入国
石造りの階段にグレープベリー、段の端にかけて多肉植物セダム。
木々はしげっていて風にさわさわ揺れ、
爽やかなみどりの香りの側に木漏れ日が踊っている。
案内人がうやうやしく挨拶をしたその美女が、
風呂よりも先に食事でもいいかたずねてきて、
かまわない、と応える。
脱臭抗菌成分を持つ旅人服を着ているが、
自分の疲れの体臭を気にするほど、
植物性の精油のかをりを自然と放つ長髪の
その美女の歩く後ろ姿が、
木漏れ日の中に妙にまぶしい。
「お食事の席に姫がおられます」
案内人の上司である彼女が、
姫はそのことを隠したがっているから
気づかないふりをしてくれ、とのこと。
今日は「外国」からの来客に合わせて、
前々から心身面の情緒を整えてあるから、と。
そういうことなら知らないふりをしよう、と素直に思った。
姫は年齢十八歳、頭が少し弱いかたらしい。
それからもうすぐ寿命だ。
「姫は無邪気で可愛らしいひとですよ」
振り向いた美女に口角を上げて、何度かうなずいてみせる。
「このまま食事の席まで移動しましょう」
正直腹が減っていたので助かった。
船着き場のあたりのグレープベリーを、
つんで食べようかと思っていたところ、
雰囲気的にやめておいてよかった。