霧島、涙を流す
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やった!更新間に合った!!セーッフ!!
毎度誤字報告ありがとうございます!本当にありがたいです!
「イズナ?何を描いているの?」
尋ねられて手元の紙から手を離して持っていたスケッチブックをそばにやってきた少年に渡す。
「これは……おひめさま?そのとなりは王子さま?」
「これとーさまとかーさまのふくににてる!」
本日は晴天なり……。
今日はいつものとおり王弟殿下こと団長閣下の奥様とお子様たちとのお茶会である。
お茶会とはいうものの、いつものように騎士団での定期報告をして、美味しい紅茶と本日のお菓子パウンドケーキに舌鼓を打ったら、王弟妃さまから「これを見て」と何枚かの紙を見せられた。
「女性の制服にときめくのなら、男性の制服にもときめいていいんじゃないかしら。」
なんと……制服カタログ男性版だと!?
なんて素敵な企画でしょうか!
見せられたのはもちろん男性の制服デザインである。
そんなの見せられて黙っていられるはずがない!
もちろんこの素直なお口は今日も元気に思うままにしゃべりまくる。
「せいふくならやっぱきしもえははずぜません!でもせいふくだけじゃなくておとこのひとはしゅちゅえーしょんとしぐさがいいのです!!」
いうが早いか、飾ってある花瓶から赤いバラを一本引き抜くと、護衛騎士の青年のもとにとてとて寄っていって、しゃがんでくれるように頼むと、三角のお耳にコソコソと話しかけてバラの花を手渡す。
すると、その騎士は緊張の面持ちで歩き出し、深い呼吸を一度するときりっと引き締めた顔……なのだろうきっと。
いかんせんこの世界のひとたちは獣顔なにで小さな機微は私ではわかりにくい。
騎士はガゼポの柱に手をつくと片腕の中に侍女さんを捕まえて、反対の手で一輪のバラを差し出す。
「今度お茶でもいかがですか?」
ナンパである。
いや、厳密には壁ドンをさせたかったのに壁がなかった。まぁ、柱でもいいよね。
とうの侍女さんはあまりの出来事にバラを受け取ったものの目を見開いて動けないでいる。
「まぁ、イズナちゃん!あれはなぁに?」
「かべドンです。かべがないのではしらになってしまいましたが。」
「壁ドン?」
「ちょっとごういんにせめられるというじょうきょうにじょせいはよわいのです。とつぜんであればあるほどいいし、アクシデントせいがたかいとなおこうかがあがります。」
ただしイケメンに限る。の補正がつくのはあえてだまっておこう。
言わないほうがいいよねってことは世の中にたくさんあるのだ。
「確かにこれを愛する殿方にされたらすてきね!」
「このあとにみみもとでささやかれるとなおグッときます。あとは、あいてがおどろいてうごけないでいるうちにちょっとみつめあってからあいてになにかいわせるまもなくキスするのもありです。」
ただし嫌われてる相手にそんな事したら殴られるのは言うまでもない。が、あえて黙っておく。世の中には……以下略。
「わたしはほかにタイをかたてでゆるめながらためいきつかれるとドキッとして、そのあとにこまったように微笑まれたらキュンキュンします。」
「キュンキュン?」
「ときめくってことですね。ひでんかはありませんか?」
「そうねぇ、ソファでお行儀悪く座りながら片手でワイングラスの口を持っているとドキッとしちゃうかしら。」
ちょいワル萌ですね。わかります。あれもいい。普段素行のいい人やかっちりしたお仕事の人ほどギャップが大きくていい。
「わ、わたくし乗馬なさる時の片手で手綱を操って楽しそうにしてらっしゃると目が離せなくなります。」
「かたて……よゆうのあるおとこのひとがすてきってことでしょうか?」
なんとなくそんなこと思っていると、勇気を出して発言した侍女さんに続けと独身既婚関係なく好きなシュチュエーションやしぐさを話し出す。
知ってます。もうこうなれば熱が覚めるまで誰も止められないのです。
って、わけで私はスケッチブックを広げて最近見た中で可愛かった妃殿下の服装と団長さんの姿をイラストに起こしてみる。
実はお茶会でカタログの好評さを聞くたびに妃殿下はもう少し若ければ!から始まり団長さんとの恋愛あれこれを聞かせてくれるのだ。
なんでも学生時代は性格の悪い子に絡まれてとか、そいつが婚約者だった団長に絡みに行ってたとか、なんとかかんとか。
あ、これあれだ。こっちに来る前に流行ってた悪徳令嬢系のあれだ。
確か流行りに乗っかってやろう〜ぐらいの感じで悪徳令嬢逆転系話のプロットまで描いていたので、せっかくだからこちらの人にウケるように獣人キャラで描いてしまおうと思ったのである。
な、わけで。せっかく目の前にいるからスケッチしてしまおうとイラストを描きまくってるのである。
その手元を見たご子息様方が物珍しいらしく覗き込んできたのだ。
「これ、とーさまとかーさま?」
いまここ。
「そうみえますか?」
「みえる!」
「イズナは本当に絵が上手だな。そのへんの肖像画家よりも上手だそ。」
「ありがとうございます。」
「まぁ、なになに?見せて?」
こちらの話題に気づいたのか妃殿下が目を輝かせていたのでスケッチブックをそのまま見せる。
「まぁ、素敵!これはこの後どうするの?」
どう……?
聞かれたら答えねばならないだろう。
「えっと、ひでんかからきいたがくせいじだいのはなしをマンガにしようと思って……。」
言葉と同時にかばんからプロットの紙を出して見せる。これはいわゆるマンガの設計図でコマ割りはどうしたらよく見えるか、角度は、背景は、セリフは……というのが後から見てわかるようにするためのもので、それ自体は原稿ではないから人物も棒人間で表所がわかる程度にしか描いてない。
「まぁ、私の学生時代にあったことにそっくりだわ。」
マジカァ
人間も獣人も同じなのか。
「あ、でもここは……。あとこちらも……。」
いくつかの修正がはいったがまぁ、これくらいはいいかもしれない。
「イズナが先日公開訓練にもマンガを配ったでしょう?あれが大分好評だったの。せっかくだからこのお話このまま出版しましょう。今度私の知り合いの出版社を紹介するわ!」
「ふぇ!?」
や、確かに自分の本を出版って夢だった。自費出版じゃなくてプロになるってずっと夢に見てたけど。
こんなあっさり?
「ほんとうですか?」
「ええ!今から待ち遠しいわ!描き上がったらぜひ一番に私に見せてね!」
とても嬉しそうな笑顔にもとの世界でみた最後の笑顔にかぶる。
奇しくもこのプロットを最初に見た友人。同人な彼女が「今流行って取られがちだけどちょっとづつある違いが楽しいのよね!書き上がるの楽しみにしてる!」って。
ああ。そうだ。私は彼女にこれを完成して見せれなかった、果たせなかった約束があったんだ。
どうして忘れていたんだろう。
どうして無関心になろうとしていたんだろう。これまで生活していた記憶があるのに。何も感じられないかずがないのに。
「あらあら。」
「い、イズナ!どうした!大丈夫か!?」
きゅっとしまった喉に熱くなる目の奥と頬を滑るその雫に気がついたのは周囲の反応がおかしかったから。
「あ、あれ?えっと……。」
悲しいわけではない。こうなった以上仕方ない。帰る手段はないようだし、家族も彼氏もいなかったんだから固執するのは友達くらいだし、その友達だって彼女たちには彼女たちの生活があってそれ以上にはなれない。
だからこの世界に来たことに何ら後悔はない。でも、未練がないはずがない。一人には広すぎるあの古い家にはまだ叶わない夢が詰まっていた。
もう失って戻らないもの。
どうして目をそらしていたんだろう。
後から後から流れる涙が止まらなくてどうにか強引に止めようと袖でこすろうとすればそれをもふもふな小さな手に止められる。
「こするのは良くないよ。」
ささやくような声に視線を上げれば金のまだ鬣の生えない頭があった。
「でんか……。」
「レーヴェ。僕はレーヴェだよ。」
頬にざらざらしたものがあたって何事かと目を見開く。
「イズナ、ちゃんと名前で呼んで?」
「レーヴェ……おうじ?」
「僕は王位とは関係ないから王子じゃないよ。ただのレーヴェ。」
「レーヴェ?」
「そう。」
言いつつもポタポタ流れる涙を舐められる。これは、あれだ。猫が毛づくろいしてるのとにてる気がする。
「イズナは寂しい?」
寂しい?どうして?
こんなにたくさんの人が種族の違う人間の私に差別なく優しくしてくれるのに?
寂しいはずが……。
「さびしくは……。」
「本当に?」
「だってみんなやさしい。」
右の頬を舐められて。
「優しい人がみんな家族じゃないでしょ?」
家族……。そんなのもう随分と前にいなくなった。今更寂しいなんて思わない。
「それは……そうだけど。」
左の頬を舐められる。
生理的に流れる涙はしゃくりあげることもなくただ静かに流れていく。
「ねぇ、イズナ。」
ザラザラとしてるけど温かい。今までで一番近い距離。
「おうちにおいで。」
だんだんと重たくなる瞼に少しづつ遠くに聞こえるその声幼い声。
「僕と家族になって……?」
私が覚えているのはそこまでだった。
ご覧いただきありがとうございます。
感想をいただきましてありがとうございます。イズナがかわいいといっていただけて安心しています。
わたしのかいているものの大半は獣人ネタで最初は自給自足から描き始めるのでプロットもなければ終わりも決めてません(コラ)なので、毎回話の内容はその時降りてきたアイディア次第で、正直自分でもこんな着地になるとは……と毎回思ってます。なのでそろそろ矛盾やら出てくる頃とは思いますが広いお心で読んでいただけるとありがたいです。
ツイッターにて一話に登場したへびさんたちの神官服のイラストをアップしております。よろしければ遊びに来てください。
これからもよろしくお願いいたします。




