54 成長する男 しない男
翌日、昨日の夜の騒動が嘘のような、静寂な清々しい朝を迎え、早々に騎士達の仕事の邪魔にならぬよう、仮設基地を後にするのだった。
ぶっちゃけ、あの性格もイケメンな隊長さんには王都までご一緒しましょうかと素敵なお誘いも受けたのだが――、
「彼女達は僕らが護衛します。最後まで僕らが責任を持ってやり遂げます」
――とアソルは言い切った。ラッセ達とは違い、アソルはしっかりと自分のやるべきことを理解しているよう。この旅で成長したように見受けられる。
ラッセとクリルもまだマシにはなったけど。盾役くらいには。
さて、旅立ってから五日目に突入。この日は森を抜けて、ラバへ向かう事を目的とする。ザーディアスが同行していれば、途中にあるギルドの野営地に寄るのだが、いないのでスルーだ。
道なりに進み、魔物を討伐しつつ、先へ進む。
「リュッカさん! 後ろ!」
「はい! はっ!」
ザッシュっと斬りかかるのはゴブリンの群と遭遇して交戦中。
前衛は本来四人いるはずなのだが、ゴブリンに突貫するのはリュッカとアソルのみ。果敢に攻めつつ、ゴブリンの攻撃を躱す。ここまで、結構な数の魔物との戦闘経験から中々の動きを見せる。素人目ではあるが。
そして、本来中衛または前衛で戦わなければいけない甲冑男と両刃斧使いは俺達、魔法使いの盾役としての位置付けとなっている。
「あのさクズ。いい加減、アソルみたいに戦ったら?」
「う、うるさい! 俺はリーダーであるアソルの成長の為にと思ってだな……っていうかクズ呼ばわりはやめろ!」
俺は現在ラッセのことをクズと呼んでいる。そりゃそうだ、今までの素行を見る限り、トラブルメーカーはコイツだ。しかも、反省の色も殆どない。まあ、だいぶ丸くはなったが……。
「やめてほしかったら、もっと男らしいところでも見せて下さい」
「うぐっ! ぐう……」
物凄く悔しそうな表情。女にここまで言われ続ける屈辱と魔物が怖くて手が出せない恐怖とで唇を軽く噛んで拗ねるような顔だ。プライドだけは立派である。
「リリィ! その人はいいから、二人の援護!」
「はーい!」
アイシアもラッセとクリルの扱いが雑になってきている。そんな扱いの空気を読んでしまったラッセは身を震わせ、叫び、ゴブリンと戦闘中のリュッカとアソルの元へ行く。
「うがあぁーー!! 俺だってなあ! 俺だってなぁ!!」
「ちょっ!? ラッセ!」
「危ないですよ!」
「うるさい! うるさい! どいつもこいつもバカにしやがって!!」
小物臭がマックスな発言を頂いた。剣の振りは相変わらず乱雑。アソルやリュッカの戦闘をあれだけ見といて、ザーディアスの戦闘訓練も受けたのにもかかわらず、この体たらくである。この男は学ばない。
この乱雑な剣振りにリュッカとアソルは距離を取る。ゴブリン達はそれを見て興奮し、一体が飛びかかる。
「カブガァ!」
「ひぇ!!」
ゴブリンは大振りになって、隙ができたところに襲い、押し倒す。戦闘経験なら多分、このゴブリンの方がラッセより先輩だ。
「ああっ! は、離せ! た、助けて……」
涙目になりながら助けを懇願する。そんな様子も御構い無しのゴブリン、手に持つ棍棒を振り上げる。
「はあ!」
アソルがその振り上げたゴブリンの腕を切り落とす。木の枝くらいの細腕がボトっと力無く落ちる音がした。
「ギァガァ!!」
「これで……!」
ラッセの上に股がるゴブリンを斬り裂く。ゴブリンはそのままラッセに向かって倒れ込んだ。
「あ……ああっ! ゴブリンが……汚ねえし! 臭え! 何してんだよ、アソル!!」
「ラッセがあんなことしなきゃそうはならなかったよ。とりあえずまだ、戦闘は続いてるんだ、そこで大人しくしていろ」
ゴブリン達に剣を構えながら呆れ声で話す。泣きながら助けを求めたにもかかわらず、嫌味口である。いくら仲間でも呆れられもする。
なんやかんやありましたが、程なくしてゴブリンとの戦闘は終わった。
 




