お茶会のお誘いの裏を読んでみる
はい、はい、みんな集まって――!
招集をかけて集まるのは2名。私付きの侍女である2人。
はい、よくできました。
さ、教えてください。
この後宮は今、一体どうなってるのですか?
「トゥヤ様、私、もう少し早くその言葉をお聞きしとうございました」
イゾルに泣かれる。シャナヤも目を伏せて、視線を合わせないようにしている。
……厄介者扱いされてるっぽい。
イゾルレクチャーによると、後宮にも地位があって、最高位は説明されなくてもわかります。
正妃=王妃様。
側妃=ああ、あのご側室ってやつだね。大奥読んだから、それぐらいは知ってるよ。
室妃、ここから、私に馴染みのない名前が出始めた。なんでも室妃とは、王に目をかけられて部屋を与えられた貴族の姫、ここは正式に側妃や王妃に立てる地位らしい。ただし、位が高ければ側妃で、下位貴族が室妃らしい。
妾妃=お部屋を与えられるけれど、決して王妃や側妃にはなれない……らしい。
妾=部屋なしのお手付きさん。
とりあえず、わかったよ。源氏物語とかでも散々読んだしね。中宮、女御、更衣とか尚侍とか、主上の奥様にはいろいろ呼び名があるんですね……って思ったもん。
で、うちのあの王様には、正妃候補としてフィナ姫。これは名前を聞いたから覚えた。で、側妃候補が5人、室妃候補が8人、妾妃が私。妾は今のとこなし――だそうな。
ほうほう。で、王様は室妃までには全然目もくれず、妾妃にのめりこんでいる王様って設定なわけね。そりゃ、寵愛を独り占めしている妾妃が目の敵にされて当然だよね。わかる、私もフィナ姫とか貴族の姫の立場で後宮に放り込まれたら、一族のためにも王様に愛されなければ、って思うもん。
「王の寵愛を独り占めしている(とみんな思ってる)から、みんなに嫌われているのは分かってる。王宮のパーティではひどい言われ方だったからね。で、ライバル筆頭みたいなフィナ姫が、正式にお茶会の申込みを、よりによって王様を通してしてきた。っつうことね」
イゾルに尋ねると、イゾルは視線を一瞬逸らしてからまた合わせた。
「この場合、ウラヌス・カーリを通してというところが重要です。本来ならば後宮内のお茶会ならば、室同士でやり取りいたします。今回ならば、フィナ姫付きの侍女がこちらに招待状を持ってくる。それを受け取って、トゥヤ様付きの侍女である私かシャナヤが出欠席のお返事をお部屋にお持ちする、という形です。それを、王を通されて――ということを鑑みると、ご欠席は許されないということです」
「なるほどね。お茶会ってぐらいだから、みんな集まるんだよね。みんなの前で渡したいってことだよね。奴隷を? そうするメリットってなに?」
「さようですね……みなさまの前で贈り物を渡すとなれば、トゥヤ様はみなさまの前で返戻のお品をお約束する形になりますね。フィナ姫自身が言いださなくても、フィナ姫の周りの側妃候補方はいろいろおっしゃるでしょう。一度お約束したものは、お返しいたしませんといけませんから、それを皆様の前で確約させたいという事でしょうか」
イゾルが口元に手を当てて告げる。
おお、分かりやすい展開ですね。わかります。
もともとライ家は私が寵姫という立場の権力をカサに着て、ライ家の奴隷の事に口出ししたのを、王様に報告している。私がおねだりしたから譲りますよって、体裁を整えていい顔をして見せてるけど、人を貶めて、寛大なライ家の印象を王様に植え付けたいんだよね。
あわよくば、王様の方から返礼としての何らかの確約をいただきたいってところだ。
となると、あんたが邪魔ですよ、って宣戦布告だよね。
「奴隷のやり取りって、わりとあるの?」
今回、奴隷を贈るということにライ家はこだわっている。奴隷のやり取りが珍しくなければ、それ相応で済むだろうけど、そうじゃなければ何かを吹っ掛けてくるつもりなんだろう。
「奴隷というのは本来ものと同じ扱いですから、金銭での授受はよくあることですね。贈り物――としてもないことはないでしょう」
そっか。金銭の授受があるってことは、相場はあるってことか。
「私、奴隷なんていらないんだけど、お断りするのはだめなの?」
「とんでもございません。公家の姫君の贈り物をお断りするなんて、礼儀知らずもいいところです」
イゾルの声が大きくなったので、贈り物を断るのはできないことを悟った。
「トゥヤ様の地位は妾妃ですが、ご身分は異国人なので平民となります。フィナ姫は公家の令嬢であり、ご正妃候補なのですよ。形だけと言えフィナ様がご正妃に一番近いのですから、身分も地位もあちらの方が勝っております」
うーん妾妃、立場低いな。
身分の上の人の贈り物は断れない。だからこの国の習慣としては、相手の負担になるものを贈るのは賤しい行いに当たるという。
おいおい、ライ家の贈り物は賤しい行為じゃないのかよ、と突っ込みたいけどね。
イゾルと話していて、掴んだ要点は今のところ――
・王様を通して申し込まれたお茶会だから、断れない。
・奴隷を贈るって言ってるからもらわないと失礼にあたる。
・贈り物を返さなきゃならない。できれば相手が望むもので、くれたものの倍の価値あるもので。
・みんなの前で渡すから、みんなの前でお返しの品を約束しなきゃいけない。
・何をよこせっていうのかわからないからドキドキ――これポイント。
ってことだね。普通に考えて、奴隷をあげる。お返しに、無理難題を吹っ掛ける。やればよし、やらなければみんなで笑いものにするってことか。
いじめだな。こりゃ完全、いじめ。
もう、なんかくれてやるから、いいもんくれやっていう思考回路が恐ろしいです。
「ちなみに聞くけど、奴隷の相場っておいくらくらい?」
「そうですね、あの時の小さな子どもならば、子牛3頭くらいでしょうか。大人だと、子牛5頭なんですけどね。金貨だと、10枚ですね」
「……それって高いの?」
「私たち侍女の給金が年間で金貨20~40枚と言ったところですね」
ほほー。なるほど。
ライ家の真意ってなんだろう。この贈り物の裏に潜んでいるその真意がわからなければ、行動のしようもない。
とりあえず――虎穴に入らずんば、虎児を得ず。
頑張って、お茶会こなして参ります。




