食べ物屋さんと不審者の星夜祭
=食べ物屋さんと不審者のあったかい関係=の続編となります。
(宜しければそちらからお読みください。)
読んで下さってる方がいたので、続編を書きました。
(ああ。今日も寒い)
私は布団からもぞもぞと顔を出し、ベッドサイドテーブルの時計を見る。
(5時)
私はえいやっと布団から勢いをつけて起きる。
(早起きは三文の得)
カオリさんに教えて貰った諺を呟きながらストーブに火を入れた。マッチの香りと同時に、パチパチと音をたてながら薪に火が点いていく。
(早起きしたらちょっといい事がある。って意味だったわよね。何かいい事あるかしら。でも、私はいつも早起きよね。じゃあもっと早起きしないといけないの?)
薪をつついて火を安定させると、ストーブの扉を閉じてケトルを持った。
ケトルに水を入れ、お湯を沸かす。
平和な一日が始まる。
(寒いけど、毎日穏やかだわ。それにグレイさんとお付き合いする事になったし)
私は一人でニヤケた顔を手で覆うと、紅茶の缶をぱかっと開けた。紅茶のいい香りがキッチンに広がる。
グレイさんと付き合う事になった夜に、急いでルー兄様に電報蝶を飛ばした。するとすぐに返事が返ってきて、また返事を飛ばした。
私が蝶を飛ばすと、すぐに次の蝶が来る。
(キリがない)
話を聞いたのか姉様達からも蝶が届き、下の兄様の義姉様からも蝶は届いて部屋は蝶だらけとなった。私の買い置きの電報蝶が無くなるまで兄様、姉様蝶攻撃は続き、今も返事をせかされている。
(返信付き電報蝶で来た時は驚いたわ。安くないのに。一度、みんなに会いに行かないといけないかしら)
うーん、と悩みながら、
(ま、今は冬で交通も悪いし、春にならないと無理ね。首都までは近いと言っても日帰りはきついし。みんなに会うとしたらお店も休まなくちゃいけないもの)
どうしたものかしら。と、考えつつ朝の料理を作りだした。
グレイさんと付き合う事になっても、私の毎日は変わらない。
日替わりのスープを作り、サンドイッチを作り、お菓子を焼く。
お肉を焼いたり、魚を煮たり、お野菜を蒸したりもするが基本毎日変わらない。
店に来るお客様と、穏やかにお喋りをし、ご飯を作り、食べてもらう。私はこの毎日に満足している。
ただ一つ、変わった事と言えば、グレイさんが他のお客様がいる時も来るようになった。相変わらずフード、マフラー着用で、私以外がいる時はフードは被ったままだ。
今は冬だし、夏場程不審者感は無いが。
グレイさんは店に来て、ご飯を食べ、少しお喋りをし、甘い物を持って仕事に行く。仕事帰りの時は同じ様に店で過ごし家に帰る。
周りからは冷やかされる事もあるが、みんな優しく私達を見守ってくれている。
(一番冷やかすのはカオリさんだ。でもカオリさんは、「グレイが相手なら店続けるよね!」と喜んでいた)
そんな穏やかを望む私だが、来月末の星夜祭にはちょっとドキドキしている。
なんといっても、恋人がいる初めての星夜祭だ。
星夜祭は皆、家族や恋人と家で過ごす事が多い。
なので、どの店も割と早く店じまいをする。例え、家族が遠方にいようと恋人がいなかろうと私も星夜祭の時期は店は閉めのんびりと過ごしていた。
メルポリに来て最初の年は上の姉様が心配して家族と来てくれたが、二年目、三年目は一人で過ごし、今年は初めて恋人と過ごす事になる。
初めての恋人との星夜祭。これが楽しみでないわけがない。
(え、グレイさんから何も言われてないけど、大丈夫よね。私浮かれてるのかしら。今日、グレイさんが来たら星屋祭の事、確かめてみましょ)
星夜祭の事を考えながら店をオープンし、いつも通りお店は賑わいを見せていった。
しかし、その日は朝の忙しい時間を過ぎてもグレイさんは来なかった。
(お仕事忙しいのかしら)
と思い、そうだ、仕事場に差し入れに行こう。と思いついた。
お付き合いを始めてから、グレイさんの仕事は自宅とは別の工房で便利な道具の商品開発をしていると聞いた。
自宅では荷物が溢れたり、使う材料によっては危険な事もあるので、町の外れに工房を買い仕事をしているとの事だった。
グレイさんの自宅場所はここから東にあり、工房は南にある。グレイさんが家を出て仕事場に向かう際に、うちの店に寄るとぐるっと遠回りになる事を最近知ったが、グレイさんは出会ってからほぼ毎日来てくれていた。
お昼を回ってもグレイさんは来なかった。
お客さんも一段落したのでお店を一旦閉め、私はバックにナッツのクッキーと、カップケーキ、サンドイッチを入れてグレイさんの工房に行く事にした。
工房に行くのは初めてだったが、朝、お店に来たジンさんに工房への詳しい道を聞くと、周りに何もなくポツンと建ってるので、「行けばわかる。」と言われた。
てくてく30分程歩くと、確かに家がまばらになり、ちょっと先に一件の小さめの家がポツンと建っていた。
(ここね)
工房の前に立ちドアをトントンと叩き、声を掛けた。
「グレイさんいますか?」
中からごそごそと音がして、髪がぼさぼさでフードを急いで被ったグレイさんがドアを開けた。
「!!、ミアさん!どうしたの?」
グレイさんは垂れ目を大きく開けて驚き、私を見つめた。
「突然すみません。以前、こちらの工房でお仕事されていると聞いたので、いらっしゃるかと。ご飯何か食べました?持ってきたので、よかったら食べて下さい」
「!え、もうそんな時間?あ、ごめん、ちらかってるけど、どうぞ」
「では少しだけ」
そう言って私は中に入った。
「おじゃまします。うわあ。工房って初めて入りました」
私はきょろきょろとあたりを見回した。
ごちゃごちゃと不思議な道具が沢山ある。綺麗なガラスや、石。何に使うのか分からない怪しい草等。
私がジッと見ていると、グレイさんは慌てて声を掛けて私のバックを受け取ってくれた。
いつか、あの不思議な道具達を色々教えて貰おう。興味深いものばかりだ。
「危険なものもあるから、触らないで。怪我しちゃうよ。見る分には構わないんだけどね。ミアさん、わざわざありがとう。いい匂いがする。最近、仕事が忙しくて時間の感覚がおかしくなっちゃってた」
「いえいえ、気にしないで下さい。お店もあるのですぐにお暇しますね。でも、グレイさん、ちゃんとご飯食べてくださいね。心配ですから。ああ、顔見れてよかった」
「!!ミアさん!!ちゃんと、食べるよ!!」
「あとですね、グレイさんに、少々お尋ねしたいのですが」
私が工房の道具等を見回しながら訊ねると、グレイさんは元気よく返事をしてくれた。
「!!なに??」
「あの、星夜祭なんですけど、グレイさんは予定が入っていますか?なければ一緒に過ごしたいと思ったのですが」
「ああ!俺、ミアさんにそんな事を言わせて。もちろん予定はないよ。俺も、ミアさんと過ごせると思ってたから・・・。ごめん、俺が誘うべきだったね・・・。俺の家か、ミアさんの家で過ごそう」
ショボーンっと音がしそうな顔をグレイさんはしていた。
「ああ、嬉しいです。良かった。楽しみにしておきます。では、私は失礼しますね。お仕事中お邪魔しました」
「ミアさん、わざわざ有難う。後でゆっくり食べさせてもらうね」
グレイさんがそう言って、ミアさんちょっと失礼、と言うから何かと思ったらぎゅっと抱きしめられた。
「明日はお店に行くから」
頭の上からグレイさんの声がして、私はこくこくと頷き工房を出た。
火照った顔は冷たい風がすぐに冷ましてくれるだろうと、私は店までまたてくてく歩いた。
(よかった。星夜祭は一緒に過ごせるんだわ。恥ずかしかったけど、よかった)
とウキウキしたが、その後、
(はっ!でも、一緒に過ごすって何したらいいの?恋人と過ごした事なんてないわ)
家族となら、食事して、お話して、ゲームして星を眺めて願い事をしてロウソクを灯す。
改めてグレイさんに、何します?なんて聞くのも恥ずかしいし、カオリさんに聞いたら大変な事になる。
とりあえず、私が出来る事。
星夜祭の特別なご馳走を作り、甘い物を並べる。そうだ、星夜祭の料理を美味しく二人で食べる事にしましょ。と答えを出した。
グレイさんは甘い物が好きなので、甘い物を沢山思い浮かべて途中で商店により、沢山買い物をして帰った。
店に帰り着くと夜に向けての準備をしたが、グレイさんと会えた事で心はぽかぽかだった。
平和に毎日は過ぎていき、星夜祭の前日になった。
今日は朝だけ店を開け、早々と店じまいとした。多くの店が今日から休んだりするので、お客様は皆何も言わないが、グレイさんと過ごす事がバレているので視線が生暖かい。
星夜祭は二日続く。明日の朝から明後日の夜までが一般的だ。だから店を二日と半日休む事になる。
多くの人が朝からのんびり家族で過ごし、夜は一緒に星を見てロウソクを灯し願いをして吹き消す。翌日の朝に願い事をしたロウソクを家族や恋人、友人と交換をする。交換したロウソクに、願い事をしながら毎日寝る前に少しずつ火を灯す。
そして、ロウソクが無くなった時に願いは叶う。
ただし、その願いごとは自分の願いではなく、人の事を思う願いではなくてはならない。
星夜祭の星は自分の所から相手の所へ幸せを送る星の祭りだからだ。
・・・二日を通して行う・・・。
(は!ちょっと、もしかして、一緒に過ごすって、お泊り?)
私は、ハタっと気づき、顔が真っ赤になる。
(でも、ま、みんながしているイベントだし。ね。ま。大丈夫よ。うん。え。私から誘ったって。変だったのかしら)と、忙しく考えながらメレンゲを勢いよく混ぜる。
顔を赤くしたり、青くしたりしながら、ケーキの生地を作っていく。パッパッとバニラエッセンスを入れると甘いバニラの香りが少しだけ気持ちを落ち着かせた。
(でも、グレイさんも誘う気だったって言ってたし、変じゃないわよね。あら?私わざわざ仕事先まで押しかけたわ。うわ。恥ずかしい)
ケーキを飾る、クリームをカチャカチャ作って泡立たせていく。
(グレイさん、あれからも忙しいみたいだけど、体は大丈夫かしら。一日に一度は来てくれるけど、食事もお菓子もまとめて持って帰るし。今度野菜のお菓子、作ろうかしら。甘い物ばかり食べて、グレイさんの体が心配だわ)
ふむ。と、今度はクッキー生地を伸ばしていると、突然おしりと、太ももに小さな手が抱き着いてきた。
「ミーアーねーさーま!!!!」
「きゃあ!!」
私がびっくりして振り向くと、下の姉様が赤ちゃんを抱いて立っていた。
「声を掛けて入って来たんだけど、脅かせてごめんなさいね、ほら、みんなちゃんと挨拶して」
「ミアねーさまこんにちは」と姉様の一番上の子供、と二番目の子供が言い、三番目の子供は、「あー」と言った。
「リア姉様どうしたの?びっくりしちゃった」
私は手を拭きながら姉様に向き直った。
「ふふふ。星夜祭に来たのよ!!ちゃんとホテルも予約したわ。安心して頂戴」
「え?」
(安心って何?)
「もうすぐ、ベラ姉様達とルー兄様達も到着するわ。ただディー兄様達はぎりぎりまで来れるか分からなくてホテルが取れてないの。だからもし来れたらここに泊めてあげて」
「は?」
(泊めるって?)
「さ、お土産がたくさんあるわよ。話はみんな揃ってからの方がいいわね」
(え、いつのまにみんな来ることになったの?ベラ姉様達(上の姉様・イザベラ)と、ルー兄様達、そして、ディー兄様達(下の兄様・ディラン)も来るって?うん?泊るの?え、ちょっとまって、達、達って言ったわね)
「リア姉様、えっと、みんな来るの?ここに?えっと、みんなってみんな?」
私は頭に手を当てながら、何かの間違いであってくれ、と聞くと、姉様は嬉しそうに答えた。
「そうよ~。みんなで集まるなんて母さんの葬儀以来じゃない?出産や仕事なんかで、なかなかみんな揃う事はなかったものねえ。うちが、ちびちゃん合わせて六人でしょ、ルー兄様の所が五人、ベラ姉様が四人で、ディー兄様の所も四人だから全部で十九人ね。で、ミア入れて二十人。まあ賑やかね!!」
私は気が遠くなりそうになったが、(ああ、もう決定なのね)と理解した。
「わかったわ!!食堂使えばみんなで一緒に過ごせるわね!!ちょっと狭いけど、子供も多いし大丈夫でしょ!!」
(もう知らない。グレイさんにはすぐに電報蝶、飛ばさなきゃ)と、考えながら食材をどんどんテーブルに出して料理の準備をしていった。
「あ、ミアのいい人にはルー兄様が連絡するから大丈夫よ。あら、全部で二十一人だったわ。ふふふ~。楽しみね~」
(もう!姉様達はいつもこうなんだから!!)
ちょっとぷんすか怒りながら、子供たちの口にクッキーを入れていく。
「はい。あーん」
「おいしい~」と言っては、私の方を見上げて」あーん」と、口を開ける様はひな鳥のようで荒れた心が落ち着く。
もぐもぐ食べると、「ミアねーさま。また、ちょーだい」と、あーんと口を開ける。これは癖になりそうね。
「ミア、あまりやりすぎないで。ご飯が入らなくなっちゃう」
困った顔をした、リア姉様に言われるまで私は子供達に餌付けをした。
(とにかくもう、なるようになれよ。みんなに会うのは嬉しいし。こうなったら楽しみましょ。ただ、問題はグレイさんなんだけど・・・。大丈夫かしら)
「わかったわ。とにかく料理をバンバン作るから姉様も手伝って。あと、テーブルも移動させたりしましょ」
腕まくりをし、クッキーの続きをしようとしているとドアの向こうから声が掛かった。
「おーい。荷物はー?」と義兄様(リア姉様の旦那様)が玄関でうろうろしていた。
「あ、奥を使って下さい。お久しぶりです!」
「おー、ミアちゃん、元気そうだね?」
挨拶をし、お土産や荷物を奥に置いてお茶を出したりして、義兄様には子供達と遊んで貰ったり、重たい物の移動をお願いした。
そんな事をしていると、本当に姉様達、兄様達が到着して食堂は沢山の人で一杯になった。
明日の朝の準備をし、皆は明日の朝にまたくるわ。と言ってホテルに泊まりに行った。
そして夜にはディー兄様達も来れる事となったと電報蝶が届いた。但し到着は明日の朝になるとの事で、私は一人になった食堂で、呆然としていた。
(いや、嬉しいんだけどね。なんだろ、この気持ち。嬉しいのよ。うん。ただ、びっくりして。だって、今日の朝には今日の夜にこうなるなんて思ってなかったもの)
よろよろと立ち上がると、濃いお茶を入れ、たっぷり砂糖を入れると一気に飲んだ。
(よし、頑張るわよ!やってやろうじゃないの!突然だって、なんだって、二十一人分の料理位出来るわよ!私は食べ物屋さんなんだから!星夜祭、みんなで楽しむんだから!!!)
私はふんっと腕まくりするとシチューとゼリーを作り出した。
次の日の朝。
習慣とは恐ろしいもので、いつも通りに早起きをし、料理の準備をしているとディー兄様達が到着した。感動の再会もそこそこに、料理の準備を手伝って貰っていると、ホテルから皆がやって来た。
食堂に料理を並べ、準備をしていると窓の向こうで唖然と食堂を見ているグレイさんと目が合った。
「!」
私は急いで食堂を出てグレイさんのところへ行った。
「グレイさんごめんなさい。なんか突然、兄達が来まして」
「ええ、俺も昨日ルーカスさんからの電報蝶が来て驚いたんだけど、なんか、人が多くない?」
グレイさんに食堂をチラリと見られた。
「えっと、ですね、四家族来てます。姉妹、兄弟、全員集合です。すみません」
私は小さな声で言った。本当、申し訳ない。
「えっと、俺、いていいのかな?」
「すみません!嫌じゃないならいてください!せっかくの、星夜祭なのに・・・。グレイさんとすごしたいんです。まあ、二人ですごせませんが・・・」
だんだん、声が消え入りそうになる。本当に申し訳ない。
「いや、嫌じゃないよ。驚いたけど。俺がミアさん達家族に入っていいのかな。って思って。いいの?俺もミアさんと過ごしたいよ」
私が顔を上げると、顔を赤くしたグレイさんがニコリと笑い、ホッとする。
「ああ、よかった、では、どうぞ」
私が店に振り向き入ろうとすると、兄様達、姉様達がびたっと窓に張り付き、私達を見ていた。
私は顔を押え、「!!もう!!本当ごめんなさい!!」とグレイさんに言い、
「姉様達!!、兄様達!!グレイさんですよ!!」
私は大きな声で言い食堂に入った。
そこからはグレイさんは耳が何個あっても足りないだろうと思う位、色々質問攻めをされた。
「出会いは何処なの?」
「付き合ってどのくらいなのか?」
「仕事は何をしているんだ?」
「趣味は何?」
「ミアの好きな所を言ってみろ」
「子供はすき?」
「ねー、ねこすきー?」
「ピーマンたべれるー?」
兄様姉様達、義兄様、義姉様(中には姪っ子も)は遠慮なくグレイさんに色々と聞いていく。もう、私は目も耳も塞ぎたかった。
そしてグレイさんも出来るだけ答えていく。
(本当、ごめんなさい)
私は今日何回目か分からない謝罪を心の中でグレイさんにした。
怖い物知らずの子供達は、グレイさんのフードを脱がしにかかり、マフラーを奪い、体に登り出していた。
ちび達はグレイさんの膝の取り合いをしたり、肩車をねだったりしていた。従兄達より年上で、自分の父親達よりも若いグレイさんが珍しいようだった。
子供達は、グレイさんの火傷の跡を触ったりしていたけど、グレイさんは何も言わなかった。
「いたくないのー?」と聞かれて「痛くないよ」と答えていた。
私はグレイさんから、この親族大集合に嫌気がさし、お別れなんて言われたらどうしようと、ハラハラした。
そんな私の気持ちを知ってか知らずか、兄様達、姉様達のグレイさん洗礼パーティは続き、ご飯を食べながら兄様達が持ち込んだお酒で大騒ぎとなった。
小さな子供達は結局寝てしまい。義姉様達がちび達を連れて近くのホテルに行った。
「兄弟、姉妹でゆっくりして。私達も向こうでゆっくりするから、気にしないで。グレイ君、頑張ってね」と言ってくれた。感謝する。
私は片付けをしながら姉様達と話したり、兄様達にお茶を持っていった。
結局時計が夜中の12時をすぎた頃に落ち着いて来て、起きている人達で一度外に出て、星を眺めロウソクを灯した。
役に立たない兄様達に代わり、義兄様達が大きな子供達の世話をし、寝てしまった子供達を私の部屋に連れていきそこで寝かす事となった。
食堂に戻ってみるとみんな疲れたのか、そこらで寝だしたので、私はストーブをガンガン焚いた。
そこらで寝ている兄様達に毛布を掛けていったのだが、皆幸せそうな顔をしていた。
(兄様達はホテルで寝なくていいのかしら。明日、身体痛くても知らないから)
私は片付けをしながら、戦の跡のような食堂を見回した。
(星夜祭ってロマンティックなお祭りよね?どうしてこうなるのかしらね?)と、思っていると、グレイさんもテーブルで突っ伏して寝ているのを見つけた。
(ああ、ここにも闘いに敗れた戦士がいるわ)
私がグレイさんに毛布を掛けているとベラ姉様とリア姉様が傍にきた。
「いい人ね」
寝ているグレイさんを見て言われ、
「うん。そうなの」
と、私はグレイさんの寝顔を見ながら答えた。グレイさんはとても優しくて綺麗だ。
「ミアが幸せそうでよかったわ。でも、私達がいることも忘れないで。ミアは私達の妹なの。離れていても、私達はあなたを愛してるわ」
そう言うと二人は私をぎゅっと抱きしめた。
「うん。姉様大好き」
私も二人を抱きしめ返した。
三人で抱き合いちょっと泣いたが、後ろを振り返ると酔っ払い寝転ぶ男達がお互いに踏まれたりして寝ていて、それを見て三人で笑った。
「あんな兄様達でもあなたが心配でしかたないの」
「分かってるわ」
私は答えて毛布を兄様達にかけ直してあげた。
朝になり、顔色の悪い兄様達にお茶を出し、無限の活力を持つ子供達にご飯を食べさせ、わあわあ言っていたら、その輪の中にグレイさんもいて私はホッとした。
ホテルに泊まった義姉様達と子供達も集合し、みんなでロウソクの交換をした。
そうやってのんびりしていたら、兄様達、姉様達の帰る時間になった。
「もう、帰っちゃうのね。寂しくなるわ」
私は店の前に出て、帰って行く皆を見つめると寂しくなった。
「またすぐに会いましょう。グレイ君も一緒にね」とリア姉様が言い、
「今度はうちにこいよ。グレイの商品持って来てくれ」とディー兄様が言い、
「式のドレスは一緒に選びましょうね。グレイ君の好きな色は何かしら?」とベラ姉様が言い、
「仲良くな。グレイ、妹を頼む」とルー兄様が言った。
「はい。皆さんも気を付けて」
グレイさんが答え、私は恥ずかしいのと申し訳ない気持ちと嬉しい気持ちでパンクしそうだった。
義姉様達、義兄様達からも、「また会いましょう。元気でね」や、「連絡はこまめにくれ。心配だから」と挨拶を貰い、甥っ子、姪っ子も飛びついて来てクッキーをまた口に入れていった。
兄様達、姉様達と抱きしめ合った後、「じゃあな」とルー兄様が言い帰って行った。
嵐のような四家族はあっという間に帰って行った。
グレイさんと二人きりになると今までの騒がしさが嘘のようで、食堂は広く、寒く感じた。
「グレイさん、奥に行きませんか?奥の方が温かいですし」
リビングの方にグレイさんと移動をし、二人で椅子に座った。
(兄様達、姉様達が帰って寂しいなんて、子供じゃないんだから)
私は嵐の四家族を思い出しながらグレイさんに甘いミルクティーを入れ、ケーキの残りを二人で食べようとお皿に分けた。
「グレイさん、突然すみませんでした。悪い人達ではないんですが、心配が過ぎるというか、私が心配をかけるのが悪いのかもしれないんですが。まさか、こんな事になるとは。せっかくの星夜祭でしたのに」
私がケーキを差し出しながら言うと、ミルクティーをグレイさんは一口飲んでふにゃりと笑った。
「びっくりしたけど、楽しかったよ。大丈夫。お兄さん達、お姉さん達にも挨拶できたしね。それにこれからも星夜祭はあるよ」
「グレイさん・・・。有難うございます。とはいっても疲れたでしょう。ゆっくりしていってもいいですし、帰られてもいいですが。眠くないですか?」
「ミアさんとせっかく一緒にいれるからね。ミアさんが疲れてないなら、ここにいてもいいかな?」
「はい。私も一緒がいいです」
私は顔が赤くなりながらもコクンと頷いて答えた。
グレイさんはニコリと垂れ目を下げながら笑うと、私の手を優しく握った。
「ようやく触れた」
そう言ったグレイさんは、私をぎゅっと抱きしめ、ゆっくりと髪を撫でた。
私はグレイさんの胸の中でドキドキしながらグレイさんを見つめると、グレイさんのこげ茶の目が優しく私を見ていた。
グレイさんの顔がゆっくりと私に近づき、ミルクティーの匂いを感じた。
ああ、キスされる。
そう思って、私はそっと目をとじた。
「ねー。ミアねーちゃん、ちゅーするの?」
食堂のドアの方から声が聞こえた。
「!!」
びっくりして振り向くと、目をそらしていた兄様達、姉様達がいた。
「いや、忘れ物してな。すまん。続けてくれ」とルー兄様が言って、嵐の四家族は今度こそ本当に帰って行った。
「!!もう!!」
私が顔を赤くすると、グレイさんは、ははは!!と笑い、
「じゃあ。遠慮なく」
グレイさんは私をぎゅっと抱きしめ、
「ミアさん、これからも宜しく」と耳元で言い、チュッとキスをされた。
これからも兄様達や姉様達には振り回されて行くのだけど、そこにグレイさんも巻き込まれていくのはまた別の話。