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王からの贈り物は

 それから、王様は本当に夜毎私の部屋にやってくる。

 物語を聞きに。

 

 王様は寝台に頬杖をついて黙って聞いている。

 王様はひとしきり話を聞くと、いつも、「大儀であった」と一言言って帰っていった。

 そんなことが続いたある日、王様は話しが終わっても腰を上げなかった。


「トゥヤよ。そなたの国の物語はなかなかに面白かった」

 王様が体を起こす。

 初めて王様が肯定の意を示してくれたような気がする……。


 その時の気分に合わせて、寓話、童話、恋愛もの、英雄もの、中学生の時に暗記させられた百人一首の和歌とか、これも暗記させられた万葉集とかね、もう、思いつく限り話していた。


 中学の担任には感謝だね。国語の担当教師だったんだけど、昔の人は書物を暗記したんだーとか言われて、さんざん暗記テストをやらされた。あの時は辟易したけど、こんな役に立つとは思わなかったよ。


 ちなみに、私が覚えている国語の教科書の中で一番好きなお話は、「あの坂を上れば」だったりする。あのお話を王様にしてみたけど、王様はどうもピンとこなかったらしい。


 王様がじっと私の顔を見る。


「これまで、実に大儀であった。いたく満足だ。そこで、なんでも好きなものを下賜いたそう。

何が良い? 美しい布で織った衣装でも、色とりどりの宝石の付いた装飾品でも、そなたのための屋敷でもよい。どうだ?」


 突然言われたので、あっけにとられた。

 まあ、べたですけど……昔の王様はやっぱりそうやって自分の権力を誇示した部分もあるから、その考え方はいわゆる「テンプレ」なんでしょうかね。


 じゃあ、遠慮なくなんかいただいちゃおっかな。だって、私頑張ったもん。物語を思いつくまましゃべるのって楽じゃないよ。だって、途中忘れちゃったりしてね、そこは想像力でカバーだけどさ。


 んで、んで、お礼の品っと。


 宝石……以前某テレビ局でやっていた「大英博物館所蔵の歴代英国女王、王妃の宝物」で見たような豪華な奴でもいいんですか!? いやー、ブドウの粒一つ一つが宝石で、金の葉っぱがついたやつとか、ほんとに頼んじゃうよ。


 衣装……マリー・アントワネットが着用されたようなふわふわのドレスを、お針子さんにお願いして特注で作ってもらったりとか――。


 屋敷……あのベルサイユも捨てがたいけど……シャンボール城みたいなお城を湖のほとりに作ってもらっちゃったりとか、しようかな~。


 あのさ、よく物語の中で無欲な王妃の勝利だったりするでしょ。「王のお心を」とか言ったりして、あんなの私に言わせれば、バカだね。

 もらえるものは何でももらうよ! たくましく生きなきゃ、こんなところじゃやっていけないもの。見返り?ってやつ、期待して何が悪い!!


 何をお願いしようかと妄想を膨らませて、はたと気が付いた。

 この国で、私が考えることって実現できるのかな。よくよく考えると、この国の最高のものって私、見たことない。この国の国力で一体どんなことが実現可能なんだろう。


 ――バカは私だ~~!!

 

 敵を知り、己を知れば、百戦危うからず


 これよ、これ! 


 これを忘れていました。やだ~。

 相手を知らなかったらどれくらいのものをお願いできるのか、どこまでやったら王様に打撃を与えられて、効果的なお礼がもらえるのかわからないじゃない。

 あ~あ。

 がっくり項垂れる。いきなり首を90度に下げたものだから、王様が「おい、どうした?」と素で慌ててる。


「王様、私、何をお願いできて、何がお願いできないのかわからないです。だから王様が私にこれを渡したいと思ったものがあったら、お礼に頂ければそれでいいです」

 口に出してみたら、自分で思ったよりも恨みがましい声が出た。

 はああ、すんごいものもらっちゃおうと思ったのにな。

 涙を飲むぜ。


 なんて言ったら、王様は声をあげて笑った。


「私が考えるよりも、面白い娘だな。では、私から一つ。

 ライ家から正式に妾妃に奴隷を譲りたいと申し出があった。後日、後宮でフィナ姫主催のお茶会があるそうだ。その席に妾妃も出席されたし、とのことである。その席でフィナ姫から、妾妃への正式な贈り物として贈るそうだ。余は後宮の事は万事よろしくやれとライ家の使者に伝えておいた。さて、そなたはどうする?」


 どうするって?

 

 考えること数分。


 待て、待て!! 王様、丸投げじゃないっすか!!

 妃同士のことはそっちでうまくやってくれ。俺はノータッチだから、って言ったんですね!?

 んで、あいつの事は煮るなり焼くなり、まあどうぞって……

 

 王様、恐ろしい!!


 イゾルレクチャーによると、確か、贈り物をいただいたら、倍のものを贈り返すという風習があるんですよね。相手の望むものを贈るのが、礼儀上一番好ましい――だったはず。

 

 すいませーーん! 私、フィナさんの好み全く知りませんよ――!

 そして王様、絶対フィナさんが望むものが何かなんて教えてくれないでしょ――!?


 てか、私何にも持ってないんですけど、どうやってお返しするんですか――!!


 困ってフルフルしていると、

「では、万事良きに計らうように」

 王様はにっと笑顔を浮かべると寝台から降りる。


 あ、悪魔です!!

 おまわりさ――ん! ここにいたいけな少女にひどいこと考えてる人います!

 

 あまりの事に固まっている私を振り返りもせず、何事もなかったようにシャナヤを呼ぶと、クアンさんが姿を現した。侍従ですからね、クアンさん、常に王様と一緒です。王様の身支度を整えると、クアンさんは一礼して王様の後ろに付いた。


 残された私は、ぽくぽくぽくぽくと、頭の中で木魚の音が響きました……とさ。

 

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