3、好きな物
「菖蒲、何か僕に言う事はないか?」
小学校から帰ってきて第一声お兄ちゃんは私に脅しをかけてきた。まあ怖い顔。でも全く身に覚えがない。
「えっないよ?」
「いじめにあってる男の子を助けたりしてない?」
何故それを知っているのですか?怖い。でも楽しいからもう少ししらばっくれてみよ。
「なんの話?ごめんなさい、さくにい本当に分からない。」
「女の子1人で3人の男の子やっつけたって聞いたよ。菖蒲の事じゃない?」
誰にだよ。しかもやっつけたって。面倒だから私じゃない人が助けてくれた事にしよう。
「私が男の子3人に勝てると思う?」
「思わない。」
「でしょ。たまたま水を飲みに行ったら後ろで男の子が泣いてて砂を払ったり拭いてあげたりしただけだよ。」
「そうなんだ。分かった。でも危ない事には首を突っ込まない分かってるね?もうそろそろ小学生なんだからね!」
だいぶ考え込んだ後納得した。やはり子供はちょろいのぉ。
「はいはい。」
「本当に分かってる?」
「ほらお兄ちゃん遊びに行くんでしょう。早く行きなよ!」
「あーうん、どうしようかな。今日母さんがいないからどうしようかなって迷ってたんだよ。」
「え、行ってきなよ!付き合いは大事ですよお兄様!」
「そんな言葉どこで?」
「とにかくお兄様、友達付き合いは大切ですわよ!」
「まあそこまで言うなら菖蒲も一緒に行こうか。」
「え゛ぇいや私はお家で大人しくしています。」
「ん?友達付き合いは?」
「……大切です。」
「6歳の子を家に1人で置いておくのは不用心だよね?」
「はい、お兄様一緒に参ります。」
「よろしい。」
ちょろいとか言ってごめんなさい。このお兄ちゃん正論で殴ってくるタイプだ。仕方ない大人しくついて行こう。隣ですーんと大人しくしておいてぱーっと帰ろう。
「朔、妹ちゃんいらっしゃい!」
あら明るい男の子。声は聞いた事ない。お兄ちゃんは多分落ち着いているタイプなので何となく真反対な性格……。
「こ、こんにちはぁ。」
驚いた、明るい男の子の後ろから出てきたのは、和真君だ。まだピンクの絆創膏をしている。
「お邪魔します。崇ごめんな妹まで。ん、あの絆創膏そっか菖蒲が。」
「いやいいよ。弟も一緒だし。」
「そっかありがとな。」
目ざといな絆創膏を見るなんて、本当に小学生か?やはり侮れないね。兄2人はリビングでゲームをするらしい。
「崇なんだかいつもよりウザイな。」
「あははー。わかるか?電話でも言ったろ。和真がさ幼稚園でいじめられてたんだけど女の子が助けてくれたんだって!俺何もしてあげられなくて、でも本当に良かった。」
こいつが言ったのかぁ!和真君が口を開こうとした瞬間、慌てて手で抑える。そして首を横に激しく振る。小声で、
「お願い絶対に言わないで。」
そしてもう一度首を横に振る。その瞬間、お兄ちゃんと目があう。お、おわた。
「菖蒲さん、どうしたんだい急に慌てて首を振って。」
お兄ちゃんの目がすわっている。私は血の気が引いて和真君の後ろに隠れた。先程と立場が逆になってしまった。無理あの人怖すぎ!うちの上司より怖い。絶対に小学生じゃない!あのドSな目。
「お、お兄ちゃん私和真君と遊んでもいい?」
振り絞った声は微かに震えている。
「うん、いいけど。和真君と先に話をしてもいいかな?」
「ダメ、だって私と遊ぶのが先だもん。」
「ほーそうか。そういえばいつから自分の事を私って言うようになったのかな?前はあやって呼んでたよな。大人ぶりたいのかな?お年頃かな?いつからそんなに仲良くなったのかな?」
「あ、え、あのそ、え。」
盾にされた和真君は必死に私を庇ってくれている。こいつ本当に良い奴だな。そんな子を盾にするなんて大人として情けない。
「和真君のお部屋に行こう!」
「えっうん。」
「あっ待て!」
とお兄ちゃんが言ったけど和真君のお兄ちゃんがほっとけゲームしようぜという風に掴んで離さなかった。ナイス!
さて和真君と2人きりになった訳だが。話す事がない。こういう時は。
「今日はいい天気だね。」
「うん、晴れてるね。えっと外行きたい?」
「ああ、ごめんごめん違う違う。えっと和真君は好きな物はある?」
「好きな物?うーん。」
どうしようめちゃくちゃ考え始めてしまった。幼稚園児なんて好きな物たくさんすぐに出てこない?
車、電車、動物、アニメに食べ物。
「僕の好きな物?」
「じゃあ私はねお肉と塩辛とそうめんとゲームとお兄ちゃんとお母さんとれんちゃんと和真君も好きだよ。」
「ありがとう。菖蒲ちゃん塩辛って何?」
「私の好きな塩辛はイカの身と内臓を塩漬けにして発酵させた食べ物だよ。」
「そ、そうなんだ。僕食べた事ないや。」
「で、何が好き?」
「菖蒲ちゃんが好きだよ。」
わぁ可愛い。気をつかってくれたのか子供なのに。
「ありがとう!以外は?」
「うーん。」
「菖蒲そろそろ帰るぞ!もう5時だから。」
お兄ちゃんの叫ぶ声が聞こえる。
「はーい!ごめんね和真君また明日!」
「うんバイバイ。」
家に帰るとお母さんが帰ってくるまでみっちりお兄ちゃんに説教をされました。
この件があったからかお兄ちゃんの監視の目はとても強くなりました。
でもお兄ちゃんの言いつけを守る事なく駄菓子屋に行ったりお家に遊びに行ったりしました。
だって大人だもん!
そしてお兄ちゃんに毎日怒られながら小学生にあがりました。