ゆっくりと近づく
――退屈。
た・い・く・つーー
あんまりにも暇なんで、ひらがなにして心の中で叫んでみた。
だって。
つい三か月ほど前までは、女子高生だったんですよ。
勉強、なにそれ? おいしいの~? ってテンプレ言ってみたい年頃ですわ。
難しいこと分かるわけないじゃん。
その私が、会議の間の大きなテーブルの中央、王様の横に置いてある石でできた椅子に腰かけさせられている。んで、あの後議長の宣誓が始まって、いろんな陳情書をもとに討議しているんだけど。
『自由都市における鋳造権の委譲について』とか『都市税の徴収の代理権について』とかさ、言われたってわからーん。
で、必然的に眉をしかめながら話をまじめに聞いてたんだけど……。
ちゅーぞー権ってなんですか?
チュウ?
〇三つくっつけたら、なんか、かわいんじゃないの?
え? 問題ありですか。じゃあ、やめときます。
とりあえず、座って聞いていた。ただひたすら。3時間。苦行だよ、苦行。
お尻痛いよー。
気を抜くと寝ちゃうから、ひたすら眉間に力入れてた。寝たら、絶対後で怒られる。
耐えて、耐えて、3時間耐えて、解放された。
ぐったり……という表現がひたすら似合う状態になって、部屋に帰るころにはもうヘロヘロだった。
二度とごめんです。こんなこと。
真っ青な顔をして帰ってきた私を出迎えてくれた二人は、すぐにシャナヤがお茶を入れ、イゾルが食事の準備したり、いろいろやってくれた。
「ほえー、疲れた……」
リビングテーブルに突っ伏すと、イゾルにため息をつかれた。
はしたないって言われたけど、仕方ないじゃん。
右も左もわかりません。
パーティの時も、お茶会の時も、わからなかったけど、今回は極め付けですよ。政治の世界には、足は踏み入れられないって実感したよ。
「あのさ、王様って大変なんだね……」
ただ怖いだけの人かと思ったけど、毎日あの中で喧々囂々とやってりゃ、そりゃ荒むよね。まして、王になってまだ日が浅いんだっけ?
「それは、そうでございます。重責を担っているお方ですから」
「そんなふうには今まで見えなかったんだけど、今日、会議を見てみてわかったわ」
あの会議の場を一言で表すのなら、えーと、文化祭の出し物を決めようとしてるんだけど、みんな自分の意見ばっかりで、他の人の話を聞かなくて纏まらないクラス。って感じだった。
王様は今までやってないことやってみようぜ!って意見を出して、それをみんなが反対して、みんなは、だったら去年と同じで~、とか、俺はたこ焼き食べたいから、絶対たこ焼き屋!! って主張するような、そんな感じ。
いや、本当はもっともっと固くて、かなり難しいこと話してたんだけどね。
あれをまとめるのは、大変だろうな……と同情してしまう。
「あ、ブローチのお礼、言うの忘れてた」
「大丈夫ですよ、今夜もお越しですから」
……王様、あんなに喧々囂々してたのに、タフだな。
イゾルの言葉通り、王様は夜遅くなってから部屋に現れた。
「こんばんは」
扉が叩かれ、王様を迎え入れると、王様は私の顔を見て目を細めた。
「今日は、ご苦労だったな」
王様の言葉に、小さく頷く。
「ご苦労もいいところでした。二度とごめんです」
「はは、そうだろうな。私とて、逃げ出したくなる時がある」
素直に笑った王様が、一息ついた。
「――それでも、やらねばならぬからな」
どさりとソファに深く腰を掛けて、王様が言う。
「お疲れ様です」
向かいに腰かけて、頭を下げると、王様は私の頭にポンと軽く手を置いた。
なんだか今日は、素直だな。やけに。
「あの、なんで私をあの場所に連れて行ったんですか? 私、政治のことなんて全く分からないし、この国のことすらよく分かってないのに。あの場所にいても、自分が分不相応なところにいるなってくらいにしか思えない」
話していると、シャナヤがお茶を入れてくれた。
「あれがこの国の現状だ。この国を知らぬものが見たら、どう思うのかと思っただけだ。そなたが何かできるとは、初めから思ってはおらぬ」
その割には、発言を認めるとか恐ろしいことを言っていたよね。もうね、おじさんたちの目が怖かったから、ああいうのはやめてほしい。
私、無難に生きたい人なんだけどな。
どっちかっていうと、目立ちたくないタイプの人だし、私……。
それに、この前思ったんだけど、王様って結構なチャレンジャーだよね。
昨日話していた都市の話とか、今までやってないことを新しくやるってすごく大変なことだと思うんだけど。それを自分の力でやり抜いていくっていうのは、すごいことだと思う。
その分、問題は山積しているようだけど。
「とりあえず、今日は疲れた。
休むぞ」
王様はそういうと、私の腕を引いてベッドルームに連れて行った。
で、何するわけでもなく(もちろん)、王様はさっさとベッドに横たわる。
え、ええ?
えーと、この人、何してるわけ?
今まで王様はここにきても自分の部屋に帰って行ったわけで、一夜を過ごしたことは断じてない。話を聞いていた時ですら、夜明け前には帰っていった。もちろん、このベッドルームで眠ってしまうこともなかったんだけど。
「紫水晶を、着けていたな」
ベッドの中で横になりながら王様が言う。ポンポンと、いつの日かのように自分の隣を軽く叩く。
「あ、ありがとうございました。あれ、すごくきれい……。
でも、ものすごく高そうです……」
「気にしなくて良い」
そっけなく、王様が返す。もぞもぞと体を起こすと、クッションに寄りかかった。
いや、気にするところです。そこ、一番気になる……。
そんな高価なもの、お返しできないんで。
「……この間、モウモウをやった時にそなた、笑ったな」
モウモウ、初めての贈り物だったから、つい嬉しくて喜んだっけ。
「あの時みたいに、喜ぶかと思ったのだ」
王様がふっと微笑む。サラサラとプラチナブロンドが揺れる。
「……嬉しいです」
恥ずかしながら素直に返すと、王様は目を細めた。
「ならば、よかった」
本当に素直に返してくる王様に、ちょっぴりほっとして戸惑いながら王様の横に座る。
王様が身を乗り出して、私の頬にすっと触れた。
「また、笑え」
真顔で短く言う。
笑えって言われても、いきなり、そんな無理です。
頬に、王様の手の体温が伝わってくる。ほんのり優しく触れる指。だけど、ちょっと硬いかも……。
王様が触れている頬に熱が集まるのが分かる。
熱い……。
そして、どんどん鼓動が早くなる。
恥ずかしくて目をそらしてしまいたいけれど、もう少しこのままでいたいような……。
くすぐったい気持ちだった。
不器用に笑って見せた。
王様の目が優しく細まる。その笑顔をもう少し見ていたいと思ってしまう。
もしかしたら私、王様のことがそんなに嫌いじゃないかも、しれない……。




