41 最弱の三人
俺達はタイオニア大森林の真ん中辺りにいるらしい。
らしいというのもここの場所が分かっているのは運び屋としてここを通る事もあるバトソンさんの目印にしている木があるらしい。どれも同じ木にしか見えん。
「や、やあぁー!」
「もっと踏み込まねぇか! 魔物相手に躊躇してんじゃねぇ!」
怒号のような激しい指導が行われている。今現在、魔物と交戦中……と言っても戦ってる魔物がこれじゃあ……。
毒々しい赤と黄色の水玉模様の傘が特徴的な巨大キノコを相手にしている。柄の部分には人相が浮き出ている。所謂人面キノコだ。
トコトコとよたよた歩きをして動くキノコに対し、慎重に剣を構えるアソル。相手の動きをじっくり見ているようだ。
「はぁ……」
思わずため息が出る。この人達、本当に魔物を倒した事がないと断定できる。昨日襲ってきたラビットフットよりも一回りくらい小さく、トコトコ歩くキノコに対し――いやまあ、現実にこんなキノコ歩かれても困るが――ここまで慎重な辺りが断定要素と言っていい。
他二人も……、
「く、来るなぁーっ!?」
見た目だけは一丁前のラッセはヒュンヒュンと柄頭や鍔がカッコ良く装飾されている剣をまるで子供がお遊びで棒を振り回すが如く、危なっかしく振り回す。
剣の使い方、間違えてるだろ。この世界の人間じゃない俺でももっとマシな使い方ができると思えるほどだ。
「ね、ねぇ? このキノコ、何もして来ないよね? ねぇ?」
クリルは大斧を盾とでも勘違いしているのではないだろうか。両刃斧を構えもせずに盾のように使い、後ずさる。
いや、このキノコは魔物なんだから襲ってはくるよ。
わなわなと何かが込み上げてくる様子を見せるザーディアス。何が込み上げてくるかはお察しの通りです。
「てめぇらやる気あんのかあぁーーっ!!!!」
そりゃそうなりますよね。荷馬車から頬杖をついて彼らを眺めながらまた、ため息を漏らす。
「はぁ……これ、いつになったら進むんだ?」
この光景を見るのは何度目だろう。Dランク……いや、最弱パーティ三人は正座をして並んでいる。様になってきている。
その姿を見たザーディアスは最早、いつものひょうきんな態度など出す余裕もない程、呆れ果てる。
「……まさか、ここまでとは思わなかった。おめぇらマジでよくこの依頼受けようとしたな」
「全くだよ……」
コイツらからすれば元々王都まで匂い袋を使って、楽々依頼達成のつもりだったのだろうが、予定が合わないからと無責任に依頼を断ろうとしたり、女の色目に当てられて、匂い袋を下手な使い方をして夜這いに来たり、魔物一匹倒すにもド素人な対応。
コイツら、何で冒険者になった!? マジで運び屋とかになった方がいい。後で絶対、冒険者になった理由を聞こう。別の意味で興味あるわ、マジで。
「ご、ごめんなさい……」
謝る姿や言葉までここまで似合う人間もなかなか珍しい。
「まず、アソル。お前は慎重に事を運び過ぎだ。もっと豪快にとまでは言わねぇが、相手だって殺す気で襲ってきてるんだ、もっと的確に行動しろ! 身体を動かせ! 躊躇するな!」
「は、はい!」
おっさんがちゃんとアドバイスしてる!? これはガチでヤバい。色々な意味で。
「次、金ピカ坊主! てめぇは女を夜這いする根性はどこ行った? そんだけ防備してりゃあ、この辺の魔物から怪我なんか受けねぇよ! もっとしっかりそのご大層な剣を構えて、しっかり斬り込め! いいな!?」
「いやぁ、でもさぁ……魔物って怖いし――」
「だったら冒険者なんて辞めろおぉ!! 田舎にでも帰ってママのお乳でも吸ってろ!!」
「ひぃ!?」
全く同意見だ。コイツ、形から入るタイプな挙句、ヘタレの割に変にプライドが高いところがあるから厄介だ。
「次、クリル!!」
「は、はいい……!!」
クリルは怒られるのを分かってか、既に愚図っている。顔は涙と鼻水だらけだ。
「まずはその根性なんとかしろ! 何でそんなに臆病なのに嬢ちゃん達のところに行ったかね……」
おそらくラッセと一緒に行って、便乗してたから安全と思ったのだろうな。
「お前さんは考え過ぎだ! 魔物なんて襲ってきて当たり前なんだ。フレンドリーな魔物なんていてたまるか!」
想像しただけで……それはそれで怖いかも。
「とにかくお前さんは直感で行動できるようにしとけ! いいな!?」
「はい! ごめんなさい!」
「おっさん、ご苦労様……」
俺はおっさんに労いの言葉をかける。驚かれると思ったが、素直に受け取った。
「おう、ありがとさん……銀髪嬢ちゃん」
疲れ果てる様子のザーディアスは哀愁が漂う。それを見てかちょっと拗ねるように頰を赤らめそっぽを向く。
なんか調子狂うなぁ。
すると何やらメモを取るリュッカの姿があった。
「何してるのリュッカ?」
「えっ? ザーディアスさんのアドバイスをメモしてたの。私もこれから騎士学生として頑張る訳だし、参考にしようと思って……」
真面目な娘だねぇとザーディアスは言うと再び三人へと向き直す。
「赤毛の嬢ちゃんの方がお前さんらより、よっぽど立派じゃねえか。男として情けねえとは思わねぇのか?」
三人は情けなさそうに俯くが、俺は容赦なく言い放つ。
「思ってないんじゃない? 守らなきゃいけない依頼主の貞操を奪おうと企んだくらいだし……」
「銀髪嬢ちゃん……容赦ねぇな」
三人も言葉が出ないようだ。言い過ぎとも思ったが、もし、当初の予定通りこの三人とアイシア、リュッカだけのメンツで行かせてたらと思うとゾッとしない。
コイツら匂い袋に頼り過ぎだろ! 旅なんて何があるのかわからないだろ、普通!
「……とりあえずさ、先進もう」
もうこの三人は当てに出来ない……そう考えた。




