霧島、異世界に召喚だってよ
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自給自足の異世界転生、獣人、騎士団ものです。正直自分が読みたい願望満たすために書き始めた作品なので完結まで行くかはなはだ疑問ではありますが気長にお付き合いいただければ幸いです。
「っくし!」
ふるっと身を震えさせてお尻の冷たさに眉をひそめた。掌に当たる地面の硬さと冷たさに、ここがどこなのかと視線をさまよわす。白んだ視界には周囲の様子はうかがえない。
石造りの床は冷たくて、線に英語の筆記体のような文字やよくわからない絵が自分を中心に円形にかかれている。その周りは床が下がっている。私の周りには布が落ちている。
「ちがう……。これわたしのふくだ。このせんはまほうじん?」
それは自分が着ていたはずの服がストーンと地面に落ちたかのように輪になってしわを寄せている。お気に入りの紺のキャミも紺のブラもシャツの中でストーンと脱げて腰のあたりで蟠っているし、透け感のあるドット柄のシャツの上にはおっていたカーディガンは床に落ちてる。
きっとお気に入りのシューズとパンツもブラとおそろいのレースの可愛いパンツも役に立たないだろうし、誰に見せる予定もないのに勢いで買ったガーターベルトと二―ハイソックスも役に立たないんだろう。
くっそう。これ揃えるの高かったのに。今日卸したばっかりだったんだぞ。
内心でダレに言うでもない文句をぼやいてみれば服に紛れてカバンが一つあって、中身に異常がないか確認すべく急いで引き寄せる。大きながま口バックはイベントで気に入って衝動買いしたお気に入り。カバンも含めて今日は推しのテーマカラー紺と白と水玉でコーデした若干ネタ寄りのお気に入りコーデが無残なことになっている。幸いなのは鞄の中身が見た目の損害がないことだ。
ちょっと安心してカバンを抱きしめた手が小さしやたらと重く感じる。
「からだがちぢんでる。」
おいおい!見た目は子ども頭脳は大人……その名は!!
じゃない。リアルでそんなこと求めてない。そんな展開希望してないです。どこよここ?
先ほどまで白くてよく見えなかったものはカーテンだったようで、するすると正面と左右にあった白いカーテンが開かれたことでそこが12畳ほどの部屋なのがわかる。自分のいる魔法陣しか広さがないのかと思ったら実は段があってそこがカーテンに囲われていたから部屋全体が見えなかっただけのようだ。
「まほうじんに……さいだん?」
脳裏によぎるまさかの展開。
「おお!召喚に成功したぞ!」
「これが聖女様なのか?失敗ではないのか?」
「育てば美女になるかもしれんぞ。」
美女じゃなくてすいませんね。
どこから声がするのかと思えばぬっと視界に入る乳白色は鱗のようなものが見える。
「ひっ!」
突然の事にびっくりして思わず後ずさると背中に壁があたって目の前を見れば白い蛇の頭に赤い4対の瞳に肌が泡立つ。
「へ、へび……。」
しかも大きい。頭の大きさが人間と同じくらいだ。大蛇なんてレベルじゃない。怖い。と思ったのに頭の上にちょーんと乗った青い小さな帽子がアンバランスで間抜けに見える。しかも四匹のうち一匹は明らかに横に伸びてる。や、太ってる。メタボだ。メタボな蛇だ。帽子がことさら小さく見える。びくりと反応した体に盛り上がる涙が帽子の存在で引っ込んだ。
「なんだ。我ら崇高な蛇族に感動して声も出ないか?」
「やはりただの子供ではないのか?」
なぜかメタボな蛇にバカにされた気がする。表情はよくわからないけど。
しかし、召喚とか言ってるあたりやっぱり私は異世界召喚ってやつに巻き込まれたらしい。まさかあっちの世界の私死んだのか!?
今度こそあふれる涙がポロポロこぼれて胸に抱えたバッグをぎゅっと握ったときどこからかバタバタとした足音が響く。
「違法儀式の通報を受けた!動きを止めて両手を上げろ!」
「はいは~い。現場を保護しますからねぇ。動いたら犯行とみなして切ります~いたいのいやならきょうりょくしてくださいよぉ~。」
「あなたたち……。こちらは王国騎士団第二団所属三番隊です。違法儀式の通報を受け現状を検めます。なお反抗を行えば直ちに捕縛連行します。」
音とともに入ってきたのは黒に金の飾りが入った揃いの服を着た男たちが三人入ってきた。
ふさふさの黒髪に金目の人と白に黒のメッシュが入ったような色の髪を後ろに流したブルーグレーの瞳の人と青みがかった灰褐色の髪を短かくしたグレーの瞳の三人で一目で軍人と分かるほどに身長も高いし筋肉がついている。マッチョというほどごつくはないけど、一般人というには体が鍛えられていて違和感がある。
そして髪に埋もれるように頭上にある丸みのある耳とゆらゆらと楽しげに揺れる長い尻尾がネコ科を表している。
「じゅうじんのぐんじんさん……。」
思ったことがそのまま口に出ていたらしい。幼い体は思いのほか素直らしい。
その声を聞きとったのか丸いお耳がぴくぴく動いて、黒髪の美形がこっちに歩いてくる。
「すまない。間に合わなかったのか……。」
悲痛な面持ちで眉根をぎゅっと寄せる。祭壇の上にいるせいでしゃがんでいる私でも目線が近いが、二メートル四方の祭壇の奥で壁にぺったりとくっついている私に向かって手を伸ばしてくる。
「大丈夫だ。何も怖いことはしない。キミを保護……守りたいんだ。ケガをしていないか確認したいからこちらに来てもらえないか?」
なんでこの人が泣きそうな顔をしているんだろう。伸ばされた手をとっていいのかわからなくて、でもこの状況をどうにかしてほしくてそっと手を伸ばそうとするけど不意に手が止まる。
「誰の許可をとってこんなことをしている!」
「大神官長たる我に誰の許可が必要だというのだ!我が許可をした!これでこの国は敵に攻め込まれぬ平和な国になるのだ。」
「つまり王の許可もなく勝手な真似をしたと!?」
灰褐色の美麗さんは意外と口が悪いらしい。見た目がいいから迫力が満点でメタボな蛇との言い合いに体がびくりと跳ねた。
「アルタ、怯えさせてしまう。」
黒髪の美形さんがため息交じりに注意すればアルタと呼ばれた美麗さんの丸いお耳がヘニョンと下がった。
「かわいい……。」
ち。この素直なお口め。
「「「は?」」」
祭壇を覗き込む3対の瞳がきょとんと見開かれる。
なんだったかなぁ~?かわいい猫動画でこんなの見たなぁ。誰か猫じゃらし下さい。
「フハハハ。俺かわいいは初めていわれたなぁ。さてさてお嬢さんここは随分と寒いだろ?陽の当たるあたたかいとこ行こうぜ。」
「女たらしのアルタが絆されるのは珍しいですね。」
「ネージュうるさいよ。」
白髪の美人さんがアルタさんを揶揄っている。美人さんなだけに近寄りがたいと思ったのは早計だったか……。仲よくしてくれるかな?
ドキドキしながらカバンから離した右手をそっと伸ばす。
「大丈夫だ。キミのことは俺たちが守るから。」
美形さん。今まで何人の女性を泣かしたんですかねぇ。なんて思いながら立ち上がって歩き出そうとしたら、何かに足がもつれて引っかかったうえにストーンと腰のわだかまりが落ちてさらに足がもつれものの見事に前のめりに……これ絶対いたい転び方!
次にやってくるであろう痛みを想像したものの、痛みどころかふわりと浮かぶ感覚に目を開けばすぐ間近にある黄金の瞳の中に揺れる黄土色の動向が揺れている。
「ほら、守るって言っただろう?ケガはないか?」
嬉しそうに細められた目がまるで猫の様に可愛くて思わず伸ばした手を頭に乗せて意外と柔らかい髪を梳くように撫でてみる。
「おおぉ?」
「おや、おや。」
「っ!……ゴロゴロ。」
「り、リオン?」
「プハッ!隊長が手懐けられてんじゃん!」
驚くネージュさんと爆笑するアルタさんの反応に来やすく撫でてしまったことを後悔するものの幼い体は思ったことが口に出るし頭で考える前に手が動く。これは困った。
リオンさん?隊長さん困ってるのか目を見開いたまま動かなくなっちゃったし。どうするんだよ私!この状況!
「いなほみたいなきれいなめだね。」
素直なおくちぃぃぃぃぃ!!
確かに金の瞳が秋の稲が実る田んぼみたいで綺麗だと思ったけど、すなおすぎるよぉぉぉ。
隊長さんはふっと笑った後にもっと撫でろと言わんばかりに、頭を手に寄せてきた。
「はは!隊長にきれいって子供なのに殺し文句!」
アルタさんは笑い上戸なのかな?さぞかし飲み会では人気者だと思うよ。
「リオンが喉を鳴らすなんて子供の時以来ですね。女性に近寄られても無表情になるばかりなのに……。って、子供ですね。」
「召喚失敗したのか?聖女って妙齢の女性……ってのは俺の勝手なイメージなだけぇ?」
幼女ですいません。聖女ではないと思います。
「っくし!」
く!透け感のあるシャツ一枚なので寒い。誰かパンツください。しかもサイズが大きいからえりもがばがばで風がすごくよく通る。
「すまない。それだと寒いな。」
いうが早いか美形の隊長さんが自分の胸元の止め紐を外してマントで包んでくれる。イケメンさん申し訳ないです。ちょっとだけ貸してください。あったかいよぉぉ~。
柔らかくぬくぬくのマントに思わず頬ずりしてしまう。あ、イケメンさんはマントまでいい匂いなんですね。ありがとうございます。
「さ、ここは寒いから騎士団にいこう。話を聞かせてもらえるかな?」
「あ、まって。ふく!ふく!くつ!」
抱かれたまま祭壇を指すと、アルタさんが自分のマントで落ちてるもの丸ごと包んでくれた。なんだか申し訳ない。
裸足に気を使ってくださったのか隊長さんに抱っこされたままで祭壇のある部屋から連れ出してもらった。
霧島 いづな、35歳 人生で初めて異世界に到達しました!!
や、目指したわけじゃないけどね!
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