5話
二年生の春、渚咲は登校し、下駄箱前に貼り出された組分け表を見に来ていた。
自分の組は一組、そして柊の名前を探す。
柊の名前がなかったので、柊は二組か三組だろう。
離れてしまった。
残念に思う矢先、周りの人だかりが一気に横並びとなると、その先から柊がやってきた。柊は渚咲に気がつくと、手を振りそのまま渚咲の元へ歩み寄った。
「おはようございます、優葵さん」
「柊様、おはようございます」
「僕と優葵さんは、一緒の組でしたでしょうか?」
「残念ですが、違う組です」
そう言って渚咲は二組と三組の紙の方を指さしたが、柊は紙を見ずに渚咲の手を両手で握った。
「僕、優葵さんと同じ組が良いです。優葵さんは、どうでしょう?」
周りからの視線、渚咲は下を向きながら答えた。
「それは……一緒の方が嬉しいです。――でも」
「わかりました。では、一緒にしましょう」
そして、柊はカバンの中からマジックペンを取り出すと、一組の方に柊裕と書き加えた。
「はい。これで一緒です。行きましょうか」
柊は優しく微笑みながら、渚咲の右手を握った。
「は、はい」
そして二人は、一組の教室へと向かった。
それから二年一組で最初のホームルームがはじまった。
渚咲の隣の席には、平然と柊が座っている。
先生は柊に話を聞くと、柊はニコニコしながら「僕は一組です。そう書いてあったでしょう?」と答えた。
先生は組分けの紙を見てから「そうですね」と答え、それ以降何も言わなかった。
放課後になり、柊は渚咲に教室に残る様お願いした。柊は違う組に用があるのでと一度出ていった。
皆が教室を後にする中で、渚咲は窓の外を眺めていた。教室のドアが開いて、柊が誰かを連れて戻ってきた。
「優葵さん、紹介します。小夏美花さんと武神暁くんです」
一人は長身でポニーテールをした金髪の女子生徒と、一人は学ランを着た黒髪短髪には赤のメッシュが入っており、橙色のツリ目をした三白眼の男子生徒だと渚咲は思った。
「この人達は?」
「僕の友達です」
「どうもー。ゆうかがお世話になってるねーなぎさきちゃん」
女子生徒の制服を着た方の人が渚咲を見てにっこりと笑った。
「あたし、小夏美花って言うよ。よろしくね」
「よ、よろしく、お願いします」
「なんで敬語なの? 同学年なんだし、気楽に呼んでいいからね」
「あ……ありがとう」
「いつもはテニス部で忙しいんだけど、今日は部活ないからね。顔出せてよかったよ」
「みかさん、ありがとうございます。たけがみくん、お願いします」
男子生徒の制服を着た方が、渚咲を睨みつけるように見つめた。
「俺は武神暁。――ひいらぎに頼まれて、風紀委員してる」
風紀とは何だったのか。と言いたくなる髪色の三人だが、柊が良いと言ったから良いのだろうと思い、渚咲はツッコミを入れるのをやめた。
「ひいらぎを困らせる奴には容赦しねぇ。覚えとけ」
「は、はい……」
「たけがみくんは一年の時途中から休学していました。久しぶりに学校で会いますね。登校してくれてありがとう」
「俺も、お前のおかげで休学できたからな。ありがとな」
武神は柊に対して素直に感謝を述べると、その場で柊に向かって一礼した。
「二人とも、この人は渚咲優葵さんです。僕の恋人です」
「なんで?」
「そういってたね」
冷静な小夏に対して、武神は何故かと疑問をぶつけた。
「たけがみくん、僕はね、僕にはね、優葵さんが必要なんです。分かってください」
「友達じゃダメだったのか?」
「優葵さんが……誰かのものになったらって思ったら……僕、とても嫌で」
「あっそ。――まぁ、お前の事困らせたり、ダメな奴だと思ったら、俺は反対するからな」
「じゃあ、今は認めてくれてるって事ですね。ふふっ、ありがとうございます」
二人のやり取りに渚咲は「この二人が付き合った方が良いのでは? メッシュ赤青で揃えとるしもうできてるんじゃないん?」という思いを抱いたが、何とか口に出さずに抑えた。
そんな渚咲の変な表情を見た柊は「ああ!」となにかに気付いた様で、武神の肩をポンポンと叩いた後、渚咲の方を見た。
「男子生徒は怖いですか? 安心してください。たけがみくんは女の方ですよ」
「別に言わなくてもいいだろうかよ!」
「友達ですから。教えてもいいでしょう?」
「えっ、えー!?」
渚咲は武神が女と言うことに驚きを隠せなかった。
武神の方をガン見してえーと声を漏らす。
そんな渚咲に、武神は声を荒らげた。
「なっ、何ジロジロ見てんだ! ぶっとばすぞ!!」
その後、四人で帰路に着いた。
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次回更新は明日、7月4日の0時からです。お楽しみに。