57 魔法は奥深いのです
俺達一同も自己紹介した。特に怪しい感じもしなかったので。
「じゃあ、自己紹介も済んだし、クルシアさんは何してたの?」
「さん付けなんていいよ。クルシアって呼んでよ、リリア! ボクはご覧の通りさ!」
ばっと手を無残に散り、先程グチャグチャにしてたゴブリンを指す。
「いや、わかんないよ。気持ち悪いし……」
この世界の人達って魔物がいるせいなのかわからないが逞しかったり、恐れ知らずの人が多い気がしる。まあ、ヘタレもいるけど。
普通、異世界人の俺の方がビビるのが普通じゃないかな。
「ええ〜! ゴブリン狩りだよ〜? 何でわかんないかなぁ〜?」
ぷりぷりと両頬を膨らませ怒る。しかし、ゴブリン退治とは……流行っているのだろうか、少しザーディアスの事を思い出す。
それを思ったのは俺だけではないらしく、アイシアが疑問を投げかけた。
「何でゴブリン退治? 私達と一緒だった人もそうだったから……」
「ゴブリン狩りの理由? ……ボクの知り合いが何でもね、ゴブリンから取れる魔石が欲しいんだって。面白いものが見られるから取ってこいって……」
まさかの理由までほぼ同一な事に驚く。世間は中々狭い。
「あのもしかしてザーディアスさんのお知り合いですか?」
リュッカが尋ねると、指をパチンと鳴らしテンションを上げて答えた。
「あれ!? ザーちゃんのこと知ってるの?」
「ザ、ザーちゃん?」
「そうそう! ザーちゃん! いやぁ、最近会ってなかったけど、元気してた?」
どうやら知り合いらしい。ザーちゃんと呼ぶあたり、かなり親しい関係なのだろう。
「はい、元気でしたよ。それに色々なことも教えて下さって……」
「まあ、調子のいいおっさんだったけどね……」
「ザーディアスさんとの旅楽しかったです! ……あれ? でも、確かゴブリンの魔石を持っていくって別れましたけど……」
「あれ? そうなんだ……ええ〜!? だったらゴブリン狩りなんて引き受けなきゃ良かった〜!」
ホントに表情がコロコロと変わる人だ。
「じゃあ戻るの?」
「う〜ん……どうだろ。これだけしか持っていかなかったら、どやされそう……」
すると、ガサガサっと茂みから音が聞こえる。
「誰だ!」
「ああ……ゴブリンだよ」
クルシアはそう言うとその茂みへ向かって右手を鳴らす。すると、ヒュゴっと風が巻き起こり茂みを切り裂いたかと思うと――。
「ゴブギュフゥ――!!」
数匹いたゴブリンが切り裂かれた。一瞬の出来事だったからか、唖然とさせられた。
「……今のが人だったらどうするつもりだったの!?」
「大丈夫だよ〜。感知魔法で気付いてたし、それにゴブリンごときに遅れなんてとらないよ」
感知魔法で気付いたって……俺達は集中しなくちゃ、うまく使えないのに、こいつはこんなに表情をコロコロ変えながら俺達と話をしながら、周囲にも気を配っていたってことになる。
流石、あのおっさんの知り合いってだけはある。そしてリュッカは更に関心を向ける。
「さっきの魔法もすごかったですよね。無詠唱……しかも発言無しでの魔法発動なんて初めて見ました」
言われてみれば、この世界の魔法常識は呪文の詠唱ならびに書き出し以外の発動は基本しない。
「確かに詠唱や文字詠唱無しなんて……」
「それ、基本ってだけでしょ? ボクは魔法の発動条件を音にしただけだよ」
「発動条件を決めれば、発動できるってこと?」
「そうそう! 魔法は奥が深いのだ!」
「音での発動。呪文詠唱の音版ってところか……」
「そうだね。楽器を使ったものが有名だけど、指を鳴らしての発動は初めて見た……」
確かに本にも基本とは書かれていたが、他にもこんな魔法の発動があるのだろうか。
それにしたってこのクルシアって男、簡単に使いこなすところを見ると、相当な実力の持ち主なんだろう。
 




