2、幼稚園では
とりあえず着替えながら1度整理しようか。私は声優オタクで声を聞いたら誰か分かるという特技を持つ。秀でた特技はそれ位かな。30年生きていて、それしかないなんて、畳に膝をつく。しょうもない大人になってしまいました。他に私の長所は?……。まあまあおいおいね。うん。この人生に役立つ事がきっとある!
この世界の設定は現代の日本だから前と変わりないね。そして舞台は高校だからまあだいぶ時間はある。もしも本当に私が主人公ならもし男の子達に好かれるなら、ヤンデレされるなら対策も考えないといけない。2人しか攻略していないけど、私が学園で孤立しいじめられるというのが病んでしまうトリガーだった。
なので目標はいじめられない!だ!よし。
私がこのゲームで攻略したキャラは2人、お兄ちゃんと高校で初めて会う同級生。2人のストーリー以外全く分からない。攻略できるキャラは後3人?だったはず。そして重要な要素として学園での生徒会というのがキーだった。そこに無理やり教師に入れられて色んなイベントが起こってしまうのだ。
くそう!1番仕事が辛い時に、最推しの高校の同級生、悠斗君(CV西澤さん)をとにかく何周も何十周もしたけど他のキャラ迄手がまわらなくて、他の子は名前も性格もいつ登場するかも分からない。ああ、ブラック企業になんて入るからこんな事に。
「私、この人生は絶対にホワイト企業に入る!」
待てよ、聞いた事ある声の人なら主要キャラなのでは?さっきお兄ちゃんのCVはそのままだったし、もしかしたら声で主要キャラが誰かを考察できるかもしれない。映画とか吹き替えで見た時、ワンシーンしか出てないキャラクターなのに有名な声優さんで絶対に怪しいと思ったら裏で手を引いている悪役だった事もあるし、この作戦いけるかも。
「おい、大丈夫か?あれ、まだ着替えてない?」
はっそんなに時間が経ってたか。そしてCVは岩下さんのままだ。いい声だな好き。この人のCDもたくさん買ったなぁ、この人は低くて少し特徴がある声だからわかり易いし好き。
「ううん、着替えたよ。にいに。」
「あのさ、昨日何かテレビで見たのか?にいになんて呼んだ事無くないか?いつもならさくにいって呼んでるだろう。」
あー!名前、朔だ!国分朔。
「なんでもないよさくにい。」
「まあいいけど、僕も小学校遅れるから、菖蒲も幼稚園遅れるぞもうすぐ卒園だろしっかりしないと。」
「うん、ありがとう。」
って事は私は6歳、朔は7歳。1歳差だった筈。情報をたくさんありがとうお兄ちゃん。
朔は手を引いてダイニングまで連れてきてくれた。机には優しそうなお母さんが座っていてニコニコと私達が食べる様を見ていた。
私の母は私を産んだ時に亡くなって、父は私を1人で育ててくれた。まあその父も去年亡くなったけれども、親孝行はしたし悔いはない!
お母さんは手早く朝食を食べた後の食器を片付けた。もしかしてだけど私より年下?偉いな2人の子供をしっかり育てて、部屋の掃除も行き届いているしっかりしてるお母さんだ。お母さんと手を繋いで色々お話をしながら幼稚園に向かう。可愛らしいお母さんで歩く途中も猫を見せてくれたり蝶を見せてくれたりとても楽しかった。
1週間通って分かった事は、わんにゃん幼稚園はその名の通り犬組と猫組からなる年長さんだけの幼稚園で、比較的大人しめの子達が多いのは犬組、アクティブでやんちゃな子達がいるのは猫組のようで猫組の先生は1人多い。私は犬組で仲良しのお友達も犬組の女の子れんちゃんで、おままごとや絵本を読んだりとまあまあ内向的な遊びしか誘われないので大人しい2人なんだろう。
「幼稚園って結構色々な事をすると思っていたけど自由時間も多いわね。」
建物の裏の影になっている所で少し休む。今多くの子達は園庭で遊んでいるだろう。れんちゃんは今他のお友達と遊んでいるのでそっと抜けてきた。1週間この世界にいるのに何も思い出せない。
結局、毎日お兄ちゃんの声に萌える日々な訳ですが、気付いた事が1つありまして、お兄ちゃんはもう既に過保護で私の行動を制限したがりますね。
「でもあの声で言われると許しちゃう。」
公園は駄目、駄菓子屋も駄目、友達のお家に行くのも駄目、本当に困っちゃう。でも幼稚園の方が大体先に終わるから全部事後報告で1つも言うこと聞いてないわ。ごめんねお兄ちゃん。
「なあおい、お前ママがいないんだろう。」
「なー嫌われて捨てられたんだってー。」
「うわぁー可哀想。」
そこで誰かがこける音がした。
そっと音の方を見ると3対1でいじめているようだ。こけてしまった男の子は蹴られたり砂をかけられたりしている。3人の男の子はニヤニヤしながらいじめ続けている。うーん子供の喧嘩の仲裁ってどんな風にすればいいだろう。とにかく庇うかいじめはなくさないとダメ、絶対。
「何してるの?」
自分でもびっくりする位冷たい声が出せた。3人はビクッとして蹴るのを止めるが私を見てまたニヤニヤとし始める。女だからか犬組だからか完全に舐められている。仕方ない毎週土曜日のお昼に見続けたあれを出すか。
「何してんねんって言うとんねんボケェ!」
この年齢なら怒鳴られた事などないだろう。予想以上に上手くいきそうだ。3人の男の子は本当にびっくりした様子で蹴るのを止めて固まった。ついでにいじめられている子も怯えている。助けにきてんぞ!失礼やな!
「なあ聞いてんのか?人どついて子供やから許されるとおもてんのか?」
「だ、だって。」
「だってもくそもあるかいや、こうなったら落とし前つけてもらわなあきまへんなぁ。おおん!」
私はニヤニヤと言う3人は完全に怯えておしくらまんじゅうのように先頭を譲り合い後ろに下がり始める。
やった、場を掌握したぞ!正直こんな関西弁日常で聞いた事がないから恥ずかしい。
「まあわても鬼ちゃう、親と先生に言われたくないって言うんやったら、この子に謝ってもらおうか。そしたら許したろう。」
「ご、ごめんね。」
「ほんで?」
「え?」
「もう二度としませんやろうが!」
「はい、もう二度としません!」
「よろしい、君もいい?」
俯いたままくぐもった声でこたえた。
「いいよ。」
3人は一目散に走り去っていった。何よ失礼しちゃう。でもこの作戦は子供相手にしか通じないだろうなぁ。喧嘩では負けるだろうし、いや急所を狙えばワンチャン。
「ありがとう。」
はっこの声は!佐藤さんだ!って興奮してる場合じゃないちゃんと話をしないと蹴られたり髪に砂がついているし。
「怪我はない?大丈夫?髪触るね。」
男の子は軽く頷き石段に座る。痛くないように砂をはらってあげる。可哀想に顔にもかかっている。お兄ちゃんが持たせてくれたハンカチを水飲み場で少しだけ濡らす。
先生ごめんなさい水飲み場でこんな事して緊急事態なので、と心で言い訳をして顔を拭う。
まあ綺麗な顔、なんか周りにキラキラした何かが飛んでそう。肌も綺麗し羨ましい。あまりゴシゴシしないように優しく拭いていく。最初、顔を地面に押し付けられたのかもしれない強くあとがついている。
「ありがとう。」
「ううん、全然。怪我してるよやっぱりちょっと血が出てる。」
膝を擦りむいているので、お兄ちゃんが持たせてくれた絆創膏を貼ってあげる。本当に申し訳ないけどピンクしかない。
「ごめんね。この色しかなくて。お家に帰ったらすぐに剥がして交換してね。」
「うん、ありがとう。」
ぎょっとしてしまった。ポロポロと涙を流している。
「ご、ごめんね。私が怖かった?」
「あ、違うんだ。毎日毎日砂をかけられたり食べさせられたり蹴られたりして、お父さんにも先生にも言えなくて。そしたら君が助けてくれた。やっと終わったんだと思うとほっとして。」
こんなに小さな体でずっと我慢して、駄目だ年をとって涙腺が崩壊している私も泣き出してしまう。
「えっどうして君まで?」
「ごめんねぇ、早く気付いてあげられなくてぇ。」
「えっそれで泣いてるの。」
「うう。」
泣いてる私とは対称に男の子は泣き止んで私を観察している。少し落ち着いたので恥ずかしいから教室に戻ろうとすると腕を掴まれる。
「どうしたの?」
後ろを振り返ると男の子が真っ直ぐに私を見つめていた。
「どうして僕を助けてくれたの?」
「人を助けるのに理由がいるの?」
嘘を言ってはいけない取り繕う事もしてはいけない。素直な気持ちを伝える。
「名前は?」
「国分菖蒲。」
「僕は吉田和真。和真って呼んで。」
「う、うん和真君。」
「じゃあ友達になってくれる?」
「うん、いいよ。」
「ありがとう。これからよろしくね。」
「うん。」
そのまま手を繋いで教室に戻った。
菖蒲さんは生まれも育ちも関西人です。
たまに関西弁がでます。
声優さんとして出る名前は実在の方とは全く関係ありません。
よろしくお願いいたします。