19、告白のその後
「私って本当に最低。もう消えてしまいたい。」
夕方菖蒲が急に家まで来て玄関先で泣き出して、まあ泣き止まないし、仕方なく家に入れて温かいお茶を出してやると少し落ち着いて泣き止んだ。
それからはずっとこれしか言わない。本当に面倒臭いが正直今まで菖蒲が落ち込んだ姿を見た事なかったので少し心配だ。だいぶ落ち込んでいるようだ。
「ああ、まあ送っていくよ。」
「うん、ありがとう。」
と言ったのも束の間、また思い出して泣き出してしまった。
「なんなんだよ。」
「うー、酷い。面倒臭いって思ってるんでしょ!親友でしょ!心配してよ!」
「じゃあちゃんと話せよ!泣いてもいいから言ってみろ!」
「か、和真君に告白されたの。」
「え?それで返事は?」
少し詰め寄ってしまう。菖蒲は少しびっくりして答えた。
「友達としか思えないって伝えた。それが本当の気持ちだからでも、傷付けてしまった。私和真君をとっても傷付けてしまった。」
そしてまた泣き出す。どうして気持ちを急にぶつけられてちゃんと誠実に答えた菖蒲がこんなに傷付いているんだ。少しだけ和真を憎んだ。
「おい、もういいだろ。和真を傷付けたかったのか?違うだろ。和真はお前と友達以上を望んだ。でもお前は友達以上を望まなかった。それだけの事だ。」
「でも、何か言い方あったかなって和真君が傷付かない方法があったかなって。」
「じゃあ嘘ついて付き合うって事か?」
「それは余計に傷付けるだけだから。」
「そうだろう。だから気持ちがないなら断るしかなかったんだよ。」
「うん、でも。」
そう言ってまた落ち込んでいる。
こんなに菖蒲を傷付けた和真が憎いし、それ以上にその友達以上の気持ちを自分に持っていないと信頼して今ここにいる菖蒲も心から憎くて哀しかった。
「とにかく今日は帰れ。送るから。明日朝から釣りに行くか?」
「うん。」
そして菖蒲は随分長く落ち込んでいた。
「私、怖い。誰かを傷付けたりする事が怖い。」
また、その話か。
「だから、当分好きな人とか作らない。」
「そうか。」
「うん、友達ならずっと一緒にいられるもの。」
「お前がそう言うならいいんじゃないか。」
「うん、ありがとう。」
帰る支度をしながら最近やっと明るい表情になっていたので少し安心した。
だったら俺もそうしよう。この気持ちを押し殺して菖蒲のそばに1番近くにいよう。
そして何からも菖蒲が傷付けられないように守ろう。
「和真君、姫野さんと付き合うんだって。本当に良かった。」
自分の事みたいにはしゃいで喜ぶ菖蒲を横目で見ていた。本当に嬉しそうだ。
「良かったな。じゃあお前も前を向けるな。」
「うーん、私はまだいいや。」
「まあ、あんまり自分を責めるなよ。」
「うん。」
ああ、こんなに近くにいるのに、手を伸ばせば全てを手に入れる事ができるのに、それをすれば傷付けてしまう。
もどかしくてどうにかなりそうな程菖蒲を好きになっていた。




