56 空色の少年
実に目を惹く容姿が飛び込む。屈んでいるその小柄な少年の髪は空の青そのもの。実に美しい髪色である。歌は酷いが。
その少年は切り刻んだゴブリンから魔石を取り出している様子だが、先程の風の件を考えると不用意に近づく訳にはいかない。
「そこに誰かいるのかな?」
漁るその手を止め、くるっとこちらに向き、無邪気な声で訊いてきた。どうやら気付かれていたようだ。感知魔法でも使っていたのだろうか。ゴブリンを退治していたのだから、容易に想像できる。
だが、攻撃してこない辺り、ゴブリンとは思われていないみたいだ。先程の風魔法を撃たれでもしたら、大変とそっと顔を出す。
「えっと……どうも」
「わぁお!? すごい美人!!」
ひょっこり顔を出した俺に対しての第一声。とても素直な反応だ。その後、安全を確認するとアイシア達も出てくる。
「ごめんね、邪魔したみたいで……」
「ううん、大丈夫!」
無邪気な笑顔で返事。リュッカは心配そうに周りをキョロキョロとした。
「えっと……大人の人はいないのかな?」
確かにこの見た目だ……この子一人は危ないと思う、色んな意味で。だが、この明らかに子供の容姿の彼は不思議そうに上目遣いに話す。
「あれ? もしかしなくてもボク、子供に見られてる?」
「え? 子供だよね?」
「ボクもう二十過ぎてるよ」
「「「「「!?」」」」」
一同驚愕。それもそのはずだ、見た目は完全に十二歳くらいの男の子、下手したら女の子に見えなくもない。
遠巻きに見た印象からもわかる、空色の青髪に飛行機雲のように白いメッシュがスーっと一筋通っている。目はパッチリしており、リリアほどでは無いが肌もきめ細かく白い、筋肉のそんなについてない細身がかった腕と足。服は白いシャツに黒の短パン、さらに上には黒いフード付きのローブを羽織っている。
それに加え、何やらこの童顔男。言い方は少々あれだが、メス臭い匂いが漂ってくる。これが、拍車をかけるように女の子にも見えてしまう原因だが、短パンというアイテムだけで男の子に見えてしまう。
「ご、ごめんなさい! まさか、年上とは思わず……」
「はははは!! いいよ、いいよ。こういう扱いには慣れてるし、それに別に悪い気しないし」
「つーか、マジで二十超えてんのかよ? ガキだろ?」
「信じる信じないは任せるけど……ここで何してんの? 楽しい事!?」
すずいと目を輝かせながら、ぴょんと跳ねて近付き尋ねられた。おそらくこの馴れ馴れしい感じがまた、歳を感じさせないのではないだろうか。
「私達はこれからラバって街に向かうの」
「ふーん……で?」
まだ何かあるでしょ?と言いたげな興味津々の表情だが、期待には応えてあげられない。
「その後、王都に向かうだけ」
「だけ?」
「だけ」
「なーんだ、つまんない」
期待外れだなぁとその辺の小石を蹴る。そんな仕草、今時やらないよ。
「じゃあ、貴方は?」
「えっ? ボクはねぇ……ってああっ!!」
何か重要な事を思い出したとばかりに声を荒げる。
「えっ!? 何!? どうかしたの!?」
「自己紹介忘れてた」
思わずその場でこけてしまった。確かに自己紹介は大切だが、そこまでオーバーな反応をしなくてもいいと思った。
すると彼は右手を胸に添えて、そのまま深くお辞儀した。
「初めまして、ボクの名前はクルシア。流浪の旅人さ、よろしく!!」
よろしくの挨拶と同時にばっと素早く顔を上げ、親指を立てグッドポーズ。
無邪気な心……童心を感じられた明るい挨拶だった。




