでいなければ、高級車も持ってはいません。ご飯は白米と味噌汁だけという日もありますが、それも悪くありません」
「ゆうくん……」
「おおよそ、そういう相談なのでしょう? さて、話す事は以上です。――ご期待に添える【秘密】でしたでしょうか?」
侑紫は泣きながら、柊の顔を見つめる。
「――最後に聞きたい……こんな事した耀と、友達になってくれるか?」
柊はにこやかな笑顔で答えた。
「わかりました。OKです。――探偵さんはそんなに軽く、依頼人との【秘密】を明かしてはいけませんよ」
そう言いながら、柊は侑紫の頭を優しく撫でた。
「そうだ。今のお話は、僕とたけがみくんとかがやくん、三人だけの【秘密】にしましょう」
「そうだな。――俺はいいぜ」
「――ありがとう。ゆうくん……あかつきくん」
侑紫の笑顔を見た柊と武神はつられて笑顔になった。
夕日が差し込む教室で、三人は笑いあった。
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次回更新は明日、7月7日の0時からです。お楽しみに。