霧島、推しを流布する
おこしいただきありがとうございます。
コロナニュースがテレビジャックな日々ですが少しでも楽しんでいただければ幸いです。
初めて食堂でご飯を食べてから1週間たった。
今日はイズナの保護者となりつつあるリオンの隊と4番隊が訓練公開日となっている。
前日は騎士たちにいつもと違う配布物が配られた。
ありがたいことにこの世界識字率も高いし、紙の普及需要に加えて印刷技術も高いようでプリントを配布することに問題がない。
彼らに配ったのは受付時の場所と一文に、観覧席のご案内である。
受付場所と観覧席は図解でわかりやすくしたし、注意事項は今回から観覧受付の署名用紙と注意事項が変わります。という文である。
同じ物を大きく木板に書いたものも門の近く目立つところに立ててもらった。こちらには受付は観覧したい隊で受付の机と席の場所が違うことが示してある。
これまで受付、観覧ともにごっちゃまぜだったのを受付の机は3つに観覧も三ケ所に区切った。それぞれ3番隊、4番隊、両隊混合とそれぞれ見学したい隊の席につくようになっている。
受付会場に行ったイズナは現地の状況にいつものバッグを斜めに下げてうなずく。
「イズナにはすごい才能があるんだな。」
「さいのうってほどでもないけどね。」
イズナの隣に佇むアスタは手元の紙を見つめていた。
1枚目は会場のご案内で門に大きく掲示したものと同じである。こうすることで受付からそのまま指定区域の席に流れができる。また、混合席に行くのはたいていご令嬢方なので騎士の家族が貴族に害されることが減るし、家族同士のコミュニケーションも取りやすくなるだろう。これもイラスト(ライオネルをミニキャラにしたマスコット)を書いて文章は吹き出しで簡略化した。
2枚目は観覧の注意事項。騒音禁止や飲食禁止や手荷物は座席の下などおおよそコンサートやイベント会場での注意事項を漫画にしたもの。
最後に配ったのは……。
「ところで、この推しってなんだ?あとこのリボンはなんの意味があるんだ?」
「自分の一番応援したい人のことだよ。あと、そのリボンは私はこの隊の何班を応援してますよっていう印。」
三枚目に配ったのは楽しく観覧するためにという案内だ。これにはそれと揃いのリボンが置いてあることが書いてある。3番隊はイエローウォーカーにセリアンブルーのラインが入ったリボン、4番隊にはオリーブグリーンにオリーブイエローのラインが入ったものだ。
それぞれの隊には50人前後で班に別れているので隊の色と班の色が入ったリボンを用意した。
お金がかかるからだめかなぁって思ったんだけど、ものは試しと侍女さんに助けてもらってライオネル団長殿下のリボンを用意してご家族に配ってもらったうえで、ライオネル様に話をしたら快く予算を出してくれた。后さまが髪に飾ったり息子様たちが剣に飾りに結んだりしてるのが嬉しかったとか。密かにファンだという侍女たちもリボンを自前で用意するという現象も起きたらしい。
ま、応援されて悪い気がする人はいないよね。
おまけに……。
ちらりとアスタの腰に下げた剣を見る。
その剣にはイエローウォーカーに銅のラインが入っている。これは隊の色に幅広の白ライン、さらにその中に補佐官を示す銅の色で完全に個人を示す組み合わせだ。
ちなみに今日のイズナは髪を高くポニーテールにしている。その結び目にはイエローウォーカーに白い幅広のラインの中に金、銀、銅がそれぞれ入った3本のリボンで結んである。
それらを指で示す。
「応援したい人と同じものつけていたら嬉しくなるでしょ。見た方も自分が応援されてるって思ったら嬉しいでしょ?」
そう言いながら剣の飾りを示すとアルタは目を見開いたあとににっと笑った。
「確かに悪い気はしないな。」
「でしょ?」
各隊の色と班ごとに色の一覧表も記載してある。
いわゆる推しのカラーを身に着けようっていうオタクグッズである。
ちょっとした悪ノリなのだが、この世界には婚約者や配偶者の色を身につける文化があるのですぐに馴染むだろう。しかも騎士団公認の最初のグッズといえるのだ。婚約者や配偶者でなくても誰にはばかることなく身につけられるのは大きい。
ちなみに受付には販売商品として扇子とうちわも置いてもらった。扇子は令嬢たちの必須アイテムと言っても過言ではない。なのでリボンの意味を理解した賢い人はすぐにその扇子を購入していた。
「さて、私も観覧席行かなきゃ。」
「じゃぁ、こっちだ。入り口は混んでいるからな。」
どうやら一般入場とは違うところに連れて行ってくれるらしい。おとなしくついていくと訓練場にでた。3番隊用の席の前にくるとアルタはひょいとイズナを持ち上げて腰高の壁の向こうにある一番前の席におろした。
「そこが指定席。」
アルタに差された席を見ると一席だけ黒にイエローウォーカーのラインが一本だけ斜めに入ったクッションが置かれている。
「いつのまに……。」
「ちなみにその隣に座ってるのは俺の姉ちゃんだから安心して座ってくれ。」
「ありがとう。」
それだけいうとアルタは騎士たちに指示を飛ばすリオンのそばに駆けていった。
「おとなりおじゃまします。」
席の前に移動してアルタさんの姉と言われた人物に頭を下げるとアイスブルーの猫目がキラキラとこちらをみている。
「まぁまぁ、愚弟から聞いているわ。かわいいわね。私はアマリアよ。仲良くしてねイズナちゃん。」
35にしてちゃん付は恥ずかしかったが訂正するのも面倒なのでそのままにしてみた。
「よろしくおねがいします。」
にこにこでお返事して席につくと後ろの方で受付で売ってた扇子を広げた一人の令嬢があえてパタパタと仰いでいる。その姿を見た令嬢が使いの者を走らせていた。
観覧の注意で騒いではいけないとあるので声にはしていないがすでにご令嬢方のアピール合戦ははじまっているがそれはほんの一角で大体は騎士の家族のようだ。
一番盛り上がって扇子を広げてるのは混合席ですでに冷戦状態だ。
「私はあそこには行かない。」
などと一人ごちた。
その後席につくと訓練もちょうど始まった。各々準備体操していた騎士が整列するさまは壮観である。
隊列はそのまま訓練場を走り出すと、隊列が近くを通るたびに観客から黄色い声が上がる。列は乱れず走っていたが10周目で鐘鳴ると騎士は列を崩してダッシュした。
ラストスパートらしい。客席が声援で湧く。
そのあとは打ち合いをするらしい。それぞれの隊から5人ずつのチーム戦である。
獣人の打ち合い怖。ガキンガキンと歯を潰してあるはずの練習用の剣がこれでもかと音を建てるしなんなら折れる。
そんな中登場したのは副隊長ネージュさんの率いる5人である。整然と並んだ姿はすでにその統率力の高さが伺える。
周囲からは参加してる騎士の名前が叫ばれた。どうやら登場から試合開始までの間は声援を送っていいらしくこの組は多くの声が上がっていた。
もちろん負けるつもりはない。
かばんから一枚のうちわを取り出し胸の前で固定する。こういうときは恥ずかしがってはいけない。
「ネージュさぁぁぁーん!がんばってー!」
すると声が聞こえたのかネージュさんがこちらを振り向いてから一拍した後に片手を上げてふりふりしてくれた。
『きゃー!ネージュ様ぁ!』
後ろで声援が上がる。
しめしめ
金のモールで縁取られたうちわを前後小刻みに揺らしながら手もフリフリすればもう一度手を振ってくれた。
「まぁまぁ、それはなぁに?」
アマリアさんの声にわざと後ろにも見えるよう二人の間でうちわをひっくり返した。そこには
『ネージュさま手を振って』
と丸めの文字で書いてある。
「あらあら。かわいい。手作り?」
「はい!昨日頑張って作りました。」
「ふふふ。わたしも作ろうかしら。」
「土台のうちわ隊で色が違ってて受付に売ってますから誰にどんなことをしてほしいか書くといいですよ。複雑なものは相手が読めなくなるので単純な方がいいです。」
「そうなの。それはうちわというのね。」
「はい!」
気がつけば試合は終わって、ネージュさんは今度は呼ばなくてもこちらに手を振ってくれた。
「いつもクールなネージュ様に手を振られるって特別な感じがするわね。」
「ですよね!」
「あら、愚弟だわ。」
アマリアさんの言葉にそれまでのうちわをしまって次を出す。特に名前は呼ばないがこちらを見たアルタさんは2本の指を立てて口元に当てるとその手をこちらに伸ばしてくれた。
投げキスである。
「うわっ気持ち悪っ」
横から重低音な声がしたがきっと幻聴だろう。
それをかき消すような悲鳴が会場から上がった。
いかんニヤニヤが止まらない。来月が楽しみだ。
絶好調だったのかアルタさんは一人で相手5人を倒して仲間から文句を言われているようだったが、退場時にもう一度こちらに投げキスをしたのでかなり決まっていた。ひょうひょうとした余裕がまたかっこいい。
最後に登場したのは両隊の隊長が入った組だ。
もちろんリオンさん用のうちわもある。
「あらそれには耳としっぽもあるのね。」
「はい。リオン様のを真似ました。」
そこには『リオンさま笑って』と書いてある。あまり隊長に無茶振りしてはいかんだろうと控えめにしてみた。
言いながら文字の方をくるりと向ければすでにこちらを見ていたリオンさんがふっと笑ってくれた。
ぜが会場が水を売ったように静かになってどこからかため息が聞こえた。
イケメンパワー恐るべし。
笑顔で一を黙らせるとか。
「リオン様の笑顔なんてとても珍しいもの見てしまったわ。」
隣のお姉さんが両手で顔を覆っていなさった。
ご覧いただきありがとうございます。
オタク文化異世界に爆誕!!
単純にイベント案内漫画を書かせたかったのですww
どんなチラシ漫画になったかそのうち画像添付できたらいいなぁっておもいつつ。つつ。