16 偶然
辺りはもうすぐで真っ暗になるところ。青白い月が世界を照らし始める。どこの世も夜とは中々幻想的な雰囲気である。
その暗闇の中に色と音を呑み込み、月明かりや光放つものが黒の世界に彩りを与え、新たに紡ぐ音が静寂の中に響く世界。
ここにもまた、静寂の世界に音を紡ぐものが――辺りの音が消えたせいだろう、蹄の音が昼間よりも響く。
「まだ、着きませんか?」
辺りは暗くなり、魔物の事や怪我人の事もあるため、不安そうに尋ねた。
「大丈夫、もう少しだよ」
察してだろう、優しい笑顔と口ぶりで答えてくれた。
「クルーディアに着いたらどうするの? 二人は」
この二人はクルーディアで冒険者と合流するという話らしい。その話に多少なりとも興味は湧く。
冒険者と言えば異世界転生、転移の定番。ギルドに所属していて……がいわゆるテンプレ。
俺もこんな形じゃなかったらギルドに所属して自由気ままな冒険者生活とか、他愛ない依頼から世界を救う為の……ほにゃらら的な展開とか、素直にチート能力で無双とか、そうゆうテンプレがあってくれても良かったと思うが。
まあ、今さっきの属性の話を聞く限り、リリアも割とチート貰ってるんだよね。
「私達はとりあえずギルドに向かって依頼の確認をして来なくちゃ」
「そうだね」
「冒険者を護衛に連れて、何処に向かうつもりなの?」
「王都だよ。私達、王立魔法学園に通うんだよっ! スゴイでしょ?」
「アレ? 私もだけど……」
「えっ?」
三人してほうけた顔して見つめあっていると、すぐに笑いあった。
「あはははっ! 何それ、スゴイ偶然!」
「そうだね、スゴイね」
「ふふ、びっくりだよね」
そこでふとアイシアは本当に同じ学校なのかなと言い出し、荷物を漁り始めた。
「……あった」
手に取り出したは入学許可証。丸められて紐で軽く結んで保管されている。文明的にファイルとか無いからね。
しゅるっと紐を解き、中身を見せてきた。
「この学校だよね?」
家で確認したのと同じ物だ。一応、自分のも確認してみる。
「うん。同じだね」
「じゃあ……これから一緒の学校だねっ!」
「――きゃあっ!?」
アイシアが再び抱きついてくる。心臓に悪いよこれ。女の子ってスキンシップ激しくないですか?
同じ学校とわかってから少し黙り込んで考えているリュッカが疑問を口にする。
「でも、リリアちゃん……いたっけ?」
「へ?」
「だって入試は確か同じ日のはずだし、リリアちゃんほど目立つ銀髪さんだったら気付くはずだけど……」
アイシアに抱きつかれて顔を真っ赤にして動揺するのとは一転、今度は別の意味で動揺する。真っ青である。赤くなったり、青くなったりと忙しい主人公です。
あれ……? もしかして合格してない? いや、ここに入学許可証もあるし。まさか、盗んで……いやいや、そもそもリリアの自殺理由に学校の合格は入ってたし、そんな事はないはず。
あーだのこーだの考えていると再び後ろから、今度は笑い声が聞こえる。
「リリアちゃん、そんなに心配しなくても大丈夫だよ。君のお父さんが村中走り回って、合格報告してたから間違いないし、入試の時だっておじさんとお母さんとで行ったろ?」
「……はは、そうでした」
あの溺愛父め。……バトソンさんは今のこの状況から一緒に行ったのはわかるが、母親って言った?
訊く訳にもいかず、俺の疑問を置き去りに馬車は走る。
ふと荷馬車から外を見ると遠くに明かりが見えてきた。
 




