20 お待たせしました。お風呂です
「ふう、今日も色々あったな……」
道具屋夫婦の自宅のお風呂脱衣所。庭の少し離れた小さな木の小屋の中である。
――この世界のお風呂事情を説明すると基本、都会、この世界では王都や貴族などが風呂を設置してあるらしく、一般的な平民にはシャワーくらいが普及している程度だ。
後で聞いた話だが、この道具屋はその筋で見せてもらったのを真似てヨッテが手作りで作ったらしい。ウチは元冒険者が貴族との依頼の際、泊まった時に所帯を持ったら欲しいとこちらも自力で作ったらしい。
中の造りはかなり質素。脱衣所は服を置く場所のみで洗面台がない。脱衣所と風呂場を遮る扉は無く、丸見えだが、一人で入れば問題ない。
しかし、手作り感ハンパないな、この世界の人はホントパワフルだ。
風呂場には樽状の浴槽が我が物顔で居座る。この浴槽に使われている木はおそらく湿気りにくい素材だろう。勿論、お湯が横から溢れないよう、頑丈に作られているようだ。
一枚一枚、ゆっくりと脱いでいくが、正直まだ慣れない。男とは違い、凹凸のある身体から衣服を脱がせていくこと。
この背徳感を感じつつも、日本人としてやはり湯船には入りたい。
湯気が薄く部屋内を覆う。ふと上を見ると空気が出る穴だろうか。湯気が抜けていくのが確認できる。
全て脱ぎ終わり、白いタオル一枚ですぐ横の風呂場へと足を踏み入れる。
浴槽の中にはやはり魔石がいくつかあった。この魔石は魔力を込めると水と火の属性魔法が同時に発揮されお湯となり、浴槽を満たす仕組みとなっている。湯加減や水の量は流し込む魔力に応じる。
「熱っ……」
軽く身体にお湯をかけると、湯船に入る前に身体を洗う。
使わせて頂いてるため、マナーは守りますよ。
柔肌を傷つけないような優しい手つきで身体と頭を洗い終えると、いよいよ湯船へ。ゆっくりと細く白い足を入れながら、しっかりと身体も沈めていく。
彼女の裸に慣れず、少々のぼせたりもした時期もあったが、慣れとは恐ろしいもので相変わらず緊張はするものの、お湯を楽しむ余裕くらいは出来るようになっていた。
元々、熱い方が好きなところは、両親の渋い趣味が反映されているのだろうか。
「んぅ……やっぱり、湯船に入れるのはいいなぁ。ふう……」
艶っぽい声を上げつつ、異世界でもしっかり風呂に入れる事に感謝。
今日は友達が出来た。出会いこそ衝撃的だったものの、やはり気兼ねなく話せる友人というのは有難い存在だ。あの二人とは仲良くやれそうな気がする。
ちゃぷ、と水音が鳴る。浴槽に頬杖をつき、寂しそうなため息を吐く。
「……あいつら、元気かな。父さん、母さんも……」
気分は少しホームシックだ。ここまで結構ドタバタしていたせいか、腰を据えて考える時間が無かった。
異世界に飛ばされて性別が変わるどころか別人の身体での生活。理由もある程度把握してしまっているせいか、生意気にも同情して現在に至る。
挙句、今日魔物とも遭遇した。今回は運が良かったものの、次は上手くいくか分からない。
元の世界に帰れるかも元の身体に戻れるかも分からない。不安要素はいっぱいあるのに、誰にも相談はできない。
こんなにも不安を煽られ、心苦しい思いをするだろうか。




