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扉の向こうに佇む君よ  作者: ひめみや
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気になるあの人

その人に出会ったのは、十二月、歳も押し迫った頃だった。いつものように通勤に使っている自家用車を駐車場に停め、勤務する弁護士事務所が入居しているビルへと歩いていると、前方に綺麗な色のコートを着ている女が見えた。ハイウェー近くの高層ビルが立ち並ぶ箇所に公園があり、ここを通って行く者は少ないためか、後ろから声をかけようと思った。


「ここからコンベンション・センターを通り抜けられるかな?」


マークがそう問いかけると、その女は振り向きながら、


「ええ」


と、少し驚いたような表情で答えた。アジア系の女性だった。限りなく黒に近い焦茶色の長い髪に、寒い中を歩いていたせいだろうか、色白の頬がピンク色に染まっていて、こちらが、はっとする程の美形。


(わぁ、美人だ・・・)


マークは彼女の横に並んで歩幅を合わせながら、しばし会話した。お互いの勤務先、彼女の職場は長い冬休みがあって、一月の半ばに彼女はハワイへ旅行する、など、取るに足らない内容だったが、彼女は日本人とのことだった。


オフィスの階によって乗るエレベーターが違うので、ビルに入った後、挨拶をして別れた。旅行の話を聞かせて、と、社交辞令のつもりで言ったが、もう会うことはないだろうと思った。一体何人の労働者がこのビル内で働いているのか知らないが、七十六階もあるのだ、きっと数千人だろう。マークの勤める弁護士事務所でさえ三百人くらいいて、全員を把握などしていない。


(ちょっと惜しい気もするが・・・、次にもしまた会ったら、奇跡、なのかもな)


そんなことを考えながら、エレベーターのボタンを押すマークだった。



昼時となり、目下担当しているケースのクライアントとの会合が終わった後、昼飯を買いに階下へ降りて、サラダを食べた。昼休み終了の時間が近付いたので、オフィスへ戻ろうとしたら、エレベーター付近で知人に出くわし、話していた。すると、朝会った日本人の彼女がこちらに手を振りながら、通り過ぎようとした。思わず、


「ヘーイ!」


と、声をかけた。


(もう会うことはないと思っていたのにな、しかも、今朝会ったばかりじゃないか・・・)


と、マークは独り言ちた。




それからというもの、ビル内や付近で彼女の姿を探した。三度目に会うのは、しばらく経ってからのことだったが、この時は彼女が自分に気付いていない感じだったため、いささかムカついた。


(おいおい、こっちはあんたのことずっと探してたんだぜ)



かくして、彼女とはあちこちで出会った。昼休みに会うこともあれば、仕事帰りにも。神出鬼没といっていいほど、本当に至るところに彼女は現れた。挨拶を交わす時もあれば、遠くに彼女が歩いているのを見かけたりもした。よく花束を抱えていた。


(どこであんな花を買ってくるんだろうな・・・)


マークはいつしか、ぼーっとしている時などに、自分がよく名前も知らない彼女のことを考えているのに気付いた。


(これって、もしかして、いや・・・、しかしな・・・。うーん、ひょっとすると、ひょっとするかも知れない、か?)


彼女のことが気になっていることは否めない。が、どうしたものだろう。既婚者だったり、そうでなくても彼氏がいたり、という可能性は大いにある。


(これは地道に彼女と話して調べていくしかないな。直接聞くなんて芸当はオレにはできないし・・・)


と、恋愛にはどうも臆病になってしまう自分の習性を情けなく思いながらも、何かに突き動かされるような衝動はしっかりと感じていた。

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