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リオンSide かくも甘やかな

 その連絡が来たのは神殿に潜伏させていた部下からの知らせだった。


 以前に団長であり従兄弟でもあるライから大神官を内密に見張ってほしいとの極秘命令があったからだ。


 何でも今の大神官は大分強硬派らしく、王にすら内密に私兵団を設立し、聖騎士と名乗らせているとか。それ自体は国民のためになるならいいと見逃していた王だが、どうもその動きは信者のためというよりも大神官による制圧部隊というようなもので、寄付を断る貴族を物理で脅しては私服を肥やしているらしく、被害が増えつつあった。


 しかし、大きな証拠がなく、また脅しに屈服したとあっては貴族の名折れと見て見ぬふりが続き、これらの証拠集めと実態調査を兼ねていくらかの部下を潜入させていたのである。


 その部下からの神殿に動きあり失われた儀式と報を受け、非番のさなか一般人に扮し潜入し、第3部隊のふた班を伴い地下祭壇へ足を踏み入れようと配置が完了した刹那、薄い扉の隙間から閃光が迸った。


 「くそっ!間に合わなかったか!」


 思わぬ光に目を潰された数人に異常がないか確認し、先陣を切ったのは俺で、その後にアルタとネージュが続いて、ネージュは若干呆れたように捜索の告知を行う。 内側から鍵がしてあったのか少し手こずったものの、中には大神官とそのおつきのヘビ獣人が四人祭壇を見つめて立っていた。


 儀式に香を焚きしめたのかそれほど広くない室内にはマタタビとは違う甘やかな香りが充満していた。


 (やばいな……。長くいたら酔いそうだ。)


 大神官たちの捕縛は部下たちに任せて、俺は祭壇の最上部を覗き込む。可哀想に、小さな塊が壁にベッタリと背中をつけて怯えたようにこちらを見つめている。まるで草食動物が捕食者を前に息を殺しているような姿が不憫でならない。


 まぁ、実際ライオン族である俺を前にすればその反応もあながち間違っていないのかもしれないが……。


 こぼれそうになる苦笑いを堪えて、まるで子供に語りかけるように優しく話しかける。


 「すまない。間に合わなかったのか……。」


 あと一歩踏み込むのが早ければこの子……この子でいいだろうシルエットはだいぶ小さい。召喚に不手際でもあったのかもしれない。なんせ200年も前に禁止されてその儀式の方法は失われていたはずなのだ。それを文献をつなぎ合わせて完成でもさせたのだろう。その犠牲がこの子供ということなら、同じ世界に生きるものとして、この王都を取締守るものとして、同じ獣人として申し訳ない。


 もとの世界に親兄弟がいたであろうに……。

 

 「大丈夫だ。何も怖いことはしない。キミを保護……守りたいんだ。ケガをしていないか確認したいからこちらに来てもらえないか?」


 まるで懇願でもするように手を伸ばす。苦しくて、申し訳なくて、それでもこの手を取ってほしくて、これまで神なんてろくに祈りもしなかったのに初めてのその存在に祈った。


 どうかこの子が傷つきませんように、拒まれませんように。


 迷うように伸ばされた手は伸びきる前にビクリとはねて動きを止めた。


 周囲から聞こえる怒号に怯えたらしい。可哀想に思いながらもアルタを嗜めるとその子から耳を疑う言葉が飛び出した。


 「かわいい……。」


 「は!?」


 思わず出た言葉にアルタとネージュの声も同時に重なった。


 聞き間違いだろうか……。よりにもよって猛獣種の俺を見てかわいいって言っただろうか。


 自慢ではないがこれまでの人生で可愛いなどと比喩されたことはない。や、幼体のときはあったかもしれないが少なくとも記憶の中ではない。おまけに騎士団でも強面の中年で若手からは避けられている自覚もある。


 それをかわいいだと……!?


 そんなことを思考しているうちに横からアルタが誘い文句のようなことを言っている。油断も隙も無い……。


 「大丈夫だ。キミのことは俺が守るから。」


 そういえば先程引っ込められた手が再び伸ばされて、思ったよりも随分小さな手が俺の手に重なった。それが存外に嬉しくて自然と笑みがこぼれた。着ていたにしては大きい衣服に疑問を持ちつつ、こちらに歩み寄ってくる様子が微笑ましいと思っていた矢先、足元の布の塊に躓いて転びそうになったのですかさず両手を伸ばし掬い抱き上げた。


 「ほら、守るといっただろう。ケガはないか?」


 抱き上げてその小ささに驚いた。どう見てもまだ母親に縋りついていても何ら不思議のない幼体だったからだ。我々獣人とは違うツルンとした毛のない丸い耳が猿族のように顔の横についている。平な顔の特徴から言って海の向こうの大陸にいると言われる人族だろう。国交が途絶えて随分経つのでこちらでは珍しい種族だ。


 幼子を観察していると木の葉のような小さな手が俺の頭に伸ばされた。怯えさせるわけにいかないのでやりたいようにさせようと思っているとその手首からふわりと甘やかな匂いがした。


 あぁ、あの匂いは香でもなんでもなくてこの幼子の匂いだったのか。


 そう思うと強かった香りがどこか心地よく、伸ばされた手が俺の髪を梳くのが気持ちいい。知らず知らずのうちに目が細くなり喉がゴロゴロと鳴る。


 まさか普段なら女子供に怖がれるというのに、初対面の少女に撫でられた上に喉を鳴らしているってどんな状況なんだ……。


 この少女はいったい……。



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