6話
朝、渚咲は教室のドアを開け、教室の中を見渡すと、自分の隣の席に柊がもう座っていた。
自分よりも登校時間が早いのかと知ることが出来た。
(柊様と一緒に登校したいけど、柊様と一緒に歩いているだけでも周りの視線がすごいから、ちょっと怖い気持ちがある)
自分の席へと歩みを進めると、柊と目が合った。
いつも通りの甘いマスク、渚咲に優しい笑みを向け、手を振ってくれた。
「おはようございます、優葵さん」
「柊様、おはようございます」
渚咲は自分の席に座る。
視力が悪いわけではないので、渚咲の席はいつも後ろの方だ。
柊はいつも一番前だったらしいが、渚咲と隣が良いと言い今は後ろの方だ。
カバンの中にある教科書等を机の中にしまった所で、渚咲は柊に声をかけられた。
「これから職委員室に用があるのですが、一緒に来て頂いても良いですか?」
周りからの視線、渚咲はこの時だけはいつも柊を怖いと思う。
「はい、行きます」
「ありがとうございます。――では、行きましょうか」
柊は渚咲の右手を握り、歩き出した。渚咲はそのまま柊について行く。
今日も手は握り返せない。
「失礼します」
二人の声が重なった。
職委員室へと入ると、担任の先生の席へと歩みを進める。
そこには武神の姿と、見慣れない二人の男子生徒と思われる服装の生徒が居た。
「だからよぉ、その服装と髪色、ひいらぎに認めてもらわない訳には許せねぇんだよ」
「君、そんな髪色をしておいて、何を言ってるんだ。耀はいつもこの服装で、この髪色でやって来た」
「そうだよ! 俺達はいつもこの服装で、この髪色だし。髪の色は生まれつきだし!」
「だから……」
「たけがみくん。どうしましたか?」
何やら言い合いをしていたので、柊は声をかけた。
その一言に、担任の先生と武神は柊の方を向く。
文句を言っていた二人も、柊の方に視線を向けた。
「おう。ひいらぎ、おはよう」
「おはようございます、たけがみくん。おはようございます、先生」
「おはよう柊さん。ちょうど良かったわ。――この二人ね、校則の話をしても聞かなくて」
「そうなのですか。――おはようございます。お二人とも、はじめまして。僕は柊裕と言います。この学園のトップをやらせて頂いています。どうぞよろしくお願いします」
柊は自己紹介をすると、その場で二人に一礼した。
「君が柊か。話が早い」
「かっ、かっこよ……」
ショートヘアに菫色の髪をし、白いワイシャツにサスペンダーを右側だけちゃんとせず垂らしてあり、濃桔梗色のネクタイを着用し、黒いスラックスを穿いている長身の人が、一歩前に出て柊を睨みつけた。
「俺は耀侑紫。君、耀の事認めろ」
「なにか理由があるのですか?」
「耀、生まれつきこの髪色」
「ふむふむ」
「耀、この制服似合ってる」
「なるほど」
「良いだろう?」
「わかりました。OKです」
「待って柊さん!」
にこやかな笑顔でOKを出した柊に対し、担任の先生は待ったをかけた。
「どうしました?」
「耀侑紫さんは女子生徒。――女子は女子の制服でしょ?」
柊は驚いた顔をしてから、嬉しそうな顔をした。
「そうでしたか。僕も女なんですよ。ふふっ、かっこいいって良いですよね」
「なっ……そうだったのか。教えてくれて、ありがとう。――耀も、かっこいい好き」
「待って、メイクもしてるし、それに……」
それでも尚文句を言ってくる担任の先生の肩を柊が掴んだ。
「何か問題、ありますか?」
笑ってはいるが、掴む手には力が入る。
職委員室に居る先生達の視線が、一斉に担任の先生に注がれる。
渚咲は自分が見られている訳でもないのに、背中に嫌な汗が流れた。
「ないわ。――柊さんが言うなら、そうよね」
「ありがとうございます」
担任の先生の肩から手を離すと、柊は耀の隣に居るもう一人の方へ視線を向けた。
「次はあなたのお話、聞かせて頂けますか?」
外ハネショートヘアに襟足だけ長い露草色の髪をし、ワイシャツのボタンは第二ボタンまで開けてあり、青色のネクタイをだらしなく垂らしている。ベルトが不必要に複数付いたチェック柄のスラックスを穿いている長身の人は、視線を柊に向けた。
「うん。俺は耀侑璃。三年生でゆうしの兄だよ。転校してきたんだ。俺も生まれつきこの髪色」
「ふむふむ」
「それに、この制服の着こなしかわいいっしょ? 俺に似合ってる」
「なるほど」
「だからいいでしょ?」
「わかりました。OKです」
もうツッコミを入れる者は居なかった。
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次回更新は明日、7月6日の0時からです。お楽しみに。