36 スパルタで行こう
「あー……嬢ちゃん達、じゃれあってるとこ悪いんだが、解決はしてねぇよ」
はっとなり、ガバっと立ち上がる三人。
「わ、分かってるよ……」
ここでバトソンが渋々提案してくる。
「やはり、これを使おう。帰りは王都で買ったものを使う事にするよ」
「でも、匂い袋って高いんじゃ……」
二つ目の匂い袋を持つバトソンは優しく微笑む。
「リリアちゃんの為なら安いもんさ。子供がそんな事気にしなくていいんだよ」
そうは言うが匂い袋は魔物をかなり強力に寄せ付けない効果があるため、高い割に人気もあり、品薄もしばしば。
例え王都でも見つけるのは難しい。見つけたとしても物価が高いため、おそらく値段がつり上がっている。
「だったらせめて、匂い袋はコイツらに出させればいいんじゃない?」
弱々しい声で否定する。
「む、無理だよ。僕達もこれを買うのにどれだけ苦労したか……」
同情は買わない。攻め立てる。
「責任は取るものだよね? 匂い袋を使ったのはそこのバカ二人なんだから」
「お、俺はやめようって言ったんだが、こ、コイツが……」
「ええっ!? ラ、ラッセさん!?」
ダンっとザーディアスは黒い大きな布で覆われた獲物を正座する三人の前で叩く。
「おいおいおい、見苦しいねぇ。女をヤろうとした根性はどこいった?」
「ひっ……」
やっぱりこのクズ、反省してない。クズはクズのままか。
ザーディアスは獲物を引っ込めると肩へ担ぎ、解決策を提案する。
「もううだうだ考えてもしょうがねぇ、こうしよう……」
ニヤッと何か悪いことを思い付いた顔だ。
「コイツらを鍛えよう」
「は? 今から?」
何考えてるんだと表情に出たのか、やめろよ傷つくとおっさん。
「なぁに簡単な事さ。これから森の中にゃあ魔物がうじゃうじゃ出てくるだろうな。今まだ、匂いがついてるであろう……この馬車どもから匂いが取れればな」
今、馬車にはまだ匂い袋の効果が持続しているようだ。バトソンも袋の中の減り具合からそうだと断定。
「それだと一溜まりも無いんじゃ――」
「大丈夫! 嬢ちゃん達と旦那はおじさんが責任を持って守ってやるよ〜」
うりうりと人の頭の上を肘でぐりぐりとする。
「じゃあコイツらはどうするの……よ!」
おっさんの腕を振り払う。
「言ったろ? 鍛えるって。来る魔物、全部やらせる」
「――っ! あ、あのザーディアス……さん?」
わなわなと三人は震えながら恐る恐る尋ねる。そんな様子も御構い無しに豪快に笑いながら罪悪感をえぐる。
「なぁに大丈夫。嬢ちゃん達を襲う元気と根性を魔物に当てりゃあいいだけだ。……簡単だろ? 特に金ピカ坊主」
「ひぃ!? そ、そんな……」
自業自得だ。アソルさんには悪いが、連帯責任だ。地獄を見てもらおう。俺は更に追い討ちをかける。
「ついでに今回の依頼の報酬は無し。さらに匂い袋もさっき言った通り、貴方達が払うこと」
「そ、そんな割に合わねぇ――」
「おいクズ……本気で反省してんのか?」
ゴミ虫でも見るかのように見下す。ラッセは今までで一番肝を冷やす。
「は……はい、ごめんなさ――」
「だったら不意に今みたいなセリフ出て来ないよね……」
下等生物でも見るかのように見下す。ラッセだけでなく、Dランクパーティ三人とも肝を冷やす。だが、顔には大量の汗が滴り落ちる。
「お、おお……銀髪嬢ちゃん。マジ怖えな」
「う、うん……」
おっさんどころかリュッカ達とバトソンさんにも怯えられた。
んっんんっ!
「……分かった?」
「はっはい! 分かりました!」
「宜しい」
立場と状況も確立する。重くしてしまった空気を払拭する。こんな空気にしたの自分だし。
「じゃあパパッと準備して出発しよう!」
精一杯明るく笑顔で言ったが、さっきの事があってか余計に怖がられた。




