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問おう! 貴方ならこの状況、歓喜しますか? 絶望しますか?  作者: Teko
2章 王都までの旅路 〜残念美少女から普通の美少女になります〜
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37 激走!! タイオニア大森林

 

 ――タイオニア大森林。クルーディアから南の街道を行く先にある大森林だ。この森林地帯は魔物の生息数や種類も多く存在するものの、Eランクからどんなに高くてもBランクくらいの魔物が多く生息している。


 それに森という環境上、かなりの実践経験を積めることから多くの冒険者や王都の騎士まで訓練に使われる事もあるらしい。


 さらにさらに、迷宮(ダンジョン)も豊富に存在する。その迷宮(ダンジョン)は、アルメリア山脈にあるのとは違い、レベルが低いところが多い。魔物を討伐して経験を積み、更には魔石でお財布まで潤うとまさに一石二鳥。


 つまり、この森林地帯は初心者冒険者が実践を積むにはうってつけの環境なのである。


 ――そんな森林地帯を今、絶賛激走する馬車が二台、存在する。


 豊かな大自然の中、最低限の道の確保がされている道を激しい蹄の音と共に、土を削り、石がぶつかり続けるような音が激しくなる。


「はぁ……はぁ……ちょっと、待って……」


 疲れ果てた声を出しつつも必死に食らいついてくる声が聞こえる。


「くそ……こんな筈じゃ……なかっ……たのに」


 趣味の悪い鉄甲冑男は鉄の擦れる音を激しく鳴らしながら激走する。


「おね……お願い……置いて……いか……」


 丸刈りの斧戦士は遠く見える。声も届かない。


「おっさん〜!! クリルが〜!!」


 激しく車輪が土を蹴る。その音のせいか大きな声を出さざるを得ない。


「ほっとけ〜!! 死に物狂いでやりゃあ何とでもなる!! あっ……金ピカ坊主!! 横から魔物が来るぞ!! やれ〜!!」


「そ、そんな〜……」


 ラッセは全力疾走しながら、文字通り飛んでくる魔物に対処する。


 白い兎だが、足がやたらでかい。それに向こうの世界の兎より明らかに巨大だ。ドンッドンッと飛び跳ねながら大量に襲ってくる。


「こ、こここんなにラビットフットを見たたのはじ、初めてえぇ〜」


 ガタガタと激しく揺れているせいか声も物理的に震える。


「ででででも、何でぇえこんなにい」


 というのも完全に四方八方から足のでかい兎が襲ってくる。前方はザーディアス。ザーディアスの身長より少し長いくらいの獲物で薙ぎ払っていく。未だにこの人の獲物は分かっちゃいない。


 右にクリルだったはずなんだが、今は姿が無い。置いてきたようだ。左はクズ。鉄甲冑が重そう、うんそれだけ。自業自得。後ろはアソル、援護に俺、リリアが入る。


 馬車の運転はバトソンさん。荷馬車は連結して運んでいる。これだけの速度で激走しながらは大変だろうに。人間も馬も。


 しかし、ここで疑問に思う筈、なんで激走と考えた人。簡単です。効果が切れたんです、匂い袋の。


 匂いがやめばそこに人間がいると判断がつく。おっさんが言ってた事はこれかと無数の兎が襲いかかってきている。


「あ、あの、だ大丈夫ですよねえ」


 手綱を強く握りしめ身体を激しく揺らし、馬を操るバトソンが尋ねる。ザーディアスは跳躍しながら馬車に近付く魔物を、まるで小虫でも払うかのように無造作に薙ぎ払う。


「おう! 旦那! 大丈夫大丈夫! 旦那はとにかく引き寄せられる魔物が居なくなるまで全力疾走な! 応えるかもしれねぇが、文句なら金ピカ坊主にでもいいな」


 その金ピカ坊主は全力疾走しながらこちらもまた無造作に剣を振るうが、ザーディアスのように上手くいく訳も無く、魔物は群がる一方である。


「ひぃ……走りながら……はぁ、ひぃ……戦えとか……どういう……神経して……んだあのおっさん!!」


「金ピカ坊主!! おじさんの悪口言う元気が有り余ってるなぁ! でもこれ、お前さんのせいでこうなってるんだ、頑張れよ」


 走りながら聞き耳を立てていたザーディアスは喝を入れる。周囲の警戒を怠っていない証拠だ。


「しかし、まあどうしてラビットフット……だっけ? ばっかり襲ってくるんだ?」


 当然の疑問である。馬車は激しく走っているとはいえ、飛んで襲ってくる魔物なんて結構いる。そんな中、ラビットフットだけがこんなに大量に襲ってくるのは不自然だ。


「リリリリィはなっ……んん、何でちゃんんと喋れるのの?」


 馬車が跳ねた。


「……まあ、二人と違って立ってバランス取ってるからね」


「なな、なるほど……」


 二人は危ないながらもふらつきながら立ち上がる。そして、先程の疑問に答えてくれた。


「多分なんだけど、ラビットフットは耳がいいからじゃないかな?」


「それだけ? 鼻が効く魔物の方が感知しやすいんじゃ……」


「いや、匂い袋の匂いって相当らしいから、そこまで鼻が効かなくても感知できるんじゃないかな?」


 ラビットフットを見る。白い硬そうな毛で覆われた紅い眼の兎。アンバランスなデカイ足でバンバン跳ねながら追いかけてくる。


「つまり何? 音と不快な匂いを放っていた馬車を素早く感知したラビットフットがあのデカイ足での跳躍力を生かして一番乗りしたって?」


 その推理を聞いたザーディアスは荷馬車の屋根に乗り、讃える。


「お、その通りだ。正解だぜ、銀髪嬢ちゃん」


「はは……笑えない冗談だ。兎と亀じゃないんだぞ」


「兎と亀?」


「何でも無い……」


 ひいひいと苦しそうに走るアソルを見ながら荷馬車に乗る俺達は呑気に推理をする。


「銀髪嬢ちゃん、こっちの二人の対応が出来なくなってきてる。ホワイトグリズリーを倒した魔法でもかましてやってくんねぇか?」


「はぁ……しょうがないな」


 荷馬車の中で詠唱を始める。こんな森の中だ。火の魔法はやはり使えない。


「――闇の王よ、その宴に我も交えよ、踊れ踊れ……黒き影よ、さあ踊れ!」


 意識を……イメージをこの馬車の周りを空間認識する。


「――シャドウ・ダンス!!」


 馬車の周りの影や魔物達の影、走っている二人の影から鋭利な刃のような影が伸びて出る。その影は的確に迅速にラビットフットの身体を貫通する。


 周りにはピクピクと痙攣するラビットフットの赤黒い血が撒き散らされる。それを見たラッセは情け無い悲鳴を上げる。


「ひ、ひいぃぃ……」


「銀髪嬢ちゃん、エグいねぇ……」


「……やらせたの、おっさんでしょ?」


 馬車はラビットフットの大量の死体を置き去りに森の中を走っていった。

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