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人形の声に呼ばれた二人

作者: ウォーカー

 静かな喫茶店の店内で、一人の男が紅茶を飲んでいる。

その男は、学生時代の友人と久しぶりに顔を合わせるために、

今日こうして商店街の喫茶店にやってきていた。

いくらも経たないうちに、出入り口の鈴が揺り鳴らされて、

待ち合わせ相手である友人が姿を現した。

片手を掲げてその男に挨拶する。

「よう、待ったか。」

「いいや、僕もさっき着いたばかりだよ。」

そうして、その男と友人は、

久しぶりに面と向かって会話を交わすのだった。

「こうして顔を合わせるのは、しばらくぶりだな。

 最近の調子はどうだ?」

「僕は、ぼちぼちってところかな。

 君の方は相変わらず忙しそうだね。」

「まあな。

 育児には金がかかるから稼がないと。

 お前は、人形を作る工場に勤めてるんだっけ。」

「うん、そうだよ。

 それでちょっと相談があるんだけど。

 実は、僕、人形の声が聞こえるんだ。」

「・・・何だって?」

その男の口からでた言葉を耳にして、

友人は咥えていたストローをポロリと落とした。


 その男は、子供の頃から人形遊びが大好きで、

大人になった今では趣味が高じて、人形を製造する工場で働いている。

それがいつの頃からだったか、

どこからか声が聞こえてくるようになったのだという。

誰も無駄口を叩くはずのない仕事場で、あるいは一人っきりの自宅で、

どこからともなく、微かな声が聞こえてくるのに気がついた。

そしてその声を聞いているうちに、

それが人形の声だと確信するようになったのだという。


 「お前、具合が悪いんじゃないのか。頭は大丈夫か?」

眉尻を下げてそう言う友人に、その男は口を尖らせて言い返した。

「失礼な。僕は正気だよ。

 うちの工場で作業中に私語をする人はいないし、

 僕は家族もいない一人暮らしなのだから、

 家の中で他人の声が聞こえてくるわけがない。

 周りに人形がいる時にだけ声が聞こえるんだ。

 あれは人形の声に間違いないよ。」

「ふーん。

 それで、人形たちはお前に何と言っていたんだ?」

「それは人形によって違うよ。

 寂しいとか、もっと構って欲しいとか、

 ぬいぐるみの声だったら、どこかが解れて痛いとかね。

 店屋なんかの売り物の人形の声も聞こえるんだよ。

 売り物にされている人形は、

 誰もが新しい持ち主を待ち焦がれてるわけじゃないんだ。

 なかには、売りに出されるのが怖いって人形もいる。」

その男の真剣だが突飛な話に、しかし友人は半信半疑。

話の内容は到底信じられるものではないが、そこは付き合いの長い友人同士。

うまく話を合わせる方法を会得している。

友人は気を悪くさせないように、うんうんと頷いて返した。

「なるほどなぁ。

 お前は昔から人形だのぬいぐるみだのが好きだったけど、

 まさか人形の声が聞こえるなんて言い出すとはな。

 で、俺はどうしたらいいんだ?

 いい病院を紹介してやるってのは冗談として。」

友人の申し出に、その男は大きな鞄を取り出して応えるのだった。

「今日は、人形たちを救う手伝いをして欲しいんだ。」


 その男と友人は喫茶店を出て、商店街を歩いている。

喫茶店がある商店街は今日、お祭りが開催されていて、

屋台の出店や店頭販売が多数あって賑わっていた。

そんなお祭りの商店街では、おもちゃ屋の売り物にされている人形や、

出店のくじ引きの景品にされている人形がいた。

あるいは、お祭りのくす玉の中に人形が入れられていることもある。

「助けて・・・。わたしをここから出して・・・。」

どうやらその男には、

距離が近く目に見える位置にいる人形だけではなく、

お祝いのくす玉の中にいる人形の声も聞こえるらしい。

そのか弱い声を聞き逃すまいと、

くす玉や中身が見えない箱を見かけるたびに、

その男はじっと耳を澄ませていた。

今はおもちゃ屋に耳を寄せているその男に、友人がそっと耳打ちした。

「どうだ?あのおもちゃ屋の人形は。」

「・・・うん、声が聞こえる。

 人に買われて新しい環境にいくのが怖いって。」

「よし、じゃあちょっくら交渉するか。

 すいませーん!お店の人ですよね。

 ちょっとお話をしたいんですが。

 その人形、セット販売にしてみませんか?」

見知らぬ男に突然話しかけられていぶかしむおもちゃ屋の店主に、

その男と友人が事情を説明する。

とはいっても、人形の声が聞こえると正直に説明はできない。

害がない範囲で誤魔化しながら話をする。

「今、当社で無料モニターを募集してまして、

 人形のセット販売用の試供品を無料でお配りしているんです。

 こちらの人形を差し上げますので、

 あの人形とセット販売にしてもらえませんでしょうか。」

これが、救いをもとめる人形を助けるために、

その男と友人が考えたやり方だった。


店屋で売り物にされている人形のなかには、

人に買われて新しい生活を迎えるのを怖がる人形がいる。

一人っきりでいるのを寂しがっている人形がいる。

長くおもちゃ屋の棚に飾られていたので、離れたくないという人形がいる。

あるいは、すでに人の持ち物になった人形のなかにも、

同じような悩みを持っている人形がいる。

そういう悩める人形を、その男がすべて引き取ることはできない。

だから、人形に仲間を用意して二人一組、つがいにしてやる。

人形同士の声を聞いて、相性が良さそうな人形を用意して譲渡する。

売り物の人形なら、おまけとして一緒に売ってもらう。

誰かの持ち物の人形だったら、一緒に置いてもらう。

そうすることで、悩める人形の仲間を作ってやる。

手持ちの人形にとっても仲間ができるのだから一石二鳥。


そんな内心の、その男と友人の申し出に、

多くの人たちは首をかしげながらも快く応じてくれた。

売り物の人形にもう一つ人形をつければ売れやすくなるだろう。

家の人形にもう一つ人形が増えるのも悪くない。

お祭りの非日常的な雰囲気もあって、交渉は順調。

しかし時には、狭いおもちゃ屋でこれ以上ものを置けないとか、

あるいは、つがいにする人形が見つからないこともあった。

そういう場合は、その人形をその男が買い取るか交換してもらう。

引き取った人形は、別の救いをもとめる人形のつがいにすればいい。

そうしてその男と友人は、商店街を端から端へ、

人形を渡し渡されしながら巡っていった。


 救いをもとめる人形の声を探して、その男と友人は商店街を歩いている。

しかし、人形の声が聞こえるのはその男だけなのだから、

周囲の人たちから見れば不審なことこの上ない。

その男が人形の声を耳にして急に立ち止まるたび、

友人は、迷惑そうにする周囲の人たちに頭を下げる。

実際の交渉も、ほとんどは交渉上手な友人がおこなっている。

苦労ばっかりかかるのに、自分は人形の声が聞こえないのだから、

どうにも実感や達成感に乏しい。

ほんの少しの虚しさを感じながら、友人は思う。

人形の声が聞こえるというのは、その男の気のせいではないか。

本当は人形の声なんて存在しないのでは。

ぶんぶんと頭を振って邪な考えを追い出す。

あれが気のせいなわけはない。

中身が見えない箱の中に入れられた人形など、

人形の声が聞こえるか、あるいは透視でもできなければ、

居場所がわかりようがない。

人形の声が聞こえるというのは、あの男の気のせいではなく事実。

この世に存在する能力なのだろう。

そんなことを考えながら、次のおもちゃ屋に足を踏み入れる。

すると、先陣を切った友人は突然、

おもちゃ屋の店主であろう老爺に塩を浴びせられたのだった。

顔を塩だらけにされながら抗議する。

「わっぷ!何するんですか。」

「ええい、出て行け!

 お前たちも人形の声がどうとか言うのか。

 ここにはお前たちのような奴にくれてやるものはない!」

盛り塩を鷲掴みにしているおもちゃ屋の老爺に、その男が冷静に言った。

「お前たちも、ということは、

 僕たちの他にも人形の声が聞こえるって人が来たんですか?」

その男の指摘に、老爺は唾を飛ばしながら応えた。

「ああ、そうだ。

 ちょっと前にな、人形の声が聞こえるって奴がきたんだ。

 うちの売り物の人形が寂しがってるから、譲ってくれってな。

 でも、その人形は知り合いの子供が買いに来る予定のものだったんだ。

 売約済みだから譲れないって言ったら、

 あやつ、問答無用で人形を一つ奪い去っていきおった。

 帽子で顔はよく見えなかったが、あいつはお前たちの仲間じゃないのか。」

「違いますって。だから塩をかけないで!

 ・・・それよりもお前、気にならないか。」

「僕の他にも、人形の声が聞こえる人がいるってこと?」

「今の話を聞くと、そういうことになるよな。

 じゃあ、人形の声が聞こえるのって、

 やっぱりお前の気のせいじゃなかったんだな。」

「そりゃそうだよ。

 本当のことだって何度も言ってるのに。

 でも、その人はまだこの辺りにいるのかな。

 こんな有名でもない商店街のお祭りに、

 遠方から人形を探しにきたとも思えないし。」

結局、その男と友人は、

見ず知らずの人がした粗相を謝らされて、さらには、

救いをもとめる人形と奪われた人形と二つ分の料金を払わされて、

おもちゃ屋を後にしたのだった。


 それからもその男と友人は、聞こえてくる人形の声を頼りに、

救いをもとめる人形を探し回った。

商店街ではお祭りがますます盛り上がりをみせていて、

それを煽るような町内放送の声が響き渡った。

「商店街にお越しのみなさま。

 お祭りをお楽しみいただけていますでしょうか。

 いよいよお祭りも佳境、お楽しみ花火の打ち上げです。

 これから、景品が詰められた花火が真昼の空に打ち上げられます。

 花火は上空で破裂して、中から景品が下がったパラシュートが現れます。

 景品は最初に拾った人のもの。

 みなさま、奮ってご参加ください。」

放送が終わると、

ポーンと小気味の良い音がして、

数発の花火が青空に打ち上げられた。

上空で花火が破裂して、小さなパラシュートがいくつも空に浮かぶ。

すると、その男は突然、耳を抑えて顔をしかめた。

人形の声が聞こえる。

「ここはどこなの!?たすけて!」

すると、空を眺めていた友人が、その様子に気がついて声をかけた。

「どうした?」

「声が・・・聞こえる。」

「声って、人形の声か?どこから。」

「わからない。

 今までに聞いたこともないような遠くで絶叫している。」

友人がハッと空を見上げた。

「遠くってまさか、お楽しみ花火の景品か?

 あの空のパラシュートのどれかに人形がぶら下がってるのか。」

「うん、多分。

 それにしてもひどい悲鳴だ。

 人形の声が聞こえない君が羨ましいくらい。」

「そりゃどうも。

 で、悲鳴をあげてる人形ってのはどれなんだ?」

「詳しくはわからないけど、悲鳴は徐々に遠ざかってる。」

「遠ざかってるパラシュートというと・・・あれか?」

友人が空を指さしてみせる。

空にはお楽しみ花火から吐き出されたいくつもの小さなパラシュート、

その一つが風に流されたのか商店街上空から外れていく。

距離から判断して、

悲鳴の主はそのパラシュートにぶら下がっているようだ。

その男は聞こえてくる人形の悲鳴を頼りに、

友人とともにパラシュートを追いかけて商店街から外れていった。


 悲鳴の主のパラシュートは商店街を外れ、

やがて広い公園の上空へと差しかかっていった。

広い公園には大きな池があって、深い緑色の水を湛えている。

パラシュートは空からどんどん降りていって、

大きな池の真ん中へ向かっていく。

追いかけていたその男が、パラシュートを見て言った。

「あれ、やっぱりぶら下げられてるのは人形だ!

 西洋人形が首吊りみたいにくくりつけられてる。

 なんて残酷な。」

「そりゃ、普通の人には人形の声なんて聞こえないからな。

 ただの物としか感じないだろう。

 それよりも、まずいぞ。

 あのままじゃ池の真ん中に落ちてしまう。

 この池、けっこう深そうだ。

 沈んでしまったら、回収できるかどうか。」

そうこうしている間に、その男と友人の目の前で、

パラシュートにぶら下げられた西洋人形が緑色の池に着水した。

ぶくぶくと泡をたてて西洋人形が沈んでいく。

すると、その男は、抱えていた大きな鞄を地面に置いて、

迷うこと無く池に足を踏み入れていった。

「荷物を頼む!

 僕はあの人形を拾ってくるから。」

「おい、あぶないぞ!

 人形は溺れないんだから、後で拾えばいいじゃないか。」

「回収できるかどうかわからないって言ったのは君じゃないか。

 こんな深い池に沈んだら、溺れない人形でもどうなるかわからない。

 今、目の前で救いをもとめてる人形を、僕は見捨てられないよ。」

止める間もなくその男は池にずぶずぶと入っていってしまった。

溺れさせてはいけないと、友人もシャツを脱いで池に入ろうとする。

そして、池の縁に足をかけたところで、はたと立ち止まった。

目を細めて池の反対側を眺める。

「あれ、何してるんだ?

 あの人も池に入ろうとしてるのか。

 何のために?・・・まさか。」

友人が眺める先、

池を泳いでいるその男の向こう、池の反対側に、

服を着たままで池に入っていくもう一人の人影があった。

帽子を被っていて人相はよく見えない。

ざぶざぶと緑色の池の水を波立たせて、

池の真ん中に沈みゆく人形の元へ向かっているようだ。

友人が観察している前で、その男と人影は人形を追って池を進み、

池の真ん中で鉢合わせになった。

その男と、池の反対側の人影と、

二人一緒に沈みゆく人形を救出するかと思われた。

しかし実際は、人形に手をかけたその二人は、

お互いに人形の手を掴んで綱引きを始めてしまったのだった。

「なんだ君は?この人形は僕のだぞ。」

「お前こそ誰だ。この人形は私のものだ。

 助けてって、この人形が私に言ったんだ。」

二人で人形を引っ張り合って、

池の水に足を取られて一緒になって沈んでいく。

その拍子に帽子が外れて、顔の見えない相手の長い髪が垂れた。

それを見て、友人がハッと我に返って池に入っていった。

人形で綱引きをしている二人に向かって声をかける。

「二人とも何やってるんだ。このままじゃ溺れるぞ。

 まずは池からあがって、話はそれからにしよう。」

取っ組み合いをする二人は、友人の手によって池から引きずりあげられた。


 池からあがってもまだ人形を奪い合っていた二人は、

池の水に濡れた体でくしゃみを一つ。

それでようやく、その男と女は、

冷静に事情を話し合うことができるようになった。

「なんだって?

 じゃあ君も、人形の声が聞こえるっていうのか。

 僕のように。」

「あなたも、人形の声が聞こえるっていうの?

 そんなのはてっきり私だけかと思ってた。」

その男と女は、自分以外に人形の声が聞こえる人を見つけた始めての相手。

最初こそ人形がどちらのものか争っていたが、

すぐに打ち解け合って仲が良さそうに歓談するのだった。

「僕の鞄に入ってる人形たちの中に、

 あの西洋人形にぴったりの、つがいになりそうな人形がいるんだよ。」

「まあ、そうなの。

 私は人形たちを連れてきていないから、

 じゃあ、お相手の人形選びはあなたにまかせていいかな?

 その代わり、この子のほうは私にまかせて。

 池の水で汚れてしまったから、うちでお風呂に入れてあげようと思うの。

 ぴったりの着替えも用意できるから。」

「それはいい。

 じゃあ、その子のことは君にまかせるよ。

 何かあったら相談できるように、僕の連絡先を教えておくよ。」

「ええ、まかせて。

 私の連絡先も教えておくわね。」

そんなやり取りをしているその男と女を、

友人が濡れた服を絞りながら聞き耳を立てていた。

二人には聞こえないような小声で、可笑しそうに言葉を漏らした。

「どうやら丸く収まったみたいだな。

 今日はたくさんの人形につがいを用意してやったけど、

 つがいが用意できたのは人形だけじゃないようだ。」

友人は二人には声をかけず、そっとその場を後にした。

そんな友人の様子には気がつかず、

その男と女は楽しそうに人形談義を続けるのだった。



 それから数カ月後。

その男と女は交際を続けていた。

人形の声が聞こえるという、

お互いに稀有な特徴をもった似た者同士ということで、

仲は急速に深まっていった。

話はトントン拍子に進み、とうとう今日、

友人のもとに結婚式の招待状が届けられるまでになったのだった。

結婚式の招待状を受け取った友人は、最初は笑顔で破顔し、

それから内容に目を通すと渋い顔になってしまった。

招待状を片手に、慌てて電話をかける。

電話に出たその男に向かって、友人が唾を飛ばして詰問した。

「お前、この結婚式の招待状は何だよ!?」

「ああ、届いたか。

 何って、結婚式の招待状だよ。

 もしよかったら、君には是非とも出席して欲しいんだ。

 二人が出会えたのは、君のおかげでもあるからね。」

「そうじゃない。

 お前、これ、お前とあの子の結婚式じゃないぞ。

 人形の結婚式って、どういうことだ!?」

「どうって、書いてある通り、あの子たちの結婚式だよ。

 池で助けてやった人形のことを覚えてるだろう?

 あの西洋人形と、それから僕が用意した人形との結婚式だ。」

その男から友人に届けられた結婚式の招待状。

それは、その男と女の結婚式ではなく、

あの時に池で助けた西洋人形と、

その男が用意した、つがいの人形との結婚式だった。

てっきり、その男と女の結婚式だと思っていた友人が、

まだ文句を言い足りないとばかりに噛みつく。

「あのなぁ、人形の結婚式って。

 そんなのやる奴がこの世のどこにいる?」

「ここにいる僕がそうだ。

 それにもちろん彼女も賛成してるよ。」

「お前、あの子とはどうなったんだよ。

 仲良くなったって言ってたのに。」

「どうなったって、もちろん今も交際してるよ。当然だろう?

 だって僕たちは、結婚する人形たちを通じて、

 これから家族になるんだから。」

人形の声が聞こえるその男と女にとって、

人形は生き物、つまりは我が子のようなもの。

他の人とは感性が異なる二人には、人形の結婚式は自然。

そんな二人の感性についていけず、

友人はため息をついて肩を落としたのだった。


 それからさらにしばらく後。

今日は、その男と女の人形同士の結婚式の当日。

結婚式の会場には、あの大きな池がある公園が指定された。

会場である公園には、

新郎新婦である人形の持ち主二人の親族と友人が集められ、

ささやかだが華やかな結婚式が執り行われた。

結婚衣装に身を包んだ二つの人形に、その男と女が親のように寄り添っている。

状況がうまく飲み込めない親族たちは目を白黒し、

仕方がなく、その男の友人が事情を噛み砕いて説明することにした。

損な役回りを引き受けることになって、

友人は口元に苦笑いを浮かべるしかなかった。

「人形同士の結婚式、しかも自分たちはその親だなんて。

 感性が違う人間には、ちっとも理解できそうもないな。

 でも、これもしあわせの形なのかもしれない。

 二人とも、おしあわせに。」

そんな友人の気苦労を知ってか知らずか、

その男と女は二人っきりの世界に没頭中。

二人は二つの人形を挟んで微笑み合っていて、

その様子は家族と呼んでも差し支えないものだった。



終わり。


 人形の声が聞こえる二人の物語でした。


もしも人形の声が聞こえたら、

人形を物として扱えなくなるかもしれない。

そんな人と違う感性を持つが故に苦労する二人が、

その感性のおかげで出会い結ばれる。

登場人物たちが皆しあわせになれるような話にしようと思いました。


お読み頂きありがとうございました。


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