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柊様の秘密  作者: 咲紫きなこ
やっと会えた
3/12

3話

 柊が一位だと知った渚咲はその場で喜んだ後、柊の姿を探した。

 隣のクラスを覗いてみるが居ない。

 そのまた隣のクラスも覗いてみるが、居ない。

 そんな事をしていると、チャイムが鳴った。教室に先生がやってくる頃だ。

 自分のクラスは一組だが、柊のクラスは確か二組だ。渚咲は二組の先生が来るまで廊下で待った。

 自分のクラスの担任が先に来て「教室に戻りなさい」と言われたが、それを無視して、渚咲は階段の方へと駆け出した。

 階段を降りようとした所で、二組の先生が見えたので、その場で待った。


「あら? もうホームルームの時間になるわよ。教室に戻りなさい」

「あの! 柊様は……柊裕さんは、今日登校していますか?」


 ドキドキしながら、答えを待った。


「柊さんは今日お休みよ」

「――そうですか」


 そのまま渚咲は、自分のクラスへと戻った。


              *


 次の日、渚咲は自分のクラスに行くより先に、二組の教室を覗いた。

 そこには、昨日必死に探した柊裕の姿があった。

 エアリーショートに、青のメッシュを少し混ぜてある髪をしていた。前とは少し違うが、とてもかっこいいと思った。裾近くに王冠の柄が施されている、特別な赤い制服をまとい、トップの証である赤いマントもしていた。

 声はかけられない。いつもそうだ。

 だが、それでいい。

 渚咲は少し柊の姿を眺めた後、自分のクラスへと歩みを進めた。

 そんな渚咲の足元は軽かった。


 渚咲は三時間目の授業が終わり、十分(じっぷん)休憩になったので、外へ飲み物を買いに教室を出た。

 二組は移動教室なのか、教科書と筆箱を持った生徒がどんどんと教室から出ていく。

 そんな人達を追い抜いて、渚咲は外へと出た。

 自動販売機は、本館から出て、図書室や美術室や音楽室がある、隣の二号棟との間にある。

 移動教室の生徒がどんどんと移動していく。

 一瞬でも柊の姿を見れないかと、その生徒達の方へ視線を向ける渚咲だったが、柊は見当たらない。

 眺めど眺めど、見当たらない。

 どんどんと生徒達が駆け足になり、そして二号棟へと向かう生徒は一人も見えなくなった。

 渚咲はハッとしてスカートのポケットから携帯を取り出し、時間を確認する。十分休みがあと少しで終わってしまう。

 急いで飲み物を買い、外から本館へ戻り、階段を駆け上がったところで間に合わない。

 渚咲は急ぐのをやめ、自動販売機を眺めた。

 何を買おうか、そう考えていた時だった。


「あなたのオススメは何でしょう? 僕にも、教えてくれませんか?」


 麗しきその声に、渚咲はドキリとした。そして、ゆっくりと振り返ると、その場には憧れの王子様、柊裕の姿があった。

 視線が交わると、柊は優しく微笑んだ。

 渚咲の心臓は大きく脈打ち、手は震えていた。


「ひ……柊様!?」

「こんにちは」

「こ、こんにちは! えっと……い、いいお天気ですね! じゃなくて……俺、あ、違う。――わ、私のオススメは……」


 柊とは同学年とはいえ、あの時以来話した事がないと思い、なんと話していいかと慌てた。

 柊はゆっくりと歩みを進めると、そのまま渚咲を抱きしめた。

 渚咲の思考は停止した。

 柊は渚咲を解放し、そのまま顔を見つめながら口を開いた。


「渚咲優葵さん。僕は、あなたが好きです。――付き合って、頂けませんか?」


 渚咲はその場に倒れそうになり、それを柊が受け止める。

 二人の視線が、再び交わった。


「――柊様が……よろしいのならば」


 この学園ではトップこそがルールであり正義。本来ならば渚咲に拒否権は無いのだが、そんな事は微塵も考えず、渚咲はOKの返事をした。

 柊は柔らかい笑みを浮かべると、再度渚咲を優しく抱きしめた。


「良かった! 僕は、あの日からずっと、君を手に入れたかった。――ありがとうございます、優葵さん」


 渚咲はその発言にまさかと思い、ドキリとした。


「えっ? ま、まさか……あの日の事を覚えていてくれたんですか!?」


 中学三年の体育祭の日、自分を心配してくれた柊が、まさかそれを覚えていたのかと思うと、嬉しくてたまらなかった。


「あの日とは……修学旅行の日で、あっていますか?」

「――修学旅行?」

「はい。修学旅行で、星の見える丘に行くと言うのがありましたよね。――あの日、僕は大切な物を無くしました。カバンの中を探してもなくて、来た道を戻っていました。その時、あなたが見つけてくれていたのです」


 修学旅行? 大切な物? 見つけた……。

 渚咲は記憶を辿ると、もしやとある事を思い出し、口にした。


「もしかして【助けて! お祓いプリンス】の缶バッジ……ですか⁉︎」

「そうです。――あの時、見つかった事が嬉しすぎて、恥ずかしい話、涙が止まらなく、上手く話せなかったのです。――もうしわけありませんでした」

「えっ……ええーっ⁉︎」


 あの時「ゆうか」と呼ばれ、泣いていた女子生徒は、柊裕だったのだ。

読んで下さりありがとうございます。

よろしければブックマークや評価の方、よろしくお願いします。

次回更新は明日、7月3日の0時からです。お楽しみに。

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