16、それぞれの気持ち
最初は綺麗な子だと思った。黒髪がサラサラと風に揺れていて、写真を撮ってしまった。まさか話しかけられた時バレたのかと思った。でもそうじゃなくて少しだけ話すと急に好きと言われた。産まれてから1度も言われた事の無い言葉。嬉しかったのも束の間彼女は行ってしまった。そこで気付いた彼女だと、家族にもクラスの皆にも陰気で地味で目立たなくてお前が居るだけで暗くなるってだから消えろって言われるのに、あの子は僕を真っ直ぐに見て好きと言ってくれた。
「あの子を僕のモノにする。どんな手を使ってでも捜し出す。あの子は僕のほしいものをくれたから。今度は僕があの子に全てをあげる。」
ご丁寧にしおりを落としていってくれたし、靴を落として行ってしまうシンデレラのようだ、だったら王子様になって見つけてあげないと。だから今までの僕と決別しよう。見た目も中身も変えてあの子にもっと好きになってもらえるように。
「楽しみだなぁ。次はいつ会えるかなぁ。待っててね。君に釣り合う男になるからねぇ。」
「菖蒲、まだ怒ってるのか?」
「普通置いていく?信じられない!」
「ごめんね菖蒲ちゃん、そもそもこいつが早足で行くから悪いんだよ!」
「なんだ人のせいにしやがってお前も姫野から逃げたくて早足になってただろうが。」
「もういいです、おやすみなさい。」
菖蒲はそっぽを向いて眠ってしまった。和真も自分の座席に戻った。すーっともう寝息をたてて眠っている。
さすがにバスも新幹線も隣はやり過ぎたかな?と少し反省する。多分、周りの奴らは全員気付いている。班が一緒なのも座席が隣なのもこいつの為に司会をした事も全て菖蒲が好きだから、気付いていないのはこの横のアホだけできっと和真も。
和真には悪い事をしたかな。あいつもきっとこいつが。
「いや、考えるな。」
そうだ。今はこれでいい、別に何かを期待しているわけじゃない。まだこの関係でいたい。でもこいつの隣に俺以外がいると全身の血が熱くなって全てを壊したくなる。寝顔を使い捨てカメラで撮る。これは俺のカメラだ、だから他のやつには見せない。眠っている菖蒲に俺のパーカーを乗せる。急にこの寝顔を誰にも見せたくなくなった。
「最近こんな事ばかりだ。」
調子が狂う。新幹線を降りるまでそれまででいいから、俺のでいてくれれば、どれ程幸せだろう。
馬鹿な事を考えながら窓の外を眺めていた。
あの駅の菖蒲ちゃん絶対に変だった。顔は赤いしずーっと惚けてて、話しかけても返事が遅いし。
最初は怒ってるのかと思ったけど違う、きっと何かがあったんだ。あの子が姫野さんが居なければ菖蒲ちゃんから目を離さなかったのに。これからは絶対に目を離さない。
後、大和だ。あいつ結局ずっと菖蒲ちゃんからべったり離れなくて目立つ事も面倒臭い事も嫌いな癖にあんな事をするなんて菖蒲ちゃんの為ならなんでもできるってか。
絶対に僕があの子を。




