49 将来の語らい
俺達は荷馬車から茶色の味気ない寝袋を敷いて、まだ眠くならないこの夜を過ごしている。
「そういえば、まだちゃんと聞いてなかったけど、なんで王都の魔法学園に?」
あの辺りだとクルーディアの学校に通うのが普通らしい。バトソンさんが言っていたのを思い出す。この二人も近いとは言ってた以上、わざわざこんな遠くまで行かなくてもいいはず。
「私は、魔物の知識を増やす為……かな?」
「家の事?」
リュッカは確かに解体作業が上手かった。周りの男達、中身が男の俺を含めて引くくらいには。
「そうだね。クルーディアでもよかったんだけど、やっぱり王都みたいな大きいところの方がいいだろうって……」
「家……継ぐ気なんだ」
「何でも個人経営の解体屋の方がいいって人が多いらしくてね」
事情をある程度理解しているのかアイシアが語る。
「ギルドでやってもらうとお金がかかったり、ぼったくられたりするんだって」
「それはさ、個人経営でも一緒なんじゃない?」
「個人経営の場合は信用問題に関わってくるから……」
ギルドの場合はそもそも魔物討伐依頼が次々と舞い込む為、多少お金を取られたりしても愛嬌として誤魔化す事も出来るが、個人経営の場合、店自体を覚えられる。そんな事をすれば先行きが立たなくなるとのこと。
「だから、家を継ごうって?」
「継ぐ理由としては魔物の解体って、やっぱり嫌なものじゃない? リリアちゃんも避けてるし……」
「まあね。あの光景は中々慣れない」
「そうかな? 私は大丈夫だけど……」
それはアイシアだけだよ! 多分。あのグロテスクな光景はキツイ。だから、医者という職に就いている人達も尊敬するわ。人の身体を切ったり、縫ったり……俺……絶対無理。
テレビでたまたま見た医療ドラマの手術シーンを思い出す。
「だからね、その嫌な事を率先してできるならやろうかなって思ったんだ。それに、魔物から回収した物が色んな人達の役に立ってると思うとそれはそれで嬉しいし……」
「最終的にはお父さんがカッコよかったんだよね」
「シ、シアっ!?」
それは言わないでとリュッカ。じゃれあう二人は楽しそうだ。
将来か。
俺は将来なんて全然考えてなかった。学校へ行って、友達と遊んで、いつもと変わらない風景を眺めながら流れるように過ごす日々。
リュッカみたいに考えようなんてこれっぽっちも思わなかった。面倒くさい事は誰かがやってくれる、自分はやらなくていい、なんて無責任な事ばかり。生意気だなって思う。
ここに来て、そもそも世界も性別も環境も変わってしまって将来なんてって……また、言い訳するけれど、少しは考えてみようかなって、楽しそうに話すリュッカ達を見てたらそれも楽しそうだ。
「――で? アイシアはどうなの?」
「へ? あー……私は……」
歯切れの悪い感じで目を泳がせて言い淀む。その様子を見た俺はジトッと見る。
「……リュッカについて来ただけだよね」
「そ、そうだけど、ほら。王宮直属の魔術師にでもなれたら、両親に楽ぐらいさせてあげられるでしょ?」
「はいはい」
あやふやな将来を語るアイシアに流すように軽く返事をした。そんな俺を見て詰め寄るように言い放つ。
「じゃあ、リリィはどうなの?」
「私は……」
どうしたいのだろう。改めて聞かれると言葉が出て来ない。だけど、やろうとしている事が見えないからこそ、こう答えた。
「やりたい事を探しに……かな?」
「私とほとんど同じだよー」
可能性を広げることは大切だ。リリアの母さんがくれたこのチャンス……物にしないとな。




