1、30歳になったら
私は高橋菖蒲。今日は30歳の誕生日。一人暮らしで誕生日を祝ってくれる彼氏もいない。そもそも年齢=いない歴だけど。
コンビニで買ってきたケーキにロウソクをさす。先週の金曜日に親友の梓が祝ってくれたので誕生日ケーキは二度目だ。
「男の人は30歳まで経験がないと魔法使いになるんだよね。だったら女性はどうなるの?それにロウソクを消す時に願いをすると叶うとも聞いた事がある!だからお願い!乙女ゲームの世界に転生させて!」
静寂、分かってはいたが何も起こらない。
「なーんて、はぁ仕方ない。西澤さんのCDを聞きながらケーキを食べて寝よう。」
パソコンにヘッドフォンをさして再生する。彼氏とデート、お家デート編の西澤さんは甘くて低い声で本当に素敵でニヤニヤしてしまう。
「うへへへへ。明日会社に行って上司がこの声になってたら最高だな。」
疲れていたのか、癒されたのか私はヘッドフォンでCDを聞きながら眠ってしまった。
「おーい、おーい、あっ気が付きました?」
目を開けると猫耳がついたまん丸とした可愛い幼女が話しかけてきた。しかも浮いている。はっはーんこれは夢だな。あの噂の思い通りできるという夢。
「えっ?こんにちは、夢?」
「ええ、夢ですよ!私はチルです。夢を叶えにきました!」
「えっ夢を叶える?」
「はい、転生De.su.yo。」
「転生?」
「ええ、魔法使いは無理ですが、ぷッ。ま、まぁ転生はいいですよ。」
笑いを堪えながら話している。こいつ腹立つ。まぁでも子供だし大目に見るか。
「はあ、でどんな世界へ?」
「ふふふー、聞きたいですかぁ?」
こいつ。
「ええ、お願いします。」
「幻想学園〜あなたを絶対離さない〜です。」
「え、それってあのヤンデレしか出てこない乙女ゲームの?」
「そうでーす!さすがオタク!」
「え、でも私そのゲーム全員攻略してないんだけど?」
「え、それが何か?」
「いやいやこういう場合ってやりこんだゲームの世界に連れてってくれるんじゃあないんですか?だってあれデッドエンドあるでしょ?」
「あー、ね。じゃあ行きましょうか!」
「えー待って待って!全然問題解決してないんだけど!」
「じゃあ1つだけアドバーイス!あなたは大人ですよね?周りは1度目の人生あなたはだいーぶ有利です。がーんば!」
ぱあっと光が辺りを包みそのままチルは消え私は急激な眠気が襲ってきて目を閉じた。
朝日が差し込んできて目を覚ます。私昨日、カーテン開けたままだっけ?
「はー昨日変な夢見たなー。転生なんてありえないでし、ょ。」
えっここどこ?和室?私の部屋は1Kなのに?ここどこ?
「えっ手が小さい?それにカサカサしてないし。まじ?」
窓に反射した姿に見入ってしまう。ふわふわのロングの黒髪に日曜朝の子供向けアニメのキャラのかかれたピンクのパジャマ。
「ふわぁーこれはこれは。」
1度頬を抓る。めちゃくちゃ痛い。
畳の上にはわんにゃん幼稚園と刺繍が入った帽子と名札がついた小さな体操着が置かれていた。
「国分菖蒲。」
名字は違うけど名前は菖蒲のまま。確かあのゲーム下の名前は入力させるから。っておいおいおいおいおい嘘や。そんなん嘘やん。ないない。
「菖蒲、朝から何を騒いでるんだ。」
がっ。この人はあのゲームで攻略している2人のうちの1人の義兄の?あれ名前はなんだっけ?あーえっとー。
「にいにおはよう。」
はい、大人の伝家の宝刀笑って誤魔化すを発動!
「お、おお。おはよう。朝ごはんだから、服着られるか?」
「うん、にいにありがとう。」
「ああ。」
兄は頭を傾げながら部屋を出て行く、駄目だ完全にあのゲームの世界に来てる。これはえらいことになったな。とりあえず服を着替えて朝ごはんを食べるか。でも1つだけ。
「というか声はCVそのままなんだけど、最高じゃん。」