私だってチートがしたい!
勢いで書きました。後悔はちょっとしてる。
※春になったら多分続きを連載版で書くので、回収できていないフラグが多数あります。ご注意下さい。
――転生した。
そう気づいたのは私、リアが4才になって半年過ぎた頃だった。ふと、まだ4才なのに左手の薬指に木製の指輪がはまっていることに違和感を感じたとたんに、前世の記憶がよみがえってきたのだ。幸い卒倒するようなこともなく、落ち着いて状況を整理することができた。
確か私は前世、3度の食事が何より好きな女子大生だった。実家暮らしをいいことにバイト代は全額外食に使っていたものだ。名前や家族構成なんかは思い出せない。
今の私の名前はリア。4才の女の子だ。母譲りの焦げ茶色の髪と濃い紫の目らしい。家族は両親と、村長夫妻の祖父母だけ。まだ両親は若いので、そのうち下ができると思う。母は私と同じ焦げ茶色の髪と濃い紫の目で、父は真っ赤な髪と目だ。
とりあえず状況は整理できたので、母のところへ突撃した。
「お母さん、何で私は指輪してるの?」
母は洗濯の手を止めて私を見た。
「これが気になるの?」
「うん。とっちゃダメって言われてるけど、なんで?」
母は洗濯を再開しながら教えてくれた。
なんでも、この世界では、左手の薬指は魂と繋がっているもので、とても重要な指らしい。奪われると相手に命を握られるため、幅の広い指輪で守っているそうだ。奪われるというのは、無理矢理指の付け根から切り落とさないといけないので、他人が取り外しにくい指輪は自衛手段として有効なようだ。
指を切り落とす……。
「怖いっ!絶対外さない!」
私は怖くなって宣言した。母はあらあら、と笑って言う。
「5才になったらこういう薬指だけを隠すグローブをつけるから、そうしたらどっちかだけ外してもいいのよ」
母はそばに置いてあった布切れを示した。それに、家族や恋人の前でもね、とつけ足して、母は汚れで少し濁った水を捨てた。
ーーーーー
それから3ヶ月。
私はとある問題に直面していた。ご飯が美味しくないのだ。野菜スープはうっすい塩水に煮込んだ野菜を放り込んだような代物だし、肉は年を取って卵を産まなくなったり、乳を出さなくなったりした家畜ばかりなのでめちゃくちゃかたい。
仕方がないので、前世のうろ覚えの知識で作ってみようとしたが、店などないこの村で手に入る食材は、じゃがいもなど数種類の日持ちする野菜と、少しの葉野菜、かたい家畜の肉と、たまにちょっと贅沢して行商人から買う蜂蜜、森で採ってくる山菜や木の実ぐらいである。
塩も高いらしくて、ちょっと多めに入れようとしただけでお母さんに悲鳴をあげられた。味噌も醤油もないし、ハーブなんかはまったくわからないので手が出せない。
最終的に台所は分別がつくようになるまで立ち入り禁止になってしまった。
他にも転生したのだから何かチートがないかと色々やってみたが、ことごとく失敗している。
夏に記憶を取り戻して、もう秋になるのに成果はなしだ。
今日は魔獣が出たとかで森に入ることもできない。
する事がないので家を掃除していると、あっという間に外は真っ暗になって、お父さんが帰って来た。手には肉の塊。
「ただいまー。リア、魔獣はお父さんが倒したから、明日から森に入っていいぞー」
そう言ってお父さんは手にした肉を見せてくれた。いつものかたい肉とは違って、脂がのっていて美味しそうだ。お母さんが嬉しそうに台所へ持って行ってしまったので、ちょっとしか見れなかったけど。
その日の晩ご飯は豪華だった。熊型だったらしい魔獣肉に、珍しく塩をしっかりふって焼いたものと、じゃがいもを茹でたもの、肉の切れ端の入ったスープ。最高に美味しかったので、お父さんを過剰なくらい誉めてあげた。
ーーーーー
翌日、早速森に行こうと朝食を食べてすぐ家を出ると、お隣のジョージおじさんに呼び止められた。
「リアちゃん、ちょっといいかな」
なにやら紹介したい子がいるらしい。昨日森にいたのだそうだ。しかも薄い髪色の男性を異常に怖がっているらしい。私と同じくらいの年齢みたいだ。
同年代の友達!?ほしい!
そう思ったけど、わざとすました顔でいいよと答える。
おじさんは笑って家の中に案内してくれた。
おじさん夫婦は、5年くらい前に疫病で死んでしまった娘さんが忘れられなくて、子供用のおもちゃや服が片付けられなかったそうだ。それで今回その娘さんと同じくらいの年齢の子を引き取ることにしたらしい。
「この子がマイクだ」
居間の隅に黒髪の子がうずくまっていた。かなり高そうな服を着ていて、髪の毛は肩につくくらいの長さ。マイクという名前らしいから男の子だろうけど、パッと見女の子みたいだ。
マイクはおじさんの声に顔をあげた。あまり眠れていないのか、ぼんやりとこちらを見ている。目も黒くて、顔立ちはそこそこ整っている。この辺りではあまり見ない、アジア系っぽい雰囲気だ。まるで日本人のような――。
急に親近感がわいてきて、私は彼の手を掴んだ。
「私リアっていうの!よろしくね!」
自己紹介すると、やっと彼が声を出した。
「私、麻衣子……よろしく」
……ん?
「麻衣子?あれ、女の子だったの?」
そう聞くと、彼、いや彼女はきょとんとした。
「男だと思ってたの?」
「だって、ジョージおじさんがマイクって言うから」
おじさんをジロリと見ると、ものすごく驚いた顔をしていた。どうやら本当に男の子だと思っていたらしい。確かにちょっときつめの、中性的な顔をしているけど。男の子用の服を着ているけど。子供だから凹凸もないけど。
おじさんは慌ててメリッサおばさんに知らせに行ったので、手を引いて森へと向かいながら話をする。麻衣子ちゃんは、背が高くて銀髪銀目の細マッチョのイケメンという設定盛りすぎとしか思えないような男に左手の薬指を囓られかけて逃げ出したらこの森にいたらしい。だからそれに1部でも当てはまる男性が怖くて仕方ないそうだ。それは確かに気持ち悪い。
そうして発音しにくいので麻衣子改めメイと名乗ることになった彼女と今生初のお友達になって浮かれていた私は知らなかった。
彼女が真のチートであるということを――。
ーーーーー
まず彼女、メイは森に行くとめちゃくちゃ美味しい果物が鈴生りに生っているのを発見した。そしていきなり私が止めるのも聞かずに歩き出し、岩塩の大きな塊を見つけた。欠片しか持ち帰れなかったが、それでも十分すぎる収穫だ。さすがに岩塩を新たに発見することはなかったが、その後も森に行く度に、美味しい果物やら山菜やらキノコやらを見つけてくる。
次に料理。メイはどの材料も量りもせずに適当に入れるのに、なぜかものすごく美味しい料理を作る。最近はご相伴に預かることも多い。
どうしたらそんなに美味しいものを見つけたり作ったりできるのかと聞いてみたが、本人曰く、なんとなくこっちに美味しいのがあるよ、とかこうしたら美味しいよ、という声というか思いのようなものが伝わってくるらしい。チートだ。
メイがやって来て1ヶ月が過ぎた頃、彼女は森で集めてきた色んな枝を組み合わせて何かを作り出した。納屋の隅で、彼女の指示通りに枝を押さえる。釘は高くて使えないので丈夫な蔦で縛るのだが、彼女に力がなさすぎて縛る役は私がする事になった。
ちょうど噛み合うように櫛みたいに小枝をくっつけた太めの棒を、長さの違う縦棒にT字になるように取り付け、その下に少し鋭角に横棒を固定する。横から見ると歪んだコの字っぽくなっている。櫛っぽいものが斜めを向いているのがポイントだそうだ。それを先に作った枠にセットして、糸で長さを測ってちょうど2つの櫛が等距離になる位置にそれぞれの櫛の倍歯がある櫛を取り付ける。そこまでしてようやくメイは得意げに完成を宣言した。1ヶ月かかった。
何に使うのか聞くと、おばさんのところから糸束と針を持ってきて実演してくれた。まず櫛の歯に糸を引っ掛けていき、全部かけると、今度は針に糸を通す。そして片足でコの字の下の棒を踏んで、針を上下に分かれた糸の間をくぐらせた。糸の端ギリギリまで引くと、端を摘まんで手前に引っ張り、もう片方の棒を踏む。それを繰り返していくと、お母さんが壁に引っ掻けて作っているのとは比べ物にならない早さで布ができてきた。
「すごい!布ができてる!」
興奮してしまったが、無理もないだろう。彼女は、私が手を貸したりもしたが、自力で織機を作ってしまったのだから。行商のおじさんたちの話を聞いても、織機はこの世界になかったようだし、世界的発明である。
その後、この織機は2人とその家族だけの秘密とし、布をたくさん織れるようになったことで、収入も増えて美味しいお菓子を買ってもらったので、ホクホクである。
ーーーーー
それから2年の歳月が過ぎ、私たちはもうすぐ7才だ。相変わらずメイは森へ行くと美味しいものを採ってくるし、私のチートは目覚めない。ここ1年半ほどでメイのチートはさらにパワーアップして、定期的に蜂蜜を持ち帰るようになったり、私に読み書きを教えてくれるようになった。
なんかできた、と言いながらメイは文字表を作り、日本語で読み仮名をふってくれた。納得がいかない。
やはりメイは日本人だったらしい。そして言ってないのに私が転生者だと気づいていた。メイの本名をちゃんと言えたことと、時々日本語を口走っていたことで気づいたそうだ。
そうやって文字を教わるうちに、ふと気づいた。
神様理不尽じゃね?
だって私はチートがないどころかごく普通の農民で、メイはトラウマで男性恐怖症とはいえ、村人たちには慣れて平気になったし、珍しい薬草とかも普通に見つけてくるし、料理もなんとなくでめちゃくちゃ美味しいし、織機だって作っちゃうし、読み書きまでできる。欠点らしい欠点は、体力がなくて運動音痴なところくらいだ。
気づいてしまうと、メイが悪いわけではないはずなのに妬ましくなって、メイがしてくれることにいちいち苛々してしまう。
文字を大体覚えた頃、それがとうとう爆発した。
「こんなに早く覚えられるなんてすごいね」
彼女に悪意なんて一切ないことはわかっていたが、その一言に無性に腹が立った。
「……メイはいいよね、はじめから何でも知ってて」
吐き捨てるように言った言葉に、メイが傷ついた顔をしたのには気づいていたが、口からはどんどん暴言が出てくる。
「森に行ったら必ずいいものを見つけるし、料理だってうまいし、字も書けるし」
「そ、それは……」
「メイはいいよね、私はチートどころかちょっと才能がある程度のものもなかったのに何もしてないメイは色んな才能を持ってて」
そこまで言うと、メイは泣きそうな顔でどこかへ走り去ってしまった。それでもまだ苛立ちが収まらなくて夕方になるまで森の入り口付近を歩き回ってやっと落ち着いてきた。さすがに言い過ぎたと後悔してきたが、メイが戻る気配はない。この辺りで1人になれる場所はここだけなので、絶対森にいるはずなのに。辺りはすでに薄暗くなり始めているが、迷うことはできなかった。
少し薄暗いだけで、森がこんなに不気味になるなんて知らなかった。私のせいでメイが1人でこんなところにいると思うと、申し訳なさがこみあげてくる。
森に入る時は毎回行く開けた場所まで来たが、メイはいない。どこへ行ったのだろうと辺りを見回して、奥の方の草が不自然に倒れているのに気づいた。メイの名を呼びながら、倒れた草に沿って進む。その先に、1人の男がいた。
場違いに豪奢な衣装で、かなり背が高くて細身なのに鍛えられた体つきの、ものすごく整った顔の銀髪の男だ。彼はこちらに気づくとにこやかに話しかけてきた。
「やあお嬢さん、こんな時間にどうしたんだい」
うわあイケメン、と見惚れてその銀色の瞳を見た瞬間に、うっとりした気分は吹っ飛んだ。
なんというか、表現できないんだけど、目がヤバい。
でも、ばっちり目が合っているのに無視するわけにもいかない。私は絞り出すように答えた。
「友達が森から帰って来ないので探しに来たんです」
そう言うと、彼は同情したような顔で言った。
「それは心配だね。ところで、僕も人探しをしているんだ。マイクって名前の黒髪黒目の女の子なんだけど」
見かけなかった?と聞かれてゾッとする。何でこいつがメイの名前を知っているんだ。そう考えて、メイが出会ったばかりの頃に言っていたことを思い出した。
メイの男性恐怖症は、銀色の髪と目で細マッチョの背の高いイケメンに薬指を囓られたせいだったはずだ。
目の前の男に全て当てはまる。つまりこいつは正真正銘のヤバい奴だ。絶対にこいつにだけはメイの居場所を教えてはいけない。
「さあ、マイクなんて変わった名前の女の子には会ったことがありませんね」
男は私の目をじっと見つめた後、ここにはいないみたいだから別の場所を探してみる、と言って去っていった。
5分も経っていないはずなのに、何時間も話していたような感じがする。私は大きく深呼吸して暴れる心臓を落ち着けた。
それから耳を済まして男が近くに潜んでいないか気配を探る。しばらくそうして、遠くに行ったことを確認したとたん、何かに思い切りぶつかられた。
「うわっ!」
思わず尻餅をついてしまった。見るとぶつかってきたのはメイで、私に全力でしがみついてくる。その顔は真っ青で、手は震えていた。
「メイ、ひどいこと言ってごめんね」
私も謝りながら抱きしめ返す。そうしていると、やっとメイの震えが収まってきた。
「私ね、あの人に薬指を食いちぎられたんだって」
落ち着いた頃、メイがぽつりと言った。囓られかけたと言っていたが、本当はもっとひどかったようだ。
「この世界に落ちてきて、魔力とかにまだ体が馴染んでなくて苦しんでた時に」
それで、今あるこの指はあの男の兄だという人が何かしたら生えてきたらしい。
「あの男、17才の私に一目惚れしたんだって」
それで何もわからないメイの薬指を奪ったなんて、最低だ。
「あの男のところでは、結婚する時に薬指を交換して、命を分かち合うんだって。 まあ、当時の私の薬指は、魂に繋がっていなかったからできなかったみたいだけど」
そう言ってメイは力なく笑う。あの男の兄に指を治してもらった時に、兄の力の影響を受けたせいで採集や料理がうまくできるようになったそうだ。
「本当はもっとひどい目にあったらしいけど、心が死にかけてたから記憶を封印したんだって」
その記憶がない時に読み書きの勉強をしていたらしい。
知ってしまうと、別にメイのあれこれはチートでもなんでもなかった。何であんなこと言っちゃったんだろう。申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
「ごめんなさい、ひどいこと言って」
もう一度謝ると、メイはやっといつもの笑顔を見せてくれた。
その日は帰りが遅くて両親に怒られたが、不思議と晴れやかな気持ちだった。
ーーーーー
それから2ヶ月、雪のちらつき出した頃。
村を疫病が襲った。
始めはただの風邪だと思われていたが、村人のほとんどが発病した頃に、徒歩で1時間程のところにある領都からやって来た行商人が、領都でも大勢の人が感染したが、この病気に効く薬があったため被害は少なかったと教えてくれた。
領都に行けば薬があるが、現在品薄で、価格が高騰しているそうだ。もうまともに動けるのは私とメイくらいで、残りは、他の人の看病ができる、程度だ。子供だけで行って、まともに相手してもらえるわけがない。吹っ掛けられて、偽物を掴まされたりしそうだ。
2人でみんなの食事を作りながらどうするか話し合う。行商人によれば、薬がなければ6割が死ぬらしい。でも薬代が払えるだけの蓄えがあるのは家とメイの家と、村長であるおじいちゃんたちぐらいだろう。
食事を配り終えて畑の世話をしていると、誰かが村にやって来た。
「リアにメイ、大人はいるかい?」
よく見ると、家の布を買ってくれる行商人のおじさんだった。メイに布を取りに行かせている間に簡単に事情を説明する。
「それじゃあ布はなさそうだね」
おじさんは困り顔で頭を掻いた。現在流行り病のせいで、品薄状態が続いているらしい。
そこにメイが布を抱えて戻ってきた。いつもに比べて大分少ない。
「これしかないよ」
そして私に服を1着投げる。そしておじさんにこう言った。
「ねえ、おじさんの取引先の商人に私たちを紹介してよ」
ーーーーー
「本当にその早く布を織る方法を売っちゃうのかい?まだまだ稼げるだろうに」
今私たちはおじさんの馬車で領都に向かっている。荷台には布の詰まった木箱と分解された織機の初期型。
メイが着替えるように、と渡してきた服はずいぶん立派なもので、裕福なお嬢様が着てそうなものだった。誕生日プレゼントに用意していたようだ。一方メイは高そうな服ではあるが、なぜか男性用を着ている。防犯のためらしいが、意外と似合っていて男の子にしか見えない。
私たちは村人の治療費を稼ぐため、織機を売ることにした。とはいえ、初期型はまだ結構使いにくいところがあるので、これを売っても私たちのアドバンテージはまだある。
領都に着くと、おじさんはどんどん大通りの方へと馬車を進めた。そして大きな店の裏に止める。裏口から店員が出て来て、荷物の積み降ろしを手伝い出した。私たちも織機を降ろす。おじさんは店員の1人に声をかけて上の人に取り次いでくれた。
早くて手作業のムラが比較的少ない織機に興味があったのか、すぐに客間に通された。我が家とは比べ物にならないくらい立派な部屋だ。家具のデザインが統一されていて、掃除も行き届いている。ジュースまで出してもらってテンションが上がってきた。
「君たちが布の織り方を売りたいと言っていた子か」
入って来たのは長身でプラチナブロンドの男だった。男は店主のラルフと名乗った。店主にしては若い。30代半ばくらいだろうか。あ、まずい。メイが完全に硬直しているのが見なくてもわかる。内心あちゃーと思いながら、事前に渡されていた板切れのメモを見て、商談を進める。まず、契約金として100万フィル?
フィルって何?と言いかけて、この国の通貨単位だと思い出した。物価は大体円と同じくらい?服は1着何万かするけど。
それと、契約金の100万フィルとは別に、疫病の薬を村人全員分の46個用立てること。
次に、織機の利益の2割を私とメイに1割ずつ納めること。受取人がいなくなった場合はその家族に渡すものとする。
この2つの点は守らないといけないのね。
商談はまず織機を見せるところから始まった。ラルフが来る前に、あとは枠にセットするだけの状態にしてあったので、実演は簡単だった。ラルフは店の工房からお針子を呼んで、織機を見ながら相談している。
用意された糸が何種類もあったため、途中で色を変えてチェック柄っぽくすると、お針子が食いついて商談は想像以上にうまくいった。契約金を試しに200万と言ったら、通ってしまった。
その後、薬を準備する間に、ラルフとお針子さんと一緒に商業ギルドに特許登録をしに行った。そのあたりでやっとメイが再起動した。全力で私の影に隠れるようにしながらフードを被って移動している。
ラルフの興味深そうな視線に耐えられず、私は言い訳のようなことを言った。
「メイは昔背が高くて銀髪の男に薬指を食いちぎられたせいでそういう男性が苦手なんです」
「そうか、それは済まないことをしたな。あの織機を考えたのはメイの方だろう」
ラルフは若干驚いたようだが、殊勝に謝った。そういう犯罪被害者は時折いるらしい
そしてなぜかついてきたお針子さんは心底同情した顔で頷いていた。
「わかるそれ。あの指を握られた時の凄まじい不快感、絶対トラウマになるよね」
どうやら同じような目にあったことがあるようだ。
商業ギルドでは特に何事もなくギルド登録が終わり、特許登録もラルフがやってくれたので、私たちは書類のチェックしかしなかった。
店に戻って薬とお金を受け取り、ほとんどはギルドの口座に預けた。馬車まで出してもらって、村へと進んでいたら、馭者に話しかけられた。
「まだ商品になりそうなものがありそうだな」
聞き覚えのある声に、馭者の顔を見ると、なぜか茶髪の鬘を被ったラルフだった。
「「なんでいるの!?」」
思わずメイと一緒に叫んだ。ラルフは事も無げに、
「そっちの黒髪のお嬢ちゃんとは、こうでもしないと話せなさそうだったからな」
と言う。目論み通り衝撃でトラウマが吹っ飛んだらしいメイは、その勢いのまま、新しい売り物ができたらラルフの店に優先的に売る代わりに、利益を私と1割ずつ得るという契約を結んでいた。