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危険な恋愛

作者: ふおん

 私の名前は北条舞。

 私は今、男に追われている。

 男はすぐそこまでやってきている。

 きっと彼は私を捕まえるだろう。

 誰かにこのことを知ってもらいたい。

 だから、私はここにメモを残す。

 いつの日か、誰かが見てくれるように。

 私の身に一体なにがあったか知ってくれるように……



 私の名前は北条舞。

 会社でOLをしている23歳だ。

 会社にやってくる客の受付をしている私は人と話すのがうまく、愛想よくふるまうことが出来る。

 そんな私を見ると会社にやってくる客たちも笑顔で帰っていく。

 私は今日も客たちに愛想笑いを振りまいて疲れてしまって会社から帰ろうとしていた。

 会社に来る客、特に男たちは私が本心から笑顔でしゃべっているように思うが、そうじゃない。

 カネをもらって愛想よくしているだけだ。

 それなのに「舞ちゃん今日も元気だね」とか「舞ちゃんの笑顔をみていると元気がでるよ」とか他の社員、特に中年の上司たちが言うが、私ももう23歳だ。馴れ馴れしく人を子供扱いしたような、バカにしたような態度を取るのは止めてほしい。

 私にもプライドというものがあるのだ。

 それが男たちには分かっていない。

 私が仕事に疲れていつものように道を歩いていると、彼――会社員のたぶん営業の仕事をしているであろう、笑顔が素敵で愛想をふりまいている彼に出会ったのだ。

 私も同じような仕事をしているから、自分と同じような人間を私はすぐに見分けることができる。

 彼の笑顔は表面的で、心がこもったものではない――恐らく本来の彼は小心で臆病な人間なのだろう、目を見れば分かる。しかしそれが逆に私には気に入った。

 私と彼は初めてお互いの目を見た時に惹かれ合うような感じを受け、どちらともなく言葉を交わし、連絡先を交換して、すぐに付き合うようになった。

 私と彼は付き合ってすぐにセックスをした。

 それはいい。

 大人にはよくあることだ。

 彼がしたいというのなら、私はセックスもする。

 ただ、彼は私だけでは満足出来ないようで、私と一緒にいる時に、よく他の女性の方を見たりする。

 私が話をしているのに横をむいてしまうのだ。

 この男は私の身体だけでは満足出来ないのだろうか?

 彼がしたいというからセックスをしてやっているのに、彼の態度は私には許せない。

 だから私は「デート中に他の女性を見るのはマナー違反よ」とやんわりと注意してあげた

 彼は「わかった」と言った。

 そして、今、彼とデートをしているのに、また他の女のことを見ている。相手の女はミニスカートで歳は22歳くらいだろうか? 私よりも1歳年下くらいだろう。髪はロングで茶色く染めている。私とは対して外見も変わらないような女だ。

 私と同じような女なら私だけを見ていればいい。

 だってそうでしょう。

 あのミニスカートの女は彼とセックスはしない、けれども私は彼とセックスをする。

 なのに、彼が興味があるのはあの名前も知らないような女の方だ。

 私が一生懸命話しているのに、まったく聞く耳を持たずに女のお尻を舐め回すように見ている。

 私は彼に嫉妬しているんじゃない。

 私はただ失礼な態度を取られて、プライドを傷つけられたことに対して怒っているのだ。

 彼はきっと女である私を見下しているんだろう。

 男の自分がデート中に他の女を見ても、女の私には何も出来ないと高をくくって、腹の中では私をあざ笑っているんだ。

 いいわ。

 笑っていられるかどうか、ためしてみなさい。

 これから私がすることを見ても、まだ笑っていられるのならね。



 俺の名前は竹内学25歳、大手広告会社に勤めているサラリーマンだ。

 まわりの人間の評価はなかなか高く、大事な仕事も任されるようになってきている。

 責任の重い仕事であるが、やり遂げた後の達成感があるし、大事な仕事をまかせてもらったという喜びもある。

 この調子でいけば、俺はこの会社で出世するだろう。

 俺の人生は順調なように思えた。

 彼女に会うまではだ。

 俺が仕事が終わり、夕食を食べてから帰ろうと食堂に向かって歩いていると女がじっと俺のことを見ているのに気がついた。

 みたこともない女だ。 

 歳は俺よりも少し下で、たぶんOLか何かだろう。

 その女が俺の方に近づいてくる。

「付き合ってください。あなたに恋をしました」

 俺は急に告白をされて驚いた。

 俺は今まで女性からナンパをされたことはない。

 それなのに、こんな道の真ん中でいきなりすぎる彼女の告白に面食らってしまったが、彼女の外見は俺の好みでもあるし、女性の方から言いよられるのも悪い気がしなかったので、俺は彼女と付き合うことにした。

 付き合ってすぐだ、最初のデートで俺たちはレストランで食事をした。

 俺はその後彼女を普通に部屋に送って帰るつもりだった。

 いやらしいことをするつもりなんか何もなかったんだ。

 それなのに、彼女が無理やり俺の腕をつかんで彼女の部屋の中に連れて行ったんだ。

「いいから、いいから」って言いながらな。

 そして俺を部屋の中に連れて行くと「じゃあしましょう」とか言って、彼女がいきなり服を脱ぎ始め、そして「何やってんのよ」と言いながら、俺の服を脱がし始めたんだ。

 俺の服を脱がすその手際のよさに、こいつ男の服を脱がせるのは初めてじゃないなと思った俺は、まさか変な店で働いているんじゃないだろうなという疑惑が浮かんだが、人には過去というものもあることだし、俺はそのことを詮索しないことにした。

 まあ、セックスをするのは俺も男だから嫌いじゃないから、彼女が簡単にセックスをさせてくれたことで喜んでいたということもある。

 それはいい。

 それはいいんだが、彼女の行動がこの後からおかしくなっていったんだ。

 彼女と一緒に道を歩いていると「何、他の女を見ているのよ」と言い出したんだ。

 俺は普通に前を見て歩いていただけだし、前に他の女がいれば自然に視界に入るわけだから見ることになるが、別に俺は他の女に興味を持ったから見たというわけではないんだ。

 それなのに彼女は「彼女とデートしている時に他の女を見るのはマナー違反よ」とすごい剣幕で俺を睨みつけながらいったんだ。

 ちょっと彼女が怖くなったから俺は「うん」と言っておいた。

 彼女を刺激はしたくなかったからね。

 その後、彼女が俺をいつものように彼女の部屋に連れていき、彼女が俺とセックスした。

 俺もセックスはそんな嫌いなわけじゃなかったから、その日の出来事は忘れてそのまま家に帰った。

 それで問題は次のデートの時に起こったんだ。

 彼女といつものように喫茶店でコーヒーを飲みながら話をしていたんだ。

 すると彼女が「他の女のお尻ばかり見ているのね」と突然言い出したんだ。

 俺はわけも分からず彼女を見ると、彼女が後ろを向き、ミニスカートの女を指差す。

 確かに俺はミニスカートの女を見ていたといえるかもしれない。それは彼女の後ろをたまたまミニスカートの女が歩いて通りかかっていたから、俺の視界の中にはミニスカートの女が入ってくるのは避けられないことであり、不可避なことだ。それなのにそんなことで怒られるのは理不尽じゃないかと俺は思ったんだ。

 そもそも何で彼女は後ろをミニスカートの女が歩いていると分かったんだ?

 女の勘か? それとも俺の瞳に映ったミニスカートの女の姿からそれが分かったのか? 女ってすごいな、そんなことからでも自分の後ろを誰が歩いているか分かるんだからな。

 それはどうでもいいんだが、彼女の態度の悪さに俺はちょっと注意することにしたんだ。

「ちょっと、お前おかしいよ」ってね。

 そしたら彼女が突然立ち上がって「あなたは私が女だと思ってバカにしているのね」といきなり大声をあげて騒ぎ始めたんだ。 

 驚いて呆然とする俺の目の前で彼女がいきなり――いきなり――バッグの中からナイフを取り出したんだ。

「思い知らせてやるわ」

 ナイフを持った彼女の姿を見て俺は刺されるって思ってビビってしまったんだ。

 ビビった俺はテーブルの上に置いてあった水をこぼしてしまった。

 しかし、彼女は俺をナイフで刺そうとしなかった。

 そのかわりに彼女は自分の喉にナイフを突きつけて「これでもあなたは他の女のお尻を見ていられるの」と他の客に聞こえるように大きな声で言ったんだ。

 当然周りの客たちは大騒ぎで、店員の女の子もわけもわからず立ち尽くしていたんだけれども、店の誰かの「警察を呼べ」っていう声が聞こえたから、俺はまずいと思って、彼女を何とかなだめて店の外に連れ出して逃げたんだ。

 その後いつものように彼女を彼女のアパートの彼女の部屋に連れて行って、俺は帰ろうとしたんだが、だってそうだろ、ナイフで自殺しようとする女とはすぐに縁を切りたいからな。

 でも彼女が「じゃあ服を脱いで」って言うんだ。

 躊躇している俺に対して彼女が「やっぱり私の身体に飽きたのね」といって、ベランダの方に走っていって「飛び降りて死んでやる」と騒ぎ始めたので、俺は仕方なく彼女を落ち着かせるためにセックスをしたんだ。

 まあ、俺も男だし、ナイフを見て少し興奮していたというのもあって仕方なくセックスをしたんだ。

 なんでって思うかもしれないがそういうもんだろ。

 それはいいんだ――それはいいんだが、本当の問題はこの後だ。

 この後に本当に恐ろしいことが待っていたんだ。

 今までのことは酷い出来事ではあったが何とか耐えられるレベルの問題だった。

 しかしこの後は俺の許容レベルをはるかに超える事態になっていったんだ。



 彼女がラブホテルから長身の男の腕にしがみつきながら出てくる。

「じゃあ、またね」

 彼女が男に手を振って別れの挨拶をしている。やけに馴れ馴れしい態度だ。

「おい!! 何やってんだよ」

 会社の昼休みに食事のため外に出ていた俺は、近くのラブホテル街、このあたりはラブホテルが多いの中から彼女が出てくるのを見つけて、慌てて走ってきたんだ。

「あっ! やっばい」

 彼女が普段言わないようなセリフを言う。

 俺の姿を見た相手の男は血相を変え走って逃げていく。

「おい!! 待てよ」

 相手の男はちょうど目の前にきたタクシーにその長身を折りたたむように乗り込んで、そのまま逃亡した。

 くそう、逃したか。

 その場には俺と彼女が残された。

 そしてそこはラブホテルの前だ。

 彼女が俺の方をちらりと見る。

「していく?」

 彼女が今出てきたラブホテルを頭を振って指す。

「するわけないだろ!!」

 彼女の非常識な発言に対して怒り心頭に俺が答える。

 ラブホテルから他の男と出てきたあげくに、そのラブホテルに俺と一緒に入ろうというのか?

 ふざけているのか?

「何でだよ。何で他の男とラブホテルに入ったんだよ」

 責める俺の目をさけて、彼女が目をそらす。

 やましいことがあるようだ。それは当然だ。そして彼女は何か考えているようなそぶりを見せる。

 何て言うつもりなんだ。この状況は誤魔化せるようなものではないぞ。

「仕方がなかったのよ」

「何が仕方がないだ!!」

「だって、ラブホテルがこんな所にあるのよ。誰だってホテルに入って男としてしまうわ」

 俺のあきれた顔を見て、このまま話していても無駄だと思った彼女は作戦を変えて別のことを言い出した。

「あなたが私のことをほったらかして他の女にうつつを抜かすから悪いのよ」

「俺は他の女とラブホテルに何て行っていないぞ」

 彼女が俺の目をじっと見る。

「今まで他の女とラブホテルに行ったことがないとでもいうつもり!?」

「そうだ」

「……でも、……でも浮気をしたわ」

「浮気をしたのはお前だろ」

 動揺してしどろもどろになる彼女。手がプルプル震えている、よほどやましいことをしているんだな、この女は。

「私を捨てるつもりなの?」

「浮気をされたんだから、お前とは別れるよ」

「そんなことくらいで私を捨てるつもり? 私と寝たくせに」

 この女、よく道端でそんなことを言えるな。というかとんでもないことをいったぞ、そんなことくらいって。こいつは彼氏がいる女が他の男とラブホテルに入ることをどう思っているんだ?

「いやーーー!!! 捨てるなんて駄目ーーー!!!」

 彼女がいきなり走って逃げる。

「おい!! 待てよ!!」

 俺が彼女を追いかける。

 彼女が八百屋の前に来て、店の前に置いてあったスイカに頭突きをしようとしている。店の主人が驚いたような顔で彼女を見ている。

「別れるくらいなら死んでやる」

「スイカに頭突きをしたくらいで死ぬわけないだろ」

「…………」

 彼女がピタリと動きを止める。

 その隙きに八百屋の主人がスイカを持って店の奥に避難をする。

 その時後ろからバスがやってきた。 

 それを横目でちらりと見た彼女がバスの前に飛び出す。

 俺は慌てて彼女を捕まえて道路の端に引っ張ってゆく。

 俺たち二人の後ろをバスが通り過ぎる。危なかった!! もう少しで轢かれる所だった。

「何やってんだよ」

「あなたが――、あなたが――、私を捨てるっていうから――――――」

 彼女はそう言って泣き崩れる。 

 その姿を呆然と俺が眺める。

 その後、俺は泣き止まない彼女を彼女のマンションに連れて行った、そして彼女の部屋に入ると彼女が「するんでしょ」と言って彼女が俺の服を脱がせてきたので、俺は彼女とセックスをした。

 まあ、俺も男だから誘われればセックスをしたくなるし、バスに轢かれそうになってドキドキしていたというのもあったので、彼女とセックスをしたんだ。

「もう絶対に浮気をするなよ」と念を押す俺に対して「絶対にしないわ、神に誓って」と彼女が真剣な目で俺に言うので、彼女とセックスをしたやましさもあった俺は彼女を許すことにして自分の部屋に帰った。



 3日後。

 俺はその日の仕事帰りに疲れていたのでコーヒーを飲みながら道を歩いていた。

「もう、激しいんだからー」

 そう言いながら、彼女がヒヒのような顔をした40代半ばの男といっしょにラブホテルから出てきた。

 この前他の男と一緒に出てきたラブホテルと同じ場所だ。

 俺はコーヒーを吹き出す。

「おいお前!! 何やってんだよ!!」

 二人が俺の方を見る。

 ヒヒのような顔をした男は「私は関係ない、たまたまこの近くを通りかかっただけだ」といいながらカバンを持って走って逃げていく。

 俺は後を追いかけたが、男は車が行き交う道路をヒヒのような身軽さで無謀にも渡っていき向こうの歩道の彼方に消えた。

 俺は追いかけていこうとしたが、トラックがやってきたので――この前彼女を追いかけた時にバスに轢かれそうになった時の恐怖を思い出し、身がすくんでしまって男を取り逃がしてしまった。

 俺はラブホテルの前に戻ってきた。

 彼女は逃げることもなくその場に立っていた。堂々と胸をはって仁王立ちをしている。

 覚悟を決めたのだろうか?

 何の覚悟を決めたのだろうか?

 俺が彼女の前に行き、口を開こうとすると、彼女が俺よりも先に口を開いて言った。

「どういうつもりなの」

「お前がどういうつもりなんだ」

 彼女の意外な言葉に俺がひるむ。

「あなたは私が知らないところであんなことをしていたのね」

「お前は何を言っているんだ?」

「あなたはそうやって色んな女性と寝て楽しんでばかりいるのね」

「……だから、お前は何を言っているんだ!?」

 彼女が遠い目をしてラブホテルを眺める。

 彼女の意図する所が俺にはまったく理解できない。

「私を捨てる気なのね」

「お前が捨てられるようなことをしたんだろ」

 彼女がラブホテルをちらりと見る。

「私とするつもりもないのね」

「ああ」

「あなたは他の女と寝たばかりか、私のことをボロ雑巾のように捨てるつもりなのね。そんなことを私が許すと思っているの?」

「……」

 彼女の静かな物言いと、刺すような視線に圧倒され、俺は黙ってしまった。

 彼女は自分が二度も浮気をしたというのに自分が悪いというそぶりを全く見せず、むしろ俺が悪いことをしたと言って責めている。

 彼女がそんな態度をとっていたので、もしかしたら俺が悪いことをしたのではないかと一瞬疑うほどであった。

 その時俺の頭の中にある映像が浮かんだ。


 彼女の部屋には催眠術や悪徳商法でどうやって相手を騙すかなどの本が本棚にたくさん置いてあった。

 それを見て「これは何だ」と聞く俺に「ただの趣味よ」と彼女が答えた。

 その日の俺は仕事で疲れていたので彼女の部屋に泊まることにした。

 俺が彼女の部屋で寝ていると何か妙な感じがして俺は真夜中に目覚めた。すると俺の耳元で彼女が「――お前は浮気者だ」とか「――お前はふしだらな男だ」とか「――お前は彼女に誘われると見境なくセックスをしたくなる」とまるで催眠術をかけるような無機質で平坦な声で俺の耳にささやきかけていた。

 俺が「何をしているんだ」と聞くと「別に」と言って彼女は俺に背中を向けて寝た。

 俺はそのことをあまり気にしなかった。

 寝ぼけていたのと、明日仕事が早いということもあって俺はすぐにそのことを忘れて眠ってしまった。

 どうして今そのことを思い出したのだろうか?

 彼女は夜俺が寝ている時に何をやっていたのだろうか?

 

「あなたって本当に浮気者ね」

「……いや」

「あなたはふしだらな男だわ」

「……っ」

 彼女の言葉の一つ一つがなぜか俺の胸に妙にぐさりと刺さり、何も言えなくなってしまった。

 おかしい、浮気をしたのは彼女のはずなのに、なぜ俺はこんなにも罪悪感を感じているんだ。

 彼女がパンと手を叩くと、まるで催眠術をかけられたように俺の身体からガクッと力が抜け、まるで自分が意思のない人形のようにでもなったような妙な感覚になっていることに気がついた。そんな俺の腕を掴んで彼女が俺を彼女のマンションに連れていく。

 俺はまるで操り人形のように彼女の部屋に連れて行かれて、そして服を脱がされ、当然のように彼女とセックスをした。

 俺は男だからセックスが好きだ。だからセックスをするのは不思議なことではない。しかしおかしい、妙な感覚だ。まるでトランス状態に入ったかのようなそんな感覚だ。彼女に無理やり部屋に連れて行かれて興奮したのでそんな風になったのだろうか?

 何かがおかしい。

 セックスが終わると俺は急に怖くなり、身体が震え始めた。

 俺はまるで夢から覚めたかのような、さっきまでの異常な状態から正気に戻ったような気がした。

 どうしてセックスをしただけなのにこんなに身体が震えているのだろう? 今は夏だというのに。

 俺は怖くなった。とにかく怖かった。言い知れぬ恐怖を彼女から感じたのだ。

「なっ、何で、俺は……、一体!?」

 混乱している俺を彼女が薄笑いを浮かべてみている。

 やばい、何がやばいのか分からないが、とにかく何かがやばい。 

 このままではいけない、俺の本能がそう言っている。このままずるずる彼女と付き合っていては、俺はとんでもない目にあう、そんな予感、でも確実な予感を感じた俺の口から言葉が出る。

「お前とは別れるからな」

 俺は彼女の方をチラリと見る。彼女がまた「死ぬ」とか言って騒ぎ出すと俺は思っていた。しかし俺の予想に反して彼女がやけに落ち着いたような態度で「そう」とだけ言って俺を見た。

 その落ち着いた態度が妙に不気味で気味が悪かったが、俺は一刻も早く彼女から離れたかったのと、彼女がまた暴れ出すのではないかという恐れから、俺は早足で彼女の部屋を立ち去った。



 次の日、俺は会社の机に向かって書類に目を通していた。

 今度の仕事で宣伝するための清涼飲料水に関する資料だ。

 こんなものはどれも似たようなもので、味も大した違いはない。適当に宣伝して、適当に販売して、適当な時期になったら販売を中止して、また新しい商品を販売するだけの繰り返しだ、くだらない。

 俺は仕事そっちのけで彼女のことを考えていた。

 俺はあれから彼女と会っていない。

 彼女からのメールや電話もすべて無視していた。

 無視する俺の携帯には大量のメールや留守電が来ていたが、それが急に昨日パッタリやんだ――1日に100件以上も彼女からのメールがあったにもかかわらず。

 どういうことなのだろうか? 彼女はあきらめたのだろうか? もしそうならいいのだが。

 彼女からメールがきた。その内容は『これで最後にするわ』とだけ書いてあった。

 最後? 俺との交際をこのメールを最後にあきらめるということなのか?

 もっとしつこく付きまとわれるかと思ったが、意外にあっさりしているんだな。

 たぶん彼女は飽きっぽい性格なんだろう。だから他に男が出来たので、俺に対する興味を失ったんだなきっと。

 彼女は2回も浮気をするような女だから、新しい男がこの短時間で出来たとしても不思議ではない。

 何やらビルの前が騒がしい。

 うちの課の林という新入社員のおちょうし者が窓の外を見る。

 こいつはいつも仕事を適当にやる。今もそうだ外の騒ぎが気になるんだろう、仕事中だというのに。

「大変だ!」という林の声に、他の社員が窓に集まる。

「女だ、女がビルの前で灯油をかぶっているぞ!!」

 社員たちの声に俺は嫌な予感がして、窓から外を見てみた。

――あ、あの女!? 



「私はこのビルの広告会社○△に勤めている竹内学に身体を弄ばれました」

 彼女がビルの前で大声を上げる。

 ビルの窓から皆が彼女を見ている。

「私は東京都新宿区○□町○ー○のマンション△○の302号室に住んでいる竹内学に脅されて肉体関係を持つように強要されました」

 彼女が頭から灯油をかぶる。

 それを見て、周りの通行客たちが口々に何かを言い合っている。

「実家が奈良県△□市○□にある、明治30年頃からやっている老舗菓子店『△△○』の一人息子の竹内学に私は人生をめちゃくちゃにされたんです」

 彼女がさらに灯油を自分の身体にかける。

 通行客が携帯電話でひそひそ話したり、写真を取ったりしている。

「私が言っていることが嘘だと思うのなら、携帯電話の番号が444-○○□ー△○□○の竹内学に電話をして聞いてみてください」

 彼女が懐からマッチを取り出す。

 それを見て「危ない!!」とか「警察を呼べ」という声が群衆の間から沸き起こる。

「クレジットカードの番号が○△□○ー324…………」

「おい、やめろ!!」

 俺がビルから出てきて彼女に大声で言う。



 俺は警察を呼ばれる前に何とか彼女をあの場から連れ出して、いつものように彼女のマンションに連れてきた。

 彼女の身体は灯油臭く――灯油を頭からかぶっていので当然だが――彼女の身体は灯油まみれだった。

「私をこのまま置いていくつもり?」

 彼女を部屋に置いて仕事場に戻ろうとする俺の腕を彼女が掴む。

「当たり前だろ、まだ仕事中だ」

「……そう。なら行けばいいわ」

 彼女が俺の腕を離す。

 俺が彼女の部屋から出ようとすると、彼女が台所のガステーブルの方に向かうのが見えた。

「おい!! 何やってんだよ」

「お腹が空いたから中華料理でもつくろうと思ったのよ。中華料理って強火で作らなくちゃいけないから、料理の途中で私の身体の灯油に火がついて私の身体が燃えるかもしれないけれどもね」

 彼女がじっと俺の目を見る。

 それはまるで脅すようでもあり、脅迫するようでもあり、いや明らかにあの目は俺を脅している。

「このマンションの玄関に監視カメラがついていることは知っているわよね」

「いや」

「私が料理の途中で火だるまになった数分後にマンションの玄関から彼氏のあなたが出ていく姿が監視カメラの映像に記録されているのを警察がみたら何ていうでしょうね?」

 その時俺はあることを思い出した。

 彼女は俺がマンションの玄関を通るたびに俺の首に抱きついたり、ほっぺたにキスをしてくるのだ――しつこく何回も、何回も。

 俺は初めは気にしていなかったが、さすがにマンションの玄関でばかりイチャついてくる彼女を不審に思い「なぜそんなことをするんだ」と聞いてみた。すると彼女は「私の先祖がラテン系だからそのせいよ」と言っていた。

 俺はラテン系なら仕方がないな、ラテン系は情熱的だからな――と思い、彼女の言うことを信じてしまったのだ。

 しかし彼女は嘘をついていた。

 マンションの監視カメラには俺と彼女がイチャつく映像がたくさん記録されており、もし彼女が変死体で発見されたら、警察が彼氏である俺を疑うように彼女は仕向けていたのだ。

 なにがラテン系だ!! どうみても彼女の顔は日本人じゃないか。なぜ、そんな彼女の嘘を信じてしまったんだ!!

 彼女がラブホテルでもなく、俺の部屋でもなく、いつも自分の部屋に俺を連れ込んでセックスをしていたのは俺の姿を監視カメラに撮らせるためだったんだな。

 女が自分の部屋に男を連れ込むなんておかしいと思っていたんだ。

 くっそう、何て女だ!!

 彼女がガステーブルのスイッチに手をかけている。その手はプルプル震えているが、本当に震えているわけではなくて、火だるまになるぞと俺を脅しているのだ。

 俺はもう彼女から逃げられない――そんな嫌な絶望感が全身を駆け抜け、彼女の脅迫に屈することになった。

「分かったよ」

 俺は仕方なく彼女を風呂場に連れていき、彼女の服を脱がせて、彼女の身体を綺麗に洗い、そして彼女とセックスをした。

 俺は男なのでセックスは好きだし、、彼女の身体を洗っているうちに興奮してきたというのもあるし、もう彼女から逃げられないのならセックスをした方が得ではないのかとかという損得計算でセックスをしてしまったが――実は俺は理数系で数学が得意だ――それは今考えてもしょうがない。

「あっ、やばい。仕事に戻らないと」

 俺は急いで会社に戻った。



 俺は会社に戻る途中これからどうすればよいかを頭の中で考えていた。

 そして恐ろしいことに気がついてしまった。俺は彼女にはめられたのだ。

 何てことだ。

 もし、彼女とセックスをせずに彼女の部屋を出ると彼女が部屋で火だるまになるとか、首吊、白骨死体で発見されるとかして、彼女が変死体で発見され、それは彼女のマンションから出ていく姿が監視ビデオに取られた彼氏の俺のせいになる。

 だから彼女の部屋に行ったら必ず彼女とセックスをしなければならない。そうしなければ俺は警察に殺人犯として逮捕される。

 もし彼女の部屋に行かなかった場合は、彼女が俺の仕事場やマンション、実家の前に来て俺に身体を弄ばれたと喚き散らしたあげくに自殺をしようとする。

 それをさせないためには彼女の部屋に行くしかないが、そうなると俺は彼女とセックスをしなければならなくなる。

 どうしても俺は彼女とセックスをしなければならない――人生を破滅させたくなければ。

 なぜだ?

 セックスとはこんなにも恐ろしいものだったのか?

 セックスとは嬉しいものだと思っていた。それがどうだ、今では恐怖の対象になっている。

 今では彼女とのセックスのことを考えるのが恐ろしい、ただ恐ろしい。

 このままではいけない、いけないと思うが、なぜか彼女の部屋に行くと最後には必ずセックスをしてしまう。

 俺は駄目な男だ、それは認める。

 でもこのまま、ずるずる彼女の思い通りにさせるわけにはいかない。

 そのためには、まずは会社に戻って皆んなの信頼を回復することだ。

 そうすればまだ俺はやり直せる。まだ俺は終わっていない、俺の人生はまだまだこれからだ。

 とにかく今はそのことだけを考えよう、彼女のことは忘れて。

 俺の未来には大きな可能性が広がっているんだ。それを彼女に潰されてなるものか。



 俺は喫茶店に来ていた。

 そして人目につかない奥の席に座って、目立たないように身をかがめ、頭を抱えた。

 今は誰にも俺の姿を見られたくない。

 あの後彼女を何とかおとなしくさせた俺が会社に戻ると、会社の皆んなが俺を変な目で見る。そしてひそひそ何か――たぶん悪いことを話し合っている。

 それを見た瞬間、もう何をしても駄目だと分かった。

 俺はもう駄目だ。

 あの会社では俺の出世はもう望めない。

 広告会社は評判が命みたいなものだ。

 会社の前であんなに大騒ぎをされてしまっては、もう会社に俺の居場所はないんだ。

 どうしよう、何でこんなことになったんだ。

 たまたま道で会った女と付き合ってセックスをしたばかりに……。

 やはり、ナンパなんかする女にろくなやつはいない。

 そんなことを今更考えても仕方がない。

 ……

 それにしても、あの女は何なんだ?

 自分が浮気をしておいて、どうしてあそこまで俺に付きまとうんだ?

 まったく意味がわからない。

 おそらく、彼女は精神に異常でもあるんだろ。精神病院から逃げ出してきた患者だと他の人間から教えられたら「ああやっぱりね」と俺が思うような女だからな。

 ……

 これからも、あの女は俺につきまとうつもりなのか?

 俺が今勤めている会社をクビになった後も、新しい仕事場にやってきて今日みたいに騒ぎを始めるつもりなのか?

 会社の前で俺に身体を弄ばれたと叫ぶ女、裏では浮気をしているくせに。

 とても現実の出来事とは思えない。

 そして彼女から逃げられるとも思えない。

 彼女から逃げるためには、俺は顔を変え、住所を変え、仕事も変え、指名手配犯のようにあちこちを転々としなくてはならないのか?

 あいつはなぜか俺の実家の場所まで知っている。きっとどこに逃げてもしつこく追いかけてくるだろう。

 何とかあの女を精神病院にでも閉じ込めることが出来たらいいのだが――。

 しかしそれは無理だろう。あいつはおとなしく精神病院に閉じ込められるような女ではない。

 店に客が入ってくる、俺はとっさに顔を伏せてしまった。

 さっきの出来事から人目が怖くて、つい隠れてしまう。俺のことを知らないような他人に対してもだ。

 俺は変わってしまった。そして変えてしまったのはあの女だ。

 くそう、セックスさえ――セックスさえしなければこんなことにならなかったのに。

 道を歩いていて女性に告白されたくらいで浮かれてしまってセックスをするなんて、バカか俺は。

「セックスなんてこの世から無くなってしまえ」とは言えないが、しばらくの間だけ――あの女が俺に付きまとうのをやめるまで、俺の中から性欲が消えてほしい。

 やっぱり付き合うのならナンパではなくて、結婚を前提としたお見合いで知り合った女性にするべきだった。

 どうして昔の人がお見合いばかりするのか今分かった。

 道でたまたま出会うような女にまともな精神の人間がいないことを昔の人間は知っていたから、お見合い以外では結婚をしなかったんだ。

 それを知っていれば、俺もこんなことにならずにすんだのに。

 ……もう出家するしかないか?

 お寺は女人禁制と言われているくらいだし、さすがに彼女も山奥にあるお寺までは追ってはこられまい。

 ……出家か、俺はまだ25歳なのに出家するのか?

 ……

 ……

 俺が頭を丸めて出家する覚悟を決めかけた時に、後ろの席の客の話し声が耳に入ってきた。

 さっき店に入ってきた客たちだ、どうやら二人組の女性のようだ。

「加奈、ちゃんとビデオに撮っておいてくれた」

「うん」

「よかった。後であれを見て楽しむんだからメールでビデオを送ってね」

 何だビデオって? 誰かが道で転んだ所でも撮ったのか?

「それよりも舞。まだ灯油くさいよ」

「えっ、まだ臭う? シャワーをきたんだけれどもね。たぶん、さっき頭から思いっきり灯油をかぶったせいよ」

 灯油? 何の話をしているんだ? ……まさか。



「それにしてもさっきのあいつ笑っちゃうわよね。あの驚いた表情、吹き出しそうになったわ」

「舞、悪いよ笑っちゃ。さすがにやりすぎじゃないの?」

「いいのよ。抱かせてやってるんだから、あれぐらいしたって」

 舞が足を組みながら偉そうな態度でコーヒーをすする。

「でも、あなた他の男にも抱かれているんでしょ?」

「違うわよ」

「何が違うの」

「わざとよ、わ・ざ・と」

 加奈が舞の顔を見つめる。

 舞が何を言っているのか理解していないのだ。

「学にわざと見つかるように他の男とラブホテルに入ったのよ」

「何でそんなことをするの?」

 加奈がわけが分からないといった顔をする。

「あいつの驚く顔をみたいから、わざとやったのよ」

「そうなの」

「当たり前でしょ。私がヒヒみたいな中年のオヤジと喜んでラブホテルに入ると本気で思っているの? あんた私をバカにしているの?」

「でも寝たんでしょ」

「だから、何?」

 舞がタバコに火を点ける。そして加奈の顔に煙を吹きかける。

 加奈が煙にむせて咳をする。

「何でそんなことをするの、何か彼に恨みでもあるの?」

「あいつ家が金持ちでしょ」

「そうなの?」

「そうよ。あいつ家が金持ちで、その上大企業に勤めているから調子に乗っているのよ。どうせ子供の頃から苦労を知らずに生きてきたんでしょ。だから、ちょっと人生の厳しさってやつを教えてやっているのよ」

 舞がコーヒーをすする。ブラックのコーヒーだ。舞はワイルドな女なので甘いコーヒーは飲まない。

「じゃあ彼のことを愛しているから付き合っているんじゃないのね?」

「愛してるわけないでしょ」

「じゃあ、何で付き合ってるのよ」

「あいつは中身が小心者のくせに根性ありますみたいな顔をしているから、ちょっとからかって遊んでいるだけよ」

 舞が口からタバコの煙を輪にして吐き出す、そしてその行方を満足そうに見つめる。

「そんなんでいいの」

「いいのよ、楽しければね。生きている間にたくさん楽しむ、それが私の生き方なのよ」

 コーヒーのおかわりをしようと舞が手を上げて店員を呼ぼうとする。

 その手を何者かにつかまれる。

「えっ」

「お遊びでやっていたのか?」

 舞が声のする方を振り返ると、そこには学が怒りに身を震わせながら立っていた。

「……」

「……」

 舞が学の手を振り払って息を大きく吐く。

「……分かったわ、私のことが抱きたいんでしょ」

 舞が学の手を引っ張って、彼女のマンションに連れて行こうとする。

 しかし、学は動かない。

「俺はお前のことを抱きたくはない」

「どうしてよ」

「さっきセックスしたからね」

 舞が驚いた顔をする。

「どういうことよ」

「男は同じ相手と1日に2度もセックスしたくないんだよ」

「じゃあ、どうするのよ」

「お前がどうするんだよ」

「……」

 舞がパンと手を叩く。

 何も起こらない。

 舞がもう一度パンと手を叩く。

 学の様子に変化は見られない。

「どうして催眠術にかからないのよ!!」

「男はセックスをした後12時間は催眠術にかからないんだよ」

「何でよ!?」

「おとこは同じ日に同じ女と2度もセックスをしたくないから、その間はお前の催眠術は効かないんだよ」

「……そんなのひきょうよ」

 舞が卑怯者を見るような目で学を見る。

「それで、お前はどうするんだ」

「……」

「どうするんだ」

 舞がカバンからナイフを取り出す。

「どうして、あなたはそうなの。あなたがそんなだから――」

 舞がそういって自分の喉にナイフを突きつける。

「私が死んでもいいっていうの? 私の身体を弄んで――」

 学がゆっくり舞の手からナイフを取り上げる。そしてそれを舞の方に向ける。

「何をしているの」

「死にたいんだろ」

「そんなわけないでしょ!!」

「今そう言っていたじゃないか」

「あなたは人の命の大切さってものが分かっていないわ!!」

「お前には分かるのか?」

「そうよ。だから私は自分の命を大切にして生きているわ」

「じゃあ、死ぬ気はないんだな」

「当たり前でしょ!!」

「じゃあ、何で灯油をかぶったり、ナイフで自分の喉を刺そうとしたりしたんだ?」

「それは…………ジョークよ」

「ジョークか」

「そうよ」

「……」

「……」

「……」

 舞が突然後ろを振り向いて走って逃げ出す。

「あっ、このやろう。逃げるな!!」



 私の名前は北条舞

 私は今、男に追われている。

 男はすぐそこまでやってきている。

 きっと彼は私を捕まえるだろう。

 誰かにこのことを知ってもらいたい。

 だから、私はここにメモを残す。

 いつの日か、誰かが見てくれるように。

 私の身に一体なにがあったか知ってくれるように……


 バンッとトイレのドアが開く。

「あっ、お前。何ブログの記事の更新なんかしているんだよ」

 舞がしまったという顔をして振り返る。

「やばっ!!」

「あっ、まさかお前今までのこと全部ブログに書いていたんじゃないだろうな!?」

 学が怒りの表情を浮かべる。

 舞が店中に響き渡るような大声を出す。

「誰か、誰か助けてー!! 痴漢です。誰か―――――」

「誰が痴漢だ!!」



 学が警察に連れて行かれた。 

 女性トイレに侵入して女性にイタズラしようとしたことが原因だ。

 学は私の方を振り向き「お前、絶対にゆるさないからな!!」と脅すような声で吠えている。

 彼は私が女性だからあんなことを言っているのだろう。私は脅されたくらいで怯むような女ではない。誇り高い女なのだ。

 でも、もうあの男に付きまとうのはやめよう。

 これ以上付きまとったとしても私にとっておもしろいこともないだろうから。

 最後に一つだけ書いて私はこのブログを終わる。

 彼のような男に付きまとわれて私のような目に他の女性があわないように、私は自分の身に起きた出来事のすべてをここに書いておいた。

 私は言いたい。

 道で出会ったよく知らない男とは付き合うなと。

 運命的な出会いというものはこの世に存在しない、そこに存在するのはただ不幸だけだ。

 私のように男に身体を弄ばれ、ただ捨てられる、あの竹内学のような男に。

 聞くところによると、彼に身体を弄ばれた女性の一人が彼の会社の前で灯油をかぶって自殺をしようとしたらしい。

 一体どんなことをされたら女性はそんなことをするのだろうか?

 女性をそこまで追い込むとは、彼は一体なにをしたのだろうか?

 それを考えると私はとても怖くなる。

 彼のような男と一時期でも付き合って肉体関係を結んでいたことを考えると私は怖くなるのだ。

 きっと彼は精神に異常でもあるのだろう。

 だから出会う女たちをどんどん不幸にしても彼はまったく意に介さず、ただ肉体関係を結び続けるのだ。ただ獣のように。

 私は祈る。

 もう竹内学のような男に不幸な目にあわされる女性がこれ以上生まれないことを、私は祈る。

 私にはただ祈ることしか出来ない。

 でも、祈らずにはいられない。

 私のような目にあう女性がもう生まれないことを――――――。

 

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