29 心細さ
俺達はクルーディアを出発し、次の町を目指す。現在、見晴らしの良い街道を走行中。
次の町はラバという商業の街らしい。この国では有名な大きな商業街。ここまで行ければ王都までは目と鼻の先だという。
だが、この街までの道のりがクルーディアからは遠く、ちょっと大きな森を抜けなければならず、必然的に野営は避けられない。
「――へぇ〜……王都の学園に。そりゃ大したもんだ」
「いやぁ〜、それほどでも……」
で? このおっさん、何でこっちに乗ってるんだ?
クルーディアで決めた荷馬車の乗る人員は――先行している荷馬車にDランクパーティの三人……アソル、クリル、ラッセとおっさん、その後ろの荷馬車にバトソンさんと俺を含めた女子三人のはずなんだが、
「――何でおっさんがここにいるんだよ!」
このおっさんは平気な顔してここにいる。
アイシアと一緒にくるっとこちらを向き、何で怒っているのか疑問なんですけど〜みたいに首を傾げる。
「まあまあ、リリィちゃ〜ん。お前さんは興奮すると口が悪くなるなぁ」
「そうなんですよ。なんでもリリィ、お母さんが豪快な人らしくて――」
「アイシアは律儀に答えなくていい! あとおっさんはリリィって呼ぶな!」
激しくツッコミを入れる。この天然とお調子者の二人の相手はどっと疲れが出そう。
「そう言いなさんなよ、リリィ――」
ヒュンと素早く杖を無言で睨み突き付ける。
「銀髪嬢ちゃん……」
俺の態度を見て言い直すと、俺は無言で、すすっと杖を戻す。
「で、何でここにいるわけ?」
「だってよ〜、あっちはヤローばっかでむさ苦しくてさぁ、おじさん、女の子成分が欲しいんだわ」
再び無言で杖を突き付ける。アイシアはそんな俺を見るとおっさんを庇う。
「いいじゃないリリィ。このおじさんと話してると楽しいしさ……」
「あのね……」
「こっちの銀髪嬢ちゃんと違って、赤毛ちゃんも灰色ちゃんも優し〜いねぇ」
おっさんは甘声を出して居座る。
このおっさん調子に乗りやがって。あまり気を許しちゃダメな気がするんだがな。
節度は守りそうだけど、いかんせんこの余裕のある態度に油断してはならないと思うわけで。
「でも、リリアちゃんも一緒に行けるなんて思わなかったよ」
「あの時は何かごめんね。カッとなっちゃって……」
今思えば反省する事ばかりだ。結構自分勝手だったと自覚している。リュッカに暴言が吐かれていたとはいえ、感情的になり過ぎた。
でも、何でだろう? 別に俺自身、そんなに感情的な性格ではなかったと思うのだけれど?
リュッカは首を横に振る。
「ううん。私達を心配して怒ってくれたんでしょ? ありがと」
「……!」
ふと感情的になった理由に気付いた。ここに来て心を許せる存在というのがいなかった。けれど、リュッカ達は多少は助けてもらった影響もあるのだろうが、優しく接してくれた同年代。
俺にとってどれだけの存在になってくれただろう。向こうの世界でいた何気なく出来た友達も、今の状況を思えば、大きな存在だったと気付く。
ふと切ない表情を浮かべる。
ちくしょぉ……弱いなぁ、俺。
俺は臆病で怖かったんだ。一人になるのが。




