38 生々しいシチュー
大量の魔物から逃げ切った一同。森の中の少し開けた場所で野営をする事に。
「バトソンさん、今日はどこまで進んだんですか?」
地図を広げて唸りながら現在地を探すバトソンに尋ねた。
「ごめんねぇ。こんな無茶な森の進み方をした事がないから、もう少し待ってくれないかい?」
そう言うと少し周りを散策するとこの場を後にする。一方でDランクパーティ三人はもう指一本も動かせない様子で倒れ込んでいる。
「あの……ザーディアスさん、これ……森を抜けるまでやるんですか?」
「あん? そんな訳無いだろ。匂い袋の反動はここまでだ。ここからはまあ……マシにはなるだろう」
三人は心から安堵するが、ザーディアスはスパルタなので。
「だが、まあ殆どお前さん達にやらせてやるよ。ここら辺は雑魚しかいねぇからな。それに……」
ザッと三人の前で仁王立ちを決めると説教する。
「さっきの体たらくは何だぁ? 馬車が走り続けてる間、殆ど……いや、全部おじさんや銀髪嬢ちゃんが倒してたじゃあねぇか。えぇっ!」
確かに魔物の殆どは俺の闇魔法かおっさんが薙ぎ倒してたっけ。ていうかこのおっさんマジ強いな。
結構な速さで走る馬車についてきながら、来る魔物来る魔物、どっかどか倒してたからな。
未だに獲物も見せんし……あの黒い布に隠された武器を使ったらもっと強いって事だよな。
おどおどしながら必死に言い訳をする三人。
「いや……あの……」
「こんな鎧着て全力疾走しながら魔物倒せとか無理言うな!!」
「そう、走りながらなんて――」
「それじゃあ、手早く特訓ができねぇだろ。生意気言ってんじゃねぇぞ……ガキどもが!」
「――ひぃ!?」
ザーディアスのスパルタ教室が絶賛開校中の中、こちらはせっせと食事の支度をするが、トラウマ光景が再び。
ザシュッ! ……ズル。
リュッカは先程のラビットフットを一体ずつ丁寧に解体していく。腹に解体用だろうナイフを入れて、赤黒い血が流れでる。そこからくちゅくちゅと内臓に触れる音を鳴らしながら魔石を取り出す。
それを終えると内臓を開いた腹から取り出す。傷つけないように丁寧に作業する。
ヤバイ……また、吐き気が。
胃の中がぐるぐると掻き乱される感覚。
「ご、ごめん……ちょっと向こうで休憩してくる」
顔を真っ青にしてよたよたと荷馬車へ向かう俺にアイシアは寄り添う。
「大丈夫? 私もついてくよ」
だが、それを見ていたのは俺だけでなく、スパルタ教室の生徒さん達も見ていた。
「…………す、すごいですね……リュッカさん」
「気持ち悪りぃー……」
「リュッカさん、素敵……」
「おいおい、丸坊主くんよぉ。勘弁してくれ……」
そんなこちらの心境もつゆ知らずザーディアスに追加の仕事を要求する。
「すみません、ザーディアスさん。回収したラビットフット、まだありますよね?」
「お、おう。あ、あるぞ……」
ザーディアスは腰に付けているポーチ型のマジックボックスからずるりとラビットフットの死体を取り出す。
「何羽いる?」
「全部やってしまいますね。ザーディアスさんのマジックボックスにご迷惑をかける訳にはいきませんし……」
血で汚れた一本のナイフ両手に笑顔。これは怖い。
「ほ、ほどほどにしねぇか? 赤毛の嬢ちゃん……」
「いえ、皆さんもお疲れでしょうし、疲れを取る為には沢山食べて頂きたいので……」
嫌な予感がよぎるスパルタ教室生徒、先生。先生待ったをかける。
「待て待て嬢ちゃん。お前さん何を作る気で?」
ニコッと血で少し汚れた顔で無邪気な笑顔で質問に答えた。
「ラビットフットのシチューです。栄養も満点で――」
「シアちゃーん!! 銀髪嬢ちゃーん!! 旦那ぁー!! 誰でもいいから料理作ってぇー!!」
助けを求め、叫ぶおっさんの声も虚しく、この後に作られたシチューは無事、皆の腹の中へと食された。
 




