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ご公務とな

 昨晩帰った王様は去り際に今日は外出は禁止だと言い残した。

 初日からあんなことがあったから、当分外出は禁止だそうだ。

 

 うう、退屈――。


 で、退屈だと考えちゃうんだよね。


 昨日のあれは、なんだったんだろう……。

 王様に抱きしめられた。


 王様、ふざけてるだけかと思ったけど……もしかして、少しぐらい本気だったりするのかな。


「モウモウ、お前、どう思う?」

 窓際の日当りのいいところに吊り下げられたかごの中で、餌を器用に食べている。

 名前を付けようと思っていたのにずっとそのままモウモウと呼んでいる。私だけじゃなくて、イゾルもシャナヤも。だんだんそれが名前になりつつあるから、よくないな。

 モウモウはキイっと一声あげると、かごの中でガタガタを暴れた。狭いよね、そのかごじゃ。


「トゥヤ様、モウモウは言葉を話しませんよ」

 イゾルに言われた。


 ……世間知らずだって、それぐらいは知ってるよ。


 がっくり肩を落とすと、イゾルがドレスを何着か手に持っていた。


「……なにそれ?」 

「今日の午後は、トゥヤ様のご公務が入っております」

 

「公務!?」

 なにそれ?

 全くの初耳です。


「ですから今日の外出は許可が下りなかったんですよ」

 イゾルに言われて、眉をしかめる。

 王様、そんなこと言ってなかったのに……。大事なことはちゃんと伝えてから帰ってほしいなあ、もう、ほんと。


「公務って、何するの?」

「本来ならば、王と王妃は民との謁見を行ったり、重要な会議には王妃も出席なさったりいたしますが」

「……王妃って。それ、私が行っちゃまずいんじゃないの?」

 だって、正妃候補にはフィナ姫がいるし。普通、妾妃ってそういうとこ出ちゃいけないんだよね。妾妃って、あくまでも愛人でしょ。公式な身分としては。


「候補の姫君はいらっしゃいますが、みなさま正式にその地位についてはおられません。

 トゥヤ様だけですよ。正式に妾妃として御位にお付きなのは」


 ぶふっと噴きそうになった。

「王様は部屋に来るけど、何にもないよ。それなのに、私、正式に妾妃認定なの?」


「王はトゥヤ様のお部屋で夜毎過ごしておりますから、それはもう、必然的に」

 イゾルが顔を赤く染める。


 おおい、こらこら。

 何もないのを知っているのは、君たちでしょうが。

 訂正してよ……。


 そんな会話をしながら、イゾルが選んだモスグリーンに金色の刺繍が施された上着に着替えさせられ、マントを止めるためのブローチをつけられた。


「な、なにこれ!?」

 私、今までこんなの持ってなかった気がする。


 こんな、金の台座に透明の宝石(たぶんダイヤじゃないの?)が中央の紫の石(アメジストじゃないの……これって。しかも、かなり大きい)を取り巻いているかなりゴージャスな逸品なのだけど。


「今朝、陛下から届けられましたよ。陛下はトゥヤ様にお似合いの物が分かるようですね。

 トゥヤ様の黒髪に紫水晶が映えて、まるで夜空に浮かぶ星のようでございますもの」

 イゾルが満足げに微笑んでいる。


 それって、黒髪だから色つきの石は何でも映えるんじゃないの……?

 

 ……でも、なんかちょっと、悪い気はしないかも。


 いや、宝石が嬉しいんじゃなくて、贈り物がってことで。

 


 ――なんだかちょっと、ううん、とっても


 嬉しい気がする――


 そんなふうに考えたら急に恥ずかしくなって、顔が真っ赤になるのが自分でもわかった。


 こんなふうに好意を示してもらえるのは、やっぱりちょっと嬉しいわけでさ。

 そりゃ出会いは最悪だったけど、

 強引で乱暴で、無茶苦茶な王様だったけどさ。


 ああ、なんで私、自分にこんなに言い訳してるんだろう……。


 


 支度が済んだ頃、ちょうど女官が部屋にやってきた。

 公務はどうやら会議の間というところでやるらしい。侍女は連れていけないそうで、女官の後ろで辺りを見回しながら付いていった。後宮じゃないところに入るのは、一番初めに地下牢にぶち込まれて以来だな、なんてぼんやり考える。

 

 あの時、初めて会った王様は怖かったよな。

 怖かったけど、なんてきれいな人なんだろうと思った気がする。

 

「……か、――妃殿下? 妾妃殿下?」

 女官に声をかけられていることも全く気が付いていなかった。


 妾妃殿下って、私の事か!!

 慌てて返事をすると、女官は小さく咳払いをしてお辞儀をした。


「では、こちらからお入りくださいませ。陛下も、諸侯方も妃殿下をお待ちしております」

 女官が頭を下げる。


 えっと、どんどん待遇が変わっていくな……。


 大きな扉が開かれる。両サイドに扉を開ける人がいて、その人たちが同時に声を上げる。


「妾妃殿下のおなりー!!」

 きれいにハモって、中に促された。


 なんすか、これ? なんかのイベントですか!!


 扉が開くと、キラキラ光りが溢れてきた。天井から下がっているシャンデリアにつけられているろうそくが、シャンデリアの一つ一つの水晶に反射して光り輝いている。

 おずおずと中に入ると、王様が椅子から立ち上がってこちらに手を差し伸べた。


「今日から妾妃を会議に同伴させる」

 王様がさらっとテーブルについている他の人たちに向けて宣言する。

 その途端、テーブルの人たちが一斉にざわついた。

 ざわめきはどんどん大きくなり、王様の近くに座っている人たちが口々に王様に直訴し始めた。


「陛下!」

「妾妃をですか?!」

「王妃陛下ではありませんよ!!」

 皆が口々に言う。

 

 お、おお、非難轟々……。


 そらそうだよね。

 後宮内のお茶会とはわけが違うもん。あの中でも末席に座って、自分がいかにこの中で分不相応だかはわかっている。しかもここは、大臣に任命された貴族達が居並ぶ、国の在り方を考える会議の間でしょ。国政に妾妃を携わらせるなんて、前代未聞もいいところなんだろうな。

 

  ここでちょっとひるんでます……。


 っていうか、私嫌です。こんなところ。


 だって、大の大人がみんなして自分のこと非難してるんだよ。そりゃ、嫌でしょ。へこむでしょ。


 すると、今まで大臣たちの声を黙って聞いていた王様が、口を開いた。


「――私は誰だ?」

 喧々囂々とした中、静かに発せられた。

 その声に、皆が一瞬にして静まり返った。


「……ウラヌス・カーリにございます……」

 ウラヌス・カーリとは王を表す、この国の最高位。だれも逆らえるわけがなかった。


「そうだ。私が王だ。

 誰の指図も受けぬ。これから後は、私が許す限り、妾妃を会議に同行させる。

 妾妃にも会議において発言権を与える。

 これに異存のあるものは、位を返上し、領地へ戻るがいい」

 王の静かな声が会議の間に広がった。


 誰も、否とは言わない。言った途端、部屋を出されるのがオチだ。王の後ろには王直属の龍騎隊の面々が並んでいる。

 

 うう、王様やっぱり怖い……。


 王様は本来王妃様が座るであろう隣の席に座るように促してきた。


 ……あの、貴族の方々に睨まれながら座るのはほんとに、針の蓆でございます。

 その言葉の意味を、私、正しく理解いたしました。


 うう。


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