44 ラビットフット
遠くから音が聞こえる。そこから分かるのは足音。そして本当に小さく地鳴りもする。小刻みにテンポ良く。
「――ラビットフットか!」
感知した数は七体。まだ、距離は遠いが彼女達が構える目の前から来る事は感知魔法で把握している。
「銀髪嬢ちゃん!」
声をかけられ、不意に振り向く。
「何!?」
「とりあえず好きに指示しな! もしダメでも尻拭いはしてやる」
「バカ言うな! おっさんに尻なんて触られたくないよ」
おっさんから保険をもらった。くそっ、安心するなよ俺。自分の身は自分で守れってね!
「リュッカ! もう少し前へ! 敵が見えたら突っ込んで!」
「うん!」
「アイシアは今すぐ詠唱! ファイアボールで! 当たらなくていいから、敵が来る方へ撃って!」
「分かった!」
ゲーム知識と今までの魔物知識、おっさんのしてきた対応を頭の中で考えを巡らせる。
基本的に魔物は多少の事では怯むことはない。異常事態や相当な実力差でもない限り、ラビットフットのような動物種は怯まず攻撃してくる。
「――火の拳よ、敵を撃て! ファイアボール!」
「――ファイアボール!」
アイシアは若干、俺のファイアボールの詠唱とは違うみたいだ。確かに言葉は何でもよいとは書かれてはいたが。
二つのファイアボールがラビットフットが来るであろう場所へと飛んでいく。すると……キィィ、ギィィという動揺した鳴き声が聞こえる。
まずはファイアボールで牽制。当たればラッキー程度のもの。一応俺は激しくファイアボールを連発もできるが、それをこの森の中でしてしまえば、森を焼き、別のピンチを招く。魔物も興奮して襲ってくる恐れもあるためそれはしない。
この牽制でラビットフットはこちらの場所を確定する。興奮状態になったところを叩く。
「アイシア! 強い魔法の詠唱を始めて! ラビットフットが来たら合図を出すからそれに向かって撃つ!」
「分かった!」
真剣な目で詠唱を始める。
「――舞い踊る火の精霊よ、我が声に耳を傾け――」
「リュッカはラビットフットが――!」
ラビットフットが地鳴りを鳴らしながら飛び跳ねてくるのが見えた。一体が先行して来る。
「――リュッカ! 行って! 援護するから!」
「分かった! ――行くよ!」
ダッと盾を前に構えながら走り、駆けるリュッカ。剣はすぐに斬りつけられるように後ろに構えている。
「――シャドー・エッジ!」
先行するラビットフットの左足を黒い刃が貫通。動きが一瞬鈍る。それを瞬時に見たリュッカは、
「――やあっ!」
ラビットフットの顔を縦に剣で斬りつける。キィィと鳴きながら苦しみ、切り傷から血を流すラビットフットはその場に苦しみながら留まる。
「――リュッカ! 後ろに飛んで!」
俺の声に気付き、後ろへ飛ぶように地面を思い切り蹴る。
「きゃあっ!」
勢い余ったのか、足が保たれ、地面に引きずってこけてしまった。
心配したいが、リュッカが斬りつけたラビットフットの後ろから来るヤツらの対処が先だ。魔力を多めに込める。
「――ダーク・スナッチ!」
ボンっとラビットフットの群れに黒い靄がかかる。無詠唱は魔力を多めに込めれば、威力が上がることは実証済み。ラビットフットは靄から出てこない。流石に驚いたか。
「――アイシア、いける?」
合図がこれだと気付くと、こくっと頷くとヒュンと杖を靄へと向ける。それを見たリュッカは横へズレた。
「――貫け! スパイラル・ブレイズ!!」
アイシアの目の前に赤い炎が渦状な形状へと変化していく。すると駆け抜けるように黒い靄に向かって轟音と共に走っていく。
ボゴゴゴォーーッ!! ボッカカァーン……ッ!!
靄を貫くと爆発が発生。実はこれも狙い通り。
――アイシアは火の魔術師だ。ダーク・スナッチで発生する靄は魔力が込められている。つまり、粉塵爆発が起こせる粉状のものになるのではないかと考えた。
辺りは少し火の粉が飛んで燃えてはいるものの、規模が小さいので消すのは容易だろう。ラビットフットがいた辺りはまだ黒い煙が立ち込める。だが、何の反応もない。
「……よし!」
「……やったね!」
俺とアイシアはその場でハイタッチ。リュッカは少し離れた場所でほぉ〜と息を大きく吐いた。
そして、それを荷馬車から少し顔を覗かせて見ていたアソル達は驚いた顔している。
「す……すげぇ……」
――だが、次の瞬間。
――ダダンッッ!!
凄い勢いで降ってきた何かは地面に着地すると大きな音を鳴らす。
――ビュッ!!
その音に気付き、バッと素早く向くが、音の鳴った場所には何もいなくなった。だが、気配は感じていた。
上に気配を感じ、空を見上げると、太が陽の光で眩しくて上手く見えなかったが、一瞬見えたシルエットで何か瞬時に理解した。
「――なっ!?」
改めて見直すが間違いない。そのシルエットの正体はラビットフットだった。




