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霧島、騎士団にいったってよ

お越しいただきありがとうございます。


個人的な話ですが……人生初めてぎっくり腰を体験しました。ただで起きたくないのでいつかネタにしてやる!ってうつ伏せに転がりながら感じる今日この頃です。

 「つまり……だいしんかんによる、いほう、むきょかのしょうかんにまきこまれてしまったんですね。」


 今私がいるのは騎士団第二団庁舎にある隊長室である。召喚された部屋から連れ出されて分かったことだが、あの部屋は地下にある上級神官だけが立ち入れる祭壇室だったらしい。


 そこから隊員が乗ってきた馬車でなぜか隊長さんの膝の上に乗せられて運ばれました。


 解せぬ……。


 しかも移動中は同じ馬車に乗っていた騎士の人たちにじっと見られていた。凄い生暖かい目線で。


 解せぬ……。


 「に、しても幼児ならもう少し泣き喚きそうなものですけどねぇ。子供にしては妙に落ち着いているというか……。」


 紅茶を出してくれながら白に斑頭の美人のネージュさんが呻いた。


 「あ〜うちの甥っ子も似たような歳だけどこんな落ち着いて話すなんて無理だねぇ〜まぁ男の子だからかもしれないけど……。」


 観察するようにこちらを見るアルタさんも首をひねっている。


 せっかく出された紅茶なので飲みたい。喉も乾いた。しかしテーブルが遠い。


 応接のために設置されていると思われるローテーブルと二人掛けのソファの間には谷のような隙間がある。


 これは一度降りるしかあるまい……。


 にじにじとお尻で前に進み谷間に飛び降りようとしたら大きな手に阻まれて、腕をたどってその主を見上げれば大した表情の動きもなく紅茶の入ったカップをソーサーごと差し出された。


 「熱いぞ。火傷しないよう気をつけろよ。」


 「ありがとうございます。……フーフー。」


 確かに熱い。おまけに私は猫舌民なのでできたて熱々をガブガブなんて飲めない。


 「あ〜癒やされますねぇ〜。」


 「本人には申し訳ないですが必死なところが可愛いですね。しかも黒髪黒目という落ち着いた毛色でされるとなお愛らしいですね。」


 ギャップ萌ってやつかな?黒だからってのはよくわかんないけど。


 「あの、冷えたミルクないですか?」


 「ミルク?なにするんだ?」


 ミルクティーにして温度を下げたいのだが、どうやらあまりメジャーな飲み方ではないらしい。確かこういう異世界系ってミルクティーはあまり見ないもんね。


 「紅茶に入れて温度を下げるの。まろやかになるから美味しいよ?」


 にっこり笑って見上げたら少しは子供っぽく見えるかい?この際ミルクティーの為なら多少頑張るよ。サービスサービス!なぜか無駄に喉乾いたんだよね。


 「俺持ってくるよぉ〜。ちょっと待ってなちびっこぉ。」


 どうでもいいけどアルタさんは語尾伸ばさないと死ぬ病気かなにかなのでしょうか。間延びしたのんびりとした口調なのに視線はギラギラしてます。耳としっぽからネコ科の猛獣系の獣人さんだと思うけど私は食べても美味しくないですよ〜。


 なんとなく部屋から出ていくアルタさんを見ていると、入れ違いで金髪の人が入ってきた。


 ふさふさの長い髪と丸い耳、腰の下からのびる太いしっぽの先にある毛束まで隣に座る黒髪のリオンと似ている。ご親戚かなにかですかね?


 「団長、お疲れ様です。」


 立ち上がって敬礼なのか右の拳を心臓の上に当て、左手を後ろ腰に当てるポーズをリオンさんとネージュさんがするので、私は紅茶を零さないように気をつけてテーブルとソファの谷間に降り立ち、テーブルにソーサーごと置いてお辞儀を九十度してみる。


 「まさか、この子が例の儀式の?」


 「はい。失敗かどうかはわかりませんが召喚に巻き込まれた少女のようです。」


 リオンさんと話しながらも歩を進める金髪のイケメンが一人がけソファに座る。


 「なんと不憫な……。このような幼子が巻き込まれるとは。親兄弟も心配しているだろうに……。」


 なんだかものすごい心配されている。へニョンとした耳と力なく下がったしっぽに申し訳なく思う。


 「それはだいじょうぶ。うちのおやりこんしてそれぞれかていあるから。」


 そう。私の親は高校生のときに離婚した。それぞれ恋人がいて、父にいたっては腹違いの子までいて円満離婚。私はどっちについていくのも嫌で父方の祖父母に引き取ってもらったけど祖父は二十歳のとき、祖母は三十路のときに見送ってここ5年は一人暮らし。父とは祖母の葬儀以来会ってないし、母とも二十歳の成人祝以降会ってない。


 オタクまっしぐらな私としてはありがたい環境ですらあった。夏冬のイベント前に邪魔されないなんて素敵環境である。


 「こんな小さい子を置いてそれぞれの家庭って……。あなたは誰に育ててもらってるんです?」


 すごく悲しそうな顔でネージュさんが向かいから訊ねてきた。大丈夫。私は悲しくないからそんな顔しないで!


 「そだててくれたのはそふぼで、でもふたりがなくなってからはひとりぐらしだからかぞくについてしんぱいはないよ。」


 安心して!と言いたくてにっこり笑えばネージュさんは顔を手で覆って遂に泣き出してしまうし、リオンさんは私を抱き上げてなぜか背中を擦られる。


 「こんな小さな体でそんな苦労を……。うっうっ。」


 「キミのことはちゃんと守るから……。」


 待って、どんな状況なのよ。


 二人の反応に困って金髪さんを見れば、眉間にぎゅっとシワを寄せてこちらを見てる。何か怒られるようなこと言ったかな?イケメンが顔しかめると2割増で怖いからちょっとやめてほしい。


 「キミは心配ないというが、だいぶ家庭に問題があると思うぞ……。少なくとも我が国で幼児を一人放置すれば一族が黙ってないし近所にわかれば一族もろとも後ろ指さされる。キミの世界では違うのか?って子供がわかるわけないか。」


 そうか、今の私は子供だった。そりゃもとの世界でも5歳児が一人暮らしなんてありえないもんね。


 「俺の名はライオネル。この騎士団で団長をしている。この二人の上司だ。君さえ良ければキミの身は私が引取ろう。うちの息子の歳が近いからいい兄妹になれるだろう。」


 「ちょっと待てライ。この子は俺が引き取るつもりだったんだ。……俺の名はリオン、騎士団の第二団三番隊で長をしている。」


 「待ってください。こんなに可愛い子が苦労しているとあれば私も黙ってられません。私が引き取ります。……私はネージュ。こちらの隊長の下で副隊長をしてます。」


 お待ちください。君たち事件あるたびに子供引き取るんすか?それはちょっとも話題では?


 「ミルク持ってきたよ〜って、団長まで何言ってるんすかぁ〜。」


 アルタさん!いいとこに来た!ちょっとこの人たちに何か言ってください。


 「こんな可愛い子なら俺だって養子にしたいですぅ。あ、俺はアルタ!隊長の補佐官してるからお金の心配はないよぉ〜。」


 お金の心配がないのはありがたいよね〜って、ちょっ!裏切り者!そこじゃないよ!ツッコミ役いないの?!誰か問題を指摘してよ〜。


 「お前ら自己紹介もしていなかったのか……。大体お前ら3人とも寮暮らしなんだから引き取る環境でもないだろう。」


 ライオネルさんが頭を抱えるが、問題はそこではないと思う。


 「環境でいうならライは王子なんだから安易に子供を引き取るべきじゃない。シンバと歳も近いとなれば貴族連中から余計な勘ぐりもある。この子に余計な危険が迫るのは目に見えている。」


 なんと団長様は王子様でしたか!ラノベでよくあるやつですね!家族もあるということはお住まいは宮中でしょうか。そんな所は辞退したいですね。何としても回避せねば!


 「必要なら寮を出る。しかし、急ごしらえの使用人は信用できるか怪しいから寮のほうがいいだろう。あそこなら常に人がいるから守ることも容易い。」


 「あの〜。ほごしせつ……ここならしゅうどういんとかこじいんとかないの?そういうのじゃだめなの?」


 思わず問かければ、全員の耳と尻尾がさがる。


 解せぬ。


 「キミは強制的に召喚された稀人だ。国で保護する決まりだし、儀式が禁止されて200年たつからどんな弊害があるかわからない以上我々がすぐ対処できる場所にいてほしい。」


 なるほど。そうなると一人暮らしも認められないんだろうなぁ。しかし、ここはダメ元でも提案くらいしてもいいはず。


 渡されたミルクを受け取りカップになみなみと注ぐ……しまった入れすぎて表面張力が頑張ってる。慌ててカップに口をつけて溢れないようにゴクゴク飲む。


 お行儀悪かったかなぁと見上げたらなぜかほっこりした視線をいただいてしまった。これでもいい年したおばちゃんなんですがね……。


 「そういうことならしかたないのかな?いちおうきいてみるけどけどひとりぐらしもだめってことだよね?どうぐのつかいかたわかれば、これまでどおりひとりでできるけど……。」


 「「「「流石にそれは……。」」」」


 ですよね……。聞いただけだよ。わかってたよ。だけどね。


 「あ、わたしのなまえはきりしまいづなです。こっちだといづな・きりしまかな?きりしまがファミリーネームでいづながなまえ。」


 「ファミリーネームがあるということは身分は高いということか……。」


 ライオネル様が顎に手を当てて唸っている。王族相手ってことは様をつけたほうがいいよね、きっと。


 「おことばですが……。わたしのせかいはみんなファミリーネームがありますし、わたしはへいみんにあたるいっぱんかていのこどもでふゆうそうのにんげんではないです。ちなみにさんじゅうごさいです。」


 「「「「35!?」」」」


 全員がコントみたいに声揃ってた。面白い。


 「いやいやいやぁ〜。それはさすがにありえないってぇ〜。」


 「どう見ても幼児にしか見えませんよ。」


 「35といえばライと同じか?確かに落ち着いているし我々の言うことも理解しているようではあるが……。」


 「召喚された人間の若返りなど聞いたことないぞ。文献でもそんな文言みたことないし……。」


 四人口々に好き放題言っている。証拠となるものといえば……。リオンさんの腕を手してし叩いて下におろしてもらうとソファに置いていた鞄を開けて折りたたみ財布を出す。


 「イズナ?それはなんだ?」


 手放したから行動が気になっていたであろうリオンさんが私の手元を覗いてくる。


 「これはわたしのおさいふ。これがうんてんめんきょしょうでわたしのせかいでのみぶんしょうになるんだけどここにせいねんがっぴがある……。」


 って、思ったけど年号は2回変わってるし西暦表示もないし今年の記載が無いからこれじゃわからないか。保険証も似たようなもんだし……。他にわかりやすいのないかなぁと財布のカードポケットを片っ端から出していく。意外と色々あるんだポイントカード。


 「ギルドカードや俺たち騎士の身分タグと同じってことか?」


 「でもこれはねんれいかいてないからわからないか……。あ、これならいいや。ここがせいねんがっぴでしょうわろくじゅうねんじゅうにがつさんじゅういちにち、そのとなりがわたしのねんれいさんじゅうごさい。そのしたはじゅうしょ。」


 一年更新の手芸屋のポイントカードだ。今どき年齢記載とか失礼な奴めって思ったけどこれなら理解してもらえるだろう。ありがとうポイントカード!帰ったらお店ご贔屓にするよ!帰れるかわかんないけど!


 ちなみに大晦日生まれ!別名シンデレラデーらしいよ!


 「ほんとうはさんじゅうごさいだけどきがついたらさいだんのうえでこどもになってました。」


 しょぼんとしながら出したカードを財布にしまっていく。


 「召喚の影響でしょうか。」


 「どう見たって五才くらいっすもんねぇ~。」


 四人の男たちは雁首揃えて悩みだした。


 霧島いづな 35歳!


 異世界召喚されたら騎士団に連行されました!まぁ、ここまではテンプレだよね! 



 

ご覧いただきありがとうございます。


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