60 気後れする取引
「とにかく、その魔石がスゴイものだってことがわかったよ」
「……うん。だけど、こんなにすごい魔石とこれは吊り合わないんじゃ……」
リュッカは魔石の入った小袋を見る。
確かにリュッカの言う通り、いくら大量にある魔石とはいえ、それだけの効果のある魔石と交換は物怖じする。
だが、こちらの気も知らずか駄々をこねるように騒ぎたてる。
「ええ〜!? いいじゃん! いいじゃん! これと交換しよ〜よ! 何だったらもう一個つけるからさぁ〜」
「も、もう一個ですか!?」
ひょいと軽いノリで鞄からもう一個同じ物を取り出した。
「何で出てくるのさ……」
思わず呆れる。貴族が買い求め、ぼったくれるものをこうも簡単に出すこの男に頭が痛くなる。
こうも言い寄ってくるクルシアにリュッカが質問する。
「あの、明らかにそちらの方が損することがわかっているのに、交換しようと言うんですか?」
「いや〜よく考えてよ。ゴブリンとはいえ、大量に狩る時間を考えると面倒だよね?」
それを聞いて言いたいことをなんとなく察した。
「時間は有限でしょ? それだけの魔石があれば多少はゴブリンを狩る無駄な時間も減るでしょ?」
「まあ、確かに……要するに時間を買うってこと?」
「そういうこと♩ だから……交換しよ」
お互いメリットのある取引でしょとウインクして愛らしく言った。
悪い取引どころかいい取引ではあるが、一応とアイシアは値段を聞く。
「これさ……貴族が買い求めるんだよね。いくらするの?」
「うーんと……大体の相場は十万リィンくらいだったかな?」
「ええーーーーっ!!!!」
それを聞いた俺以外の一同は目を丸くして、大声を出して驚く。
「十万ってとんでもねぇじゃねえか!!」
これだけの効果だ。十万でも安い気すらするが、この石一個では確かに高いとも感じる。
「無理です! そんなのとこの魔石を交換なんて無理です!」
「え〜、まだ吊り合わない?」
「こっちがです!!」
この焦りようは手に取るようにわかる。こちらは弱い魔物から取り出した魔石と貴重な人工魔石。
金額がわからなくても差は歴然だとわかる。
「あのやっぱりこの取引やめませんか?」
気が引けるのか、おずおずとリュッカはクルシアに尋ねる。
「ええ〜、いいじゃん! いいじゃんねえ〜っ!!」
再び駄々をこねるクルシア。今度は地面にゴロゴロと転がってみせた。見かねた俺は小さくため息をつくとリュッカを説得する。
「リュッカ……ここまで言ってるんだし、交換しようよ」
「でも……」
「気後れする気持ちもわからないではないけど、取引を持ちかけてる本人がこう言ってる訳だしさ……」
リュッカは眉を寄せて悩む。そして、他の人達にも目線を送り、意見を求める。それに気付いた一同。
「リュッカちゃんが決まればいいよ……」
「管理してるのはリュッカだし、私達はリュッカが決めた決定なら文句ないよ!ねぇ?」
同意を求められたDランクパーティの三人。任せるとのこと。
「――わかりました。そちらがいいなら――」
「やったぁー!! ありがとう!! じゃあこれ、はい!」
すんなりと人工魔石を二個、リュッカに渡して小袋を受け取った。二個もいらないと断ったリュッカだったがお近づきの印にと渡された。ちょっと怪しかったので一応の確認取る。
「……それ偽物とかさっきの説明が嘘とかないよね?」
「そりゃないよ! こんなゴミ魔石にそんなことしないよ」
腹を抱えて笑い飛ばす。
「あの、その魔石と交換したんですけど……」
それを聞いて、得したはずなのに落ち込むリュッカ。それを聞いたクルシア、ごめんごめんと悪びれている様子のない言い方で謝る。
「そんなに落ち込まないでよ。あいつが作った魔石をあいつが欲しい物と交換しただけでなく、ボクの作業も省いてくれたんだから、気にしないでよ」
「気にするようなこと言ったのは、貴方でしょ……」
それならと何やら鞄を漁り、ピンクの液体の入った香水瓶を俺達女衆に手渡した。
「何これ?」
「気にするようなことを言ったお・詫・び」
「えっと……香水?」
「そう、香水! 女の子、こういうの持ってた方がいいでしょ?」
香水なんて渡されても、ゲームしてばっかりしてた俺には縁のない物だ。使い方なんてわからん。俺が眉を寄せて困っていると、それ以上に動揺を隠せず困った表情をするリュッカが断りを入れる。
「そんな! こんな貴重な魔石に、こんな香水まで……頂けません!」
「いいよ。どうせ、これだけの魔石を貰ったんだ。その香水、使わないし……」
ん? どうして魔石の数と香水が関係してくるんだ? よくわからなかったので尋ねた。
「この香水が何か関係あるの?」
すると身体についた匂いを撒き散らせるように、ゆっくりとくるくると回りながら答えた。
「ほら、ボクが今匂わせてるこの匂い、その香水なんだよ。女性フェロモンを高めたり、女の匂いをつけられたりするんだよ」
「……何でそんなものつける必要が――」
「多分、ゴブリンをおびき寄せる為だと思う」
「ああっ! なるほど! ゴブリンは女の匂いに敏感だからか」
「その通り!!」
アイシアちゃん冴えてるねと指を鳴らす。だが、俺達に一つずつ渡すところを見ると結構ゴブリンを倒すつもりだったんだ。確かにそれなら、小袋とはいえ、大量の魔石と交換する訳だ。だが、少し多い気もした。
「……こんなに使うつもりだったの?」
「いやぁ、買い過ぎちゃって、処分に困ってたからいいよ」
「じゃあ、そういう事なら貰っとこうよ!」
アイシアはぴょんぴょんと飛び跳ね、浮かれ気分だ。香水なんておそらく手にしないからとても嬉しそうだ。
リュッカと俺は互いに別の意味だが、困惑した表情をしていた。
「あのやっぱり――」
リュッカは香水をクルシアに返そうとそっと手渡そうとするが、クルシアはその手を握り返した。
「――いいの! 女の子なんだからこういうシャレた物くらい持っときな! その内、何かの役に立つだろうしね」
気弱なリュッカを押し切るように口説くクルシア。この男、見た目とは裏腹に女の扱いに慣れているのだろうか、わかりましたとリュッカは申し訳なさそうに受け取った。




