霧島、目が覚めたってよ!
お越しいただきありがとうございます。
なんとブックマークが25いただきました!ありがとうございます。
まだ話数が少なくて読み応えないのに嬉しい限りです!更新頑張ります!!
揺蕩うような心地よさの中で頭を撫でられる柔らかな手の感触が気持ちよくて、もっと、もっとと強請るように体が自然とその手を追いかける。
額の生え際からゆっくりと首の後ろまでゆっくりと滑っては離れていく手が寂しい。
「おいて、いかないで……。」
暖かくて優しくて心地よいそれは誰の手だったろうか。
いつしか離れていった母の手?もう握らせてもらえない父の手?数えることしか見たことの無い弟妹達の手とも違う。
あの柔らかなおばぁちゃんの手?細いのに力強いおじいちゃんの手?
ねぇ、あなたはだれ?
おぼろげな視界が開けて数回の瞬きを繰り返して視界に広がるアイボリーの天井に黒檀の梁と柱、それらに合わせたであろう黒の薄いレース生地の波。
「おお、かやじゃなくててんがいべっどだなんてぜいたくだぁ。」
天蓋ベッド、通称は姫ベッド。
どう見たってこれまでの人生で無縁だったそれに自分が寝ているとは、はやりここは異世界で間違いないらしい。
ピンクでもないしフリフリでもないけど清潔感があってシーツの肌触りが良くてベッドはふかふかだ。なんとありがたい。お日様の匂いがする。おまけにキングサイズと思われるベッドはとにかく広い。
五歳児の衝動が抑えきれず端から端までごろごろ~ごろごろ~と転がるつもりがまっすぐ進まなくてなぜか斜めに転がって思いのほか距離を楽しめた。
うん。楽しい。
お前はドングリかってくらい転がり一通り楽しむと動きを止めて両手をついて上半身を持ち上げる。広い部屋は大きなクローゼットにベッドとサイドテーブルに椅子が一脚あるだけの質素なものだがけして貧乏な感じに見えないのはその調度の一つ一つが丁寧な彫りや飾りのついた上品な品だからだろう。
とても趣味のいい部屋である。
サイドテーブルの上には私と一緒に異世界にわたってきた推しのイメージバッグがきちんと置かれていた。ハンドメイドだから高かったんだあれ。
よかったよかった~。とベッドから降りて中身の損害を確かめねばと思ってベッドの端まで行って気づく。
ちょ~っと高くないですか?
や、大人基準の家具なわけだし、自分が大人だった時のサイズを基準に考えてもさっき会った騎士の人たちはみんな体格が立派で大きい人ばかりだった。
つまりこの世界の人たちは日本人よりも大きいのだろう。
ひょいと降りてひょいと乗れるような高さではない。足先を投げ出して体を反転させて腹ばいになり、じりじりと下に降りよう作戦を試みた。
が、じりじりと体が下がると同時に唯一身につけているワイシャツがずるずると持ち上がって太ももの当たりがスース―する。間違いなくめくれている。このままいくと確実にぷりんとした幼女のお尻がさらされてしまう。こんなところ誰かにでも見られたら恥ずかしい。
しかもさっきの四人には私が35歳といった手前とても恥ずかしい。
じたばたと足を動かして手に力を入れてひじを立てて体を引き上げる。何とか体をベッドに戻す。
「ふいぃ~。たったこれだけなのにいがいとたいりょくつかうなぁ。」
慎重にいくからいかんのかもしれない。
「じんせいいきおいもだいじだしね。」
よっこらしょ。とベッドに立ち上がって足側に向かって小さな手足で駆けだす。大した助走にもならないだろうがないよりましである。
「とぉ~!」
黒のレースのカーテンを全身で押しながらジャンプした。なんなら両手は万歳の格好だった。
と、同時に唯一ある扉が開いた。
スローモーションのように開かれた扉を見つめたら大きく見開かれた瞳と視線がぶつかった。頭が三つ見えた。
あ~やっちゃったぁ~。
と、声にも出せず勢いのついた身を着地体制にしようとする前にぽすんと筋肉質な体に抱きしめられた。
「イズナ……元気があるのはいいことだがどうしたんだ?」
どうやらリオンさんにジャンプの最中にキャッチされてしまったらしい。なんだかすいません。
「く、くくくくく。」
リオンさんの向こう側から笑いをこらえる声がする。間違いなくアルタさんだろう。
35歳まさかの失態にその顔を見ることができなくて両手で顔を覆ってうつむいてしまう。
「おきてここがどこかわからなくて、ベッドからおりようとしたら、おもったよりたかさがたかくておりられなかったから、いきおいつけてジャンプでおりようとおもって……アルタさんいっそのことわらってください。」
「ぷ!はは。いや、ごめん。ずいぶんしっかりした子だったからまさかそんな行動に出ると思わなくて。可愛かったんだ。」
可愛いから笑うとはどういう了見だ。だが軽率な行動をとったのは自分なわけだからここはあえて笑われようではないか。
「たしかにただでさえ幼児なのにどうみても小柄ですからねイズナは。」
穏やかなネージュさんの声に揶揄いが含まれていないことにほっとする。
「あとで踏み台を用意させよう。ところでイズナもう日が暮れる腹は減っていないか?夕食を食堂に取りに行こう。」
ごはん!
異世界物のテンプレだと大抵おいしくなくて主人公が食事改善チート無双ってやつがあるけどここはどうなんだろう?
両手を顔から離してリオンさんを見上げてコクコクと頷ずくとそのまま扉に向かって歩き出す。
「まって、まって。かばんが……。」
ご飯食べに行くならハンカチとティッシュは常備してたいし、年中お絵描き市民のわたしは筆記用具がないと落ち着かないのだ。
「ん?荷物はここに置いていていいぞ。」
不思議そうなリオンさんに「ハンカチを取りたくて」と説明したら下ろしてくれたので急いでサイドテーブルに向かう。そう、急いでいるのですよ私にしては。でも体が小さいから気持ちは50メートルダッシュである。
がま口のバッグをあけてなかから一回り小さいB5サイズのポシェットを出して紐の長さを調節して斜めに下げる。ちなみに女子力0の私は化粧品なんてしゃれたものを持ち歩く習慣はない。せいぜいカラーリップ一本しか入ってないが、童顔の現状でそんな色付きリップなどバランスが悪くて使えないだろうと置いていくことにする。
てけてけと走って三人のもとに行くとなぜか三人とも手を口に当ててプルプルしている。なんだろうと立ち止まるとすかさずリオンさんに縦抱きに上げられてしまう。
「あの、リオンさん、歩けますよ?」
「イズナは小さいから俺が蹴とばしてしまわないか心配だから我慢してくれ。」
そういわれてしまうと蹴とばされたら怖いので無言でうなずく。きっとあの立派な体に蹴られたら今の私はボールみたいに弾んで10メートルくらい飛ばされる気がする。とても痛そうだから大人しく言われた通りにしておこう。
ついでに楽しげにピコピコ動く耳とゆらゆら揺れるしっぽは見なかったことにしよう。
ご覧いただきありがとうございます。
個人的に筆記用具は必ず持ち歩く派です。どこでもメモ魔なのですが、若い人はスマホに描くんだろうなぁwww
ブックマーク・感想おいただけるとありがたいです。また、下の☆をぽちっとしていただけると嬉しいです。よろしくお願いいたします。