07 被害妄想の被害者
『ですので闇魔法の才能を持ち、周りを惑わす存在である私が生きている価値はありません。今までお世話になりました。ありがとうございます。そして……さようなら 〜リリア・オルヴェールより〜』
先ず一つ言いたいことがあります。自殺はやめましょう。
一般論でしか話せないが、自殺は自分は勿論、周りの人達も不幸にする、人が一番やってはいけないことだ。
まずはしっかりと落ち着いて考えをまとめ、親に相談するなり然るべきところへ相談に行くなど、とにかく一人で抱え込み、悩むのは良くない。話す事で気持ちが楽になったりするものなんじゃないだろうか。
そして二つ目、この娘は勘違いや被害妄想が酷い。原因は完全に父親だがな。被害妄想が酷くなると考えは悪い方にしか考えられず、悪循環を作り出してしまったようだ。
そして三つ目。俺は完全に無関係じゃないかな!? 完全に巻き込まれただけじゃないか。俺は向こうの世界に対して今のところ不満なんてなかったのに……。
とりあえず情報をまとめよう。俺が巻き込まれた経緯はこうだ。
この美少女はこの外見と闇魔法の才能で周りから馴染めなかった。
そこを拗らせて、ありとあらゆる勘違いを繰り返し、しかも同性の嫉妬を強く買ったことで被害妄想が悪化。
信用できるはずの両親からはズレた意見を貰い、更に考えが加速して、自殺に踏み切った。
彼女の身長ほどの大きさはあるであろう、自殺用の魔法陣を形成するもこれだけの出血だ、描いている途中で貧血でも起こし、倒れてしまった。
魔法陣には一部が擦れて切れているところがあることから、魔法陣が誤作動を起こし、魂を魔力に変えるではなく、魂と魂を交換する効果の魔法陣になってしまったのではないかと推測できる。
その結果、俺は巻き込まれ、彼女になってしまった。
これが今ある情報から推測できる状況考察ではないか。
「……」
黙り込み、思考も少し停止するが、すぐに結論は出た。
わなわなと怒りに身を震わせる。
「――完全に巻き込まれただけじゃねえかっ!! 被害妄想の被害者ってなんだよっ!!」
頭を両手で抱えぶんぶんと振る。向こうの世界での黒歴史でもこんな発狂をした事がない。
「はああぁーー……」
大きく長いため息をついた。
彼女にとっては重大な悩みではあったろうけど、もう少し冷静に物事を判断すればこんな行き違いにはならなかったんじゃないか?
巻き込まれた事への怒りと美少女に転移するという動揺と好奇心、自殺志願に対する無責任な同情心と、もう気持ちはめちゃくちゃである。
――問おう、皆さんならこの状況どうですか?
美少女に転移したとはいえ、被害妄想の被害にあって別世界に飛ばされる。
――歓喜しますか? 絶望しますか?