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第22話 復讐心の行方

「突然集まってもらって、申し訳ない」


 ゆっくりと口火を切ったルシルに、集められた村人たちは笑って手を振る。

 その中にはフィリップに治療されたものも多くいて、彼女たちはフィリップの姿を認めると、嬉しそうに頭を下げた。中には頬を染めるものもいる。

 そんな女性たちを複雑な気持ちで一瞥して、ルシルは言葉を続けた。


「病の原因がわかった。取り除く作業は、こちらでやるので安心して欲しい」

「……っありがとうございます!」


 湧き上がった歓声を、軽く手を挙げることで封じてみせたルシルは、静まり返った部屋の中で、まるで世間話をするように口にした。


「ところで、あなた方、何か私たちに隠していることは?」


 痛いほどの沈黙が、部屋に広がった。

 誰も呼吸すらおさえているようで、外からの虫の声や鳥の羽ばたきばかりが耳につく。


 誰も何も言えない空間の中で、ルシルは小さく微笑んだ。


「別に、責めるつもりはないので安心してほしい。大丈夫、事情も全て分かっている」

「え、あ、聖女様!」

「ルシル」


 フィリップが声をかければ、ルシルは首を傾げる。


「どういうことです?」

「あの寄生魔物を、あの熊型の魔物に寄生させたのは、ここの人たちだってことだよ」


 物音ひとつしない静けさが、肯定だった。


「……俺たちが来た時の反応は、過剰すぎた。そういうことですか?」

「わずかでも救ってくれる可能性のある聖女相手に、攻撃するのは少し早急すぎるように思った。あとは」


 言葉を切って、ルシルは笑った。


「鎌をかけたんだ」

「何も、分かっていなかったんですか」

「何ひとつね」


 その気の抜けたやり取りに、部屋の空気が少しだけ緩む。その隙間を縫うように、ルシルが続けた。


「確かに私は何も分かっていないんだけれど、ひとつ病の貸しということで、教えてはくれないかな? 鎌はかけたけど、あれは本音で、正当な理由もなくあなた方を咎めるつもりはない」

「……俺は!」


 口を開いたのは、カルムだった。


「あの時、助けを呼びに行ったのは俺だったんっす。聖女たちのところへ行ったら、聖女たちは飯屋で男と飯を食って騒いでて、病人がって言ったら冷たい目で見られて」


 立ち上がったカルムは、拳を壁に叩きつける。


「金はあるのかって。病状を聞くとか、俺がどこから来たかとか、そう言うんじゃなくて、金は、あるのかって!」


 顔を上げたカルムの目には、ぎらぎらとした光が宿っていた。


「俺が出せるだけの額を答えたら、そんなんじゃ無理っつって飯食って、騒いで、病人がいるってのに! それで俺の恋人は死んだんっすよ、次の月に結婚する予定だった! 家もほとんどできて、後は一緒になるだけだった! 許せるわけがねえ!」


 絶叫だった。

 ルシルもフィリップも、何も言えずにその言葉を受け止める。


「そうっす、俺がやった! あのちっこい虫みたいなやつのことをたまたま街で知って、これに取り憑かれたやつは魔力のある聖女をしつこく狙うって聞いて、井戸のそばにいるっつーから探したらいて、狩りで見つけたリズリー樹林の魔物に投げた! 結局どうなったかはしらねーけど、俺は間違ったことをしたとは思っちゃいねえ!」

「……その魔物は」


 ゆっくりとフィリップと目を合わせたルシルは、口を開いた。


「私たちが倒したよ」

「そうっすか」

「多くの被害者が出た」

「……」

「カルムだけじゃねえ!」


 数人の男性が立ち上がり、カルムの隣に立って声を張り上げた。


「村の男衆はほとんど全員関わってる! 責めるのはカルムだけじゃ!」

「分かってるよ」


 ルシルはゆっくりと溜め息をついた。やりきれない思いに俯きながら、ルシルは言葉を探す。


「復讐心は否定しない、私だって復讐のために生きているようなものだ。私は善悪の判断なんてできないから、あなた方を突き出したり、一方で庇ったりするつもりもない。だから、事実だけ伝えておく」

「そして」


 フィリップが立ち上がり、ルシルの隣で言葉を重ねる。


「あなた方は利用された」

「……は?」

「今は詳しく説明しませんが、あの虫に取り憑かれた魔物が聖女を襲うなどと大嘘です。異常気象、数日にわたってひどく寒い日が続いたことをあなた方は覚えていませんか? 今回の病気の件にも、人為的な工作が関わっている。巧みにあなた方を利用した人間がいるのは、事実です」


 視線を合わせないように目を伏せているルシルを見下ろし、フィリップは続ける。


「この人の言うとおり、あなた方の行動の責任はあなた方で取るべきです。その判断をするときに、利用されたという事実を、あなた方がどう受け止めるかは、任せます」

「……騙されたから仕方ねえ、で片付けるつもりは、言われなくてもねえよ」


 カルムの言葉にひとつ頷くと、フィリップはルシルの方へと手を伸ばす。


「失礼します」


 無言のままのルシルをそっと抱き上げると、フィリップは歩き始めた。


「ひとつ忘れていました、安全のため、しばらく井戸を封鎖させてもらいます。備蓄はありますか?」


 頷いた村人の姿を確認して、今度こそフィリップは部屋を出た。

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