4話
まさか柊裕が、あのアニメのファンだとは思わなかった渚咲は、驚きを隠せなかった。が、気になってはいたアニメだったので、それを彼女が好きと言うのならば、教えてもらうのも良いかもしれないと思った。
「俺、あのアニメ興味あります! 今度、教えて下さい」
柊の前で俺と言ってしまい、どうしようとあたふたする渚咲だったが、柊は特に気にする事もなく、だが少し悲しそうな顔をした。
「興味を持ってくれて嬉しいのですが、僕はあのアニメを一度しか見たことがないのです。もうしわけありません」
「えっ、あっ!? そうなのですね。全然! 全然大丈夫です」
「ですが、イエローさんの事は大好きなんです。責任感があり、とってもかっこいい人です」
「なるほど! 教えて下さりありがとうございます!」
柊は渚咲の右手を握り、本館の方に体を向けた。
「優葵さん、教室まで送ります」
「えっ!? いや、柊様二号棟で授業ですよね? そんな、悪いです」
「僕のせいで、こんなに遅くなってしまったので。送らせてください」
渚咲は再度携帯を取り出すと、時間を確認した。
授業開始から十分以上は経っていた。
「ね? 行きましょう」
「は……はい」
渚咲は、柊の手を握り返せなかった。
*
それからその日のお昼休み、渚咲の組に柊が現れた。
周りの女子生徒が次々と声をかけていくが、柊はそれを丁寧に断わっていく。そして、一番後ろの窓際の席に座る渚咲に手を振った。
「優葵さん、こんにちは」
渚咲の名前を呼んだ瞬間に、女子生徒の悲鳴がどんどんと聞こえてくる。
「なんで渚咲なの」
と言う強い口調の声等も聞こえたが、何も気にならないくらいに、目の前にいる柊に、渚咲はドキドキした。
そんな中で、一人の派手な女子生徒が柊の肩に触れた。
柊は何事かと後ろを振り返ると、その派手な女子生徒と目が合った。
「柊様ぁー、なんでそいつなんですかぁ? あたしの方が、かわいいですよね? あたしと楽しい話しましょうよー」
そのまま柊の腕に抱きつく派手な女子生徒であったが、その手を柊が掴んだ。
そして、笑顔を向けながら口を開いた
「邪魔なので離れてください」
「はぁ!? なんで」
その言葉を皮切りに、周りが一斉に派手な女子生徒を柊から離そうとして来る。
「離れろよ。柊様の言葉は絶対だぞ」
「柊様を怒らせるなよ」
「あんた、退学になりたいの?」
その言葉に、派手な女子生徒は声を荒らげ、また柊に近づいた。
「はぁ!? こんな事で退学になるわけないじゃん! ばっかじゃないの? てか、地味陰キャの、キモ咲選ぶとか柊様も趣味悪すぎー!」
そのまま軽々しく柊の肩をポンポンと叩くと、柊は派手な女子生徒の手首をグッと掴み、笑顔で口を開いた。
「あなた、名前はなんと言いますか?」
「あたし? あたしは山田絵里香」
「そうですか。山田さん、不愉快な事を言いますね。――あなた、ここに必要ないです」
柊はその場でニコニコと笑みを浮かべながら、手帳を取り出すと、その女子生徒の名前を書き、次の項目に【優葵さんとクラスを離す。それでも優葵さんに何か言ったり何かするのならば停学もあり】と書いた。
柊は笑っているが、空気は殺伐としている事に、渚咲は恐れを感じた。
必要ないと言われた派手な女子生徒は、クラスの皆に教室から追い出された。
教室に静寂が広がると、柊が渚咲に話しかけた。
「うるさい方が居なくなって良かったです。――優葵さん、お昼ご飯、ご一緒してもよろしいでしょうか?」
教室の中の皆の視線が、一斉に渚咲に向いた。
渚咲の背中には嫌な汗が流れた。
「はい。――もちろんです」
「良かった。では、食べましょう」
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次回更新は明日、7月4日の0時からです。お楽しみに。