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全てを返し終わった、その先で

「聞いたか!? 大聖女ルフェリアが、実は人から力を奪ってたって」

「知らない奴なんていないだろ! 俺たち平民の中で、魔力がある人間をこっそり連れ去って、根こそぎ力を奪ったあとは殺してたって!」

「しかもついには聖女にまで手を出したって! そのやり口もすっげえ汚くて、同じ人間とは思えねえ!」

「そういえばおんなじこと、前も言ってたな! 聖なる存在すぎて、同じ人間と思えねえって!」


 辺境の村、付近の森の中。

 わいわいと騒ぎながら狩りの支度をする男たちは、ある男の皮肉に大きな笑い声を上げた。


「信じられねえ。ずっと騙されてたんだよな、俺たち。聖マートリア教会の聖女もみんな()()か? いっつもいっつも高い金取って、前からおかしいと思ってたんだ! 聖女はそんな存在じゃないだろってな」

「大聖女は結局どうなったんだ? 俺が聞いた話だと、辺境に追放されたとか」

「え? 俺の馴染みの女が、一生幽閉だって」

「この間の行商人は、永遠に働かされてるって言ってたけど」

「はあ? どうなってんだ」


 揃って首を傾げた彼らは、まあいいか、と笑い飛ばす。


「酷い目にあってりゃ、それで満足だ! 俺たちを騙してたんだからな!」

「だがな」


 神経質そうな細身の男が、辺りに視線を彷徨わせた。


「これからどうするんだ? 今まで通り教会は俺たちを助けてくれるのか?」

「それが、リル聖下のもと、魔術塔と協力して魔道具の普及を進めてるんだと。すげー話だよな、前まで魔術塔はお貴族様ばっかりで、俺たちにかけらも興味を示さなかったって言うのに」


 愛の力ってすげえよな、と笑った男は、さらに勢いよく語る。


「それで、魔道具でも足りない分は、各地を回って治療したり魔物を退治したりしてるって話だぜ? 前大聖女のような聖女はみんな追放されて、志のある聖女だけが残ってるって話だから、事の重大さには関係なく助けてくださるって噂だ」

「けれど、つまり人数は減ってるんだろ? 前より行き届かなくなったはずじゃ」

「それは問題ない。なんせ――」


 その男は、突然言葉を止めた。

 何事かと口々に問いかける周りに、黙るように促す。

 木の葉が擦れる音、水の流れる音、それしか聞こえない静かな森。


 いや、それはあまりにも、静かすぎた。


 まるで、生きとし生けるもの全てが、何かの訪れを予期して、しんと身を潜めているかのように。


「……あれ」


 一番後ろにいた男が、震える指先を宙に向けた。

 すっと影が落ち、恐る恐る、彼らは後ろを振り返る。


 太陽を遮るほどの魔物の巨躯が、そこにはあった。


「う、うわ」


 後退りする彼らを値踏みするように見下ろした魔物は、数度鼻をひくつかせる。

 その瞬間だった。


 魔物の胸の中心から、眩い光が迸る。

 その凄まじい閃光に咄嗟に目を瞑った彼らは、やがて恐る恐る目を開く。


 空には、一つの影があった。


「ここにこの魔物が出てるってことは、逃げ出した他の魔物の移動先は――フィリップ、S2地区のレリアに連絡を頼んでも?」

「はい。レリアで事足りますか?」

「大丈夫。レリアは最近魔法の上達も早いし、得意属性も噛み合っているからね。大丈夫だろう。不味そうだったら、救援に行けば良い」


 1人の女性を丁寧に抱えた、美しい男の姿。


 咄嗟に地面に頭を擦り付けようとした彼らを、慌ててルシルは制止する。


「だから、本当にやめてって! 私たちは国からお金ももらっているし、そのお金は国へと君たちが納めたものなんだから、君たちはもう私たちにお礼を支払っているよ! いわばこれは仕事! そんな敬われる資格はないから!」

「この人は、本当にそういう上下関係みたいなのが苦手なんですよ。常にこの調子なので、やめてあげてくれますか?」

「は、はい!」


 微笑んだフィリップは、まだ所在なさげにしているルシルの髪へと唇を落とす。

 途端に目を泳がせたルシルに、彼らは見てはならないものを見てしまったような気がして、そっと視線を伏せた。


「ではフィリップ、戻ろうか。この後は楽しいお勉強の時間だ」

「あなたの教え方は地獄です。弟子だった俺が言います。どの聖女たちも悲鳴を上げてますよ」

「あの程度で根を上げているようでは、まだまだだね」

「あなたはそういう人でしたね」

「結果として聖女の力は上がっているのだから、良いだろう?」


 目を合わせて微笑んだ2人の周りに、ぼんやりと光が宿り始める。


「そういえば」


 再び聞こえてきたルシルの声に、彼らは慌てて顔を上げる。


「先ほどの答えを教えてあげようか」

「え?」

「今、大聖女がどうしているか」


 ルシルは指先を伸ばすと、遠く王都の方角を指差す。


「魔術塔に幽閉されて、その本来の魔力は吸い取られ、魔道具作りに使われている。大聖女ほどではないにしろ、本来の魔力もなかなかのものだったから。ある意味であなたたちの生活に役立っているのかもね、全く皮肉な話だけれど。まあ、自分の魔力が勝手に使われるほど不名誉なこともないから、良いだろう?」

 

 口を開いたままルシルを見つめる彼らに、ルシルは苦笑した。

 

「ふふ、何が何だか分からないという顔だね」

「は、はい」

「まあ良いよ。そういう魔法があるってことだ。最後に、ここより奥にはあまり入らない方が良いよ。逆に今はこの辺りに他の魔物はいないから、手分けして行動した方が狩りの効率は良いかもね」


 今度こそ光が2人の身体を包む。その姿が消える瞬間、1人の男が叫んだ。


「聖女様! どうしてあなたは、そこまで俺たちに尽くしてくださるんですか?」

「そうだねえ」


 強い光に目を瞑った彼らの耳に、声だけが響く。

 

 フィリップの腕の中で、ルシルは笑った。


「私の復讐のためさ」


 ルシルが、リルが、民を幸せにすればするほど、世界はルフェリアを憎む。

 ルフェリアの作った国を否定し、ルフェリアを否定し、リルの作る国を、リルを肯定する。


「私は私のために、この世界を少しでも変えたいんだ。この人と一緒にね」


 今度こそ完全に消えた光に、男たちはそうっと目を開いた。

 何もない空を茫然と見つめ、倒れた魔物を信じられないようなものを見る目で見つめる。


 魔物の登場に、言うべき言葉を失ってしまった男は、口元に得意げな笑みを浮かべながら、先程の続きを口にする。


「――なんせ、とある夫婦が、いつでも国中を守ってるって言うからね?」

これにて完結となります!

少しでも面白かった!と思っていただけましたら、ブクマ、評価いただけると今後の創作の励みになります。

ここまでお付き合いくださり、ありがとうございました!

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