04 状況確認
こんな非常識な状況に肩を落とすが、とりあえず彼女になってしまったことは置いておき、一旦状況確認から始めることに。
再び周りを見る。やはり何度見ても地下の物置だ。特有の薄暗さと肌寒さ、静けさを感じる。
酷く混乱していたせいか今まで気付かなかったが、ズキズキと脈打つような小さな痛みを指先から感じる。
ふと痛みの先を見てみると、
「げっ、何だこれ」
指先が刃物で傷つけた跡が大量についていた。
ふと虐待でも受けていたのかとも頭を過るが、指先以外に外傷はないようだ。頭がふらつくが指先以外の痛みを感じない。
「こんなに綺麗な指なのに……ひどいな」
か細い傷ついた指を見てポツリと呟いた。
そんな時だった――指の間から床が見える。
「ん?」
何か書かれているようだ。ぼんやり照らすところにうっすら見えるのは、よくゲームやアニメなどでよく見かける魔法陣のようなものだった。
だが、その滲んだ色には覚えがある。それを見た瞬間、背筋が凍る。
「おい、これ、血じゃないか……?」
薄暗い中でハッキリとは分からないからと、恐る恐る魔法陣らしきものの近くへ行き、上から覗くように確認を行う。その床に擦れた跡は見覚えのある赤黒い色をしている。
間違いない、血だ。
「――おわあっ!? ――つぅ……!」
思わず後ろへ仰け反り、尻込みをつく。その拍子についた手の方から痛みが流れてくる。
その時、自分の手を見て気付く。
「まさか、この魔法陣を書いたのってこの娘か……?」
座り込んだまま、もう一度魔法陣の方へ目をやると、魔法陣の近くに刃の部分が血で汚れているナイフが転がっていた。
息を呑み、動悸が激しくなるのがわかる。
そんな得体の知れない恐怖心を鎮めようと深呼吸を小さく繰り返す。
落ち着くんだ俺、状況はこうだ。
彼女は何かしらを行うために、自分の指を切った血でこの魔法陣を作成。成否はわからないが、俺が巻き込まれ、彼女の身体に入ったってことか……?
ふと色々疑問が残る考察となってしまった。魔法陣の作り方とか知らないが、この結果は彼女の望むところではなかったのではないかなと思う。
自分の身体が他人に乗っ取られるなんて、普通に考えなくたって嫌だ。
身体を起こし、立ち上がると太もも辺りにふと何かの違和感に気付く。スカートのポケットの中に入っているようだとポケットに手を入れると、カサッと枯れた音が軽く鳴った。
ちょっとクシャと折れてしまった紙を取り出す。紙質は元の世界と変わらない触り心地だ。
「メモ?」
その取り出した一枚の紙を広げる。何やら長文で所狭しと文字が書かれている。俺の知らない文字の筈だが――、
「……読めるな」
これもおそらくだが、俺は別世界の人間だが彼女はこの世界の人間だ。だから読めるのだろうと思うことにした。深読みしても今はしょうがない。
「何々……」
読めるのでとりあえず読んでみることに。もしかしたら元の世界に帰れる手掛かりとか書かれているかもしれない。
だが、一文目からその考えは一掃される。その書き出しを読むと一気に顔から熱が消えるように真っ青になり、血の気も引いていく。
「おい、これって……」
――拝啓、パパ、ママ、娘の先立つ不孝をどうかお許し下さい――。
「遺書じゃねえか……!」