18、和真の告白
「うん、えっとありがとう。でも和真君は勝手に親友だと思ってて。本当にごめんなさい。」
「うん、そっかありがとう。じゃあね菖蒲ちゃん。」
2年になった初日に、僕は菖蒲ちゃんにふられた。そもそもこうなったのも姫野が菖蒲ちゃんは僕をそういう風に見てないって断言するから。だから、本当は告白なんてしたくなかった。だって誰が見たって菖蒲ちゃんが僕を男として好きだなんて思えなかったから。
「和真君、ごめんね。私のせいでごめんね。それでも和真君が好きでごめんね。」
姫野はどこかで様子を見ていたらしく泣きながら話しかけてくる。
「なんでお前が泣いてるんだよ。」
いつものすました顔とは違って、とんでもなく不細工なぐしゃぐしゃの顔で泣いているのでなんだか可笑しくて笑ってしまった。あんなに好きだった菖蒲ちゃんにふられた後に笑えるなんて自分でも不思議だった。
「和真君、私和真君の事が本当に好き。」
「いや、ふられた男にすぐに告白する女はない。」
「うん、知ってるぅ。でも好きぃ。」
まだ泣いている。めげないやつ。
「さあ帰ろうか?」
「うん、帰るぅー。」
「いつまで泣いてるんだ。一緒には帰らないぞ勘違いすんな。」
「うーん冷たい、けど好きぃ。」
「最近、姫ちゃん雰囲気違うよね?前はちょっと近寄りがたかったけど、今は柔らかいっていうか。」
「それを言うなら和真君もじゃない?2人でいる時は漫才みたいに喋って笑ってるし。」
「あー、確かに2人共柔らかくなったね。」
「ねー。」
靴箱の前で同じクラスの女子が話しながら前を通っていった。僕には気が付かなかったらしい。
「うわっ。」
急に誰かに抱きしめられる。まあ誰かは分かっているが。
「おい、ちかやめろ。」
「えへへへあったりぃ。ねえ好きだよ。」
「はいはい。」
「ふふふ、じゃあ帰ろっか。」
そう言って笑顔でついてくる。告白から半年程経って姫野ちかは少し変わった。バカっぽくなった。
「ついてくるなよ。」
「嫌だね!」
「お前僕の事好きなのに全く言う事聞かないね。」
「んー。だって好きだから言う事を聞くっていうのはおかしいよ。それは対等じゃないし。恋人の好きじゃない。」
「へー。」
好きだから言う事を聞くのはおかしいのか。
「おはよー和真!」
「馴れ馴れしいな。朝からうざいし。」
「はいはい。そんな和真も好きだから。」
「なんか君さそういう人だったっけ?だいぶキャラ違くない?」
「うん、そうだね。でも和真を知っていくともっと好きになって、伝えずにはいられなくて。でも何回言っても本気の本気の好きだから!」
「はいはい。ありがとね。」
「うん。それに決まりだし。」
「決まり?」
「はいはい。いいでしょう。」
「菖蒲ちゃんこれお返し。ホワイトデーの。」
「うわあ、ありがとう!」
良かったとても喜んでくれて、告白からどこかちょっとぎこちなかったからバレンタインをくれたのは本当に嬉しかった。少し話をしていると教室のドアから、ちかが入ってきて笑顔でこっちにきたけど、菖蒲ちゃんに気付いてしっかりUターンして出ていった。
「こういう時には気を遣うのか。」
「ん?どうしたの?」
「ううんなんでもないよ。じゃあね菖蒲ちゃん!」
「うん、バイバイ。」
僕はいつの間にか、ちかを追いかけていた。
「おい、待てよ。」
ちかはすぐに捕まり誰もいない廊下で止まった。
「和真。どうして来たの?」
「いや、何となく。」
「菖蒲ちゃんと話してたのにわざわざ来たの?」
「ああ、なんか気になったから。」
「そう。それは私の事が好きなんじゃない?」
泣いている。こんなに高飛車な発言をしてるのに。可愛いな。ふふ、と笑うと。余計に泣いてしまった。
「ふ、ああそうかもな。好きなのかもな。」
「そんな優しい笑顔見せないでぇ。もっと好きになっちゃうじゃん。」
「良いんじゃないか。もっと好きになれば。」
「そんな事許されない!私は本当は愛されてはいけないんだから。」
「何の話?」
「1年の時、菖蒲ちゃんをいじめたの私なの。嫌いになったでしょ!愛しの菖蒲ちゃんを傷付けて!嫌いになったでしょ!」
「その話。」
「これだけは知られたくなかったけど、これを言わないと許されない。いつか誰かから聞かされる位ならちゃんと自分で言って……。」
ちかの話を遮る。
「知ってた。あの日君が菖蒲ちゃんと一緒に戻ってきた後、僕は怪我までさせた君に物凄く腹が立って憎んで絶対に先生に言って対処してもらおうって、でも菖蒲ちゃんに話を聞いた。菖蒲ちゃんは、
「あのね誤解があったの姫野さんとちょっと行き違ってしまっただけ、どこまで知ってるのか分からないけど、私はいじめにあったなんて思っていないし、私話してみて姫野さんが好きになったよ!だから和真君が私の為に怒る必要なんて1ミリもない。」
って断言されて、最初はなんだか頼ってくれない菖蒲ちゃんに寂しさを感じたけど、その後も菖蒲ちゃんは本当に気にしてなさそうで、なんだそうかと納得してしまって、怒りもおさまった。だから知ってたよ。」
「ああ、ああ、菖蒲ちゃん。本当にごめんなさい。菖蒲ちゃんこんなにいい子なのに怪我までさせたのにごめんなさい。ありがとう。」
そこでまた泣き崩れてしまった。
「それで君が僕に付きまとうようになった。多分、菖蒲ちゃんでしょ?」
「うん、そう。」
「やっぱりね。何となくそう思った。だから気付いた時はお節介だなぁって思ってたけど、勿論君の好きが全て正しいと思っていないけど、僕の好きは正しくなかった。僕は菖蒲ちゃんが今でも1番大切なんだそれは変わらない、でもそれはあの地獄から救い出してくれたから、だから命をかけても菖蒲ちゃんの為なら何でもできるんだよ。」
「そう。」
「幼稚園の時、毎日殴られたり蹴られたりいじめられてたのを助けてくれたのは菖蒲ちゃんだったんだ。だから本当に感謝してるんだよ。」
「菖蒲ちゃんって昔からいい子だね。」
「うん、だから菖蒲ちゃんは命の恩人だから1番なんだ、それに女子も男子もない。でも今はきっと女子の中で1番好きだよ。それが嫌なら僕から離れればいい。」
「やだぁ、和真の事好きだし、その気持ちは大切にした方がいい。私も菖蒲ちゃんには感謝してもしきれない。」
「うん、ありがとう。で、ちかどうしたい?」
「えっ、和真?」
「僕は独占欲が強いからね。僕のものになるならちゃんと言う事を聞くんだよ。」
「はい!」




